11話 試験結果(1)
「こうして誰かとおしゃべりをしながら昼食の時間を過ごせるなんて、思ってもみませんでした」
王立貴族学院で、私は婚約者となったユベール様と昼食を共にしながら、おしゃべりをしました。
「私はずっとルシアン殿下の足を引っ張る悪役令嬢として、遠巻きにされていましたもの」
「おいたわしい……」
「それにしても驚きました」
私は試験結果の発表を見に行ったときのことを思い出して言いました。
「私が試験でルシアン殿下に忖度していたことを、ルシアン殿下がご存知なかったなんて」
◆
――先日、試験結果の順位が貼り出されたとき。
「あら、三位だわ」
私は自分の順位を見て、少しだけがっかりしました。
もしかしたら一位かもしれないと、傲慢にも期待していたのですが、三位だったからです。
(さすがにそこまで甘くなかったわ。皆様も頑張っていらっしゃるのね)
私はユベール様と婚約してから、学院が終わった後や休日に、二人でお出掛けばかりしていて学業を疎かにしていました。
疎かというか、学院で授業を聞く以外には勉強をしていなかったのです。
だって家では、ユベール様にプレゼントする予定のハンカチに刺繍をしなければならないので忙しかったのですもの。
「またフェリシア嬢に負けてしまいました」
私と一緒に試験結果を見に来たユベール様がくったくのない笑顔で言いました。
ちなみにユベール様の順位は四位です。
「やはりフェリシア嬢にはかないません」
私とまったく張り合う気がなくなっているらしいユベール様は、楽しそうにそう言いました。
私も学院の成績なんて、もはやどうでも良いので、ユベール様に同感です。
私たちって気が合うのです。
「私のことなど、追い抜いてくださってよろしいのに」
「そんな時間はありませんよ。フェリシア嬢との時間を作るほうが大切ですから」
「もう、ユベール様ったら」
「今日も帰りにカフェに寄りませんか?」
「ええ、行きましょう」
私とユベール様が、幸せいっぱいにじゃれあっていると。
突然、私たちの背後から鋭い声が上がりました。
「フェリシア、貴様、試験で不正をしただろう!」
私に向かってそう言ったのは、王太子ルシアン殿下でした。
「まあ、ルシアン殿下、ご機嫌麗しゅう」
「麗しくなどないわ!」
ルシアン殿下は眉を吊り上げて私を糾弾しました。
「私より出来の悪い貴様が急に三位になるなど不自然だ。何か不正をしただろう」
(ルシアン殿下ったら、何を言っていらっしゃるのかしら……)
私はルシアン殿下の婚約者だったときには、ルシアン殿下の成績を超えてはいけないという王妃様のご命令に従い、試験の成績はルシアン殿下より低くなるよう調整していました。
そのことで他の生徒たちが、私のことを出来が悪いと見下していたことは理解できるのですが。
当のルシアン殿下が王妃様のご命令を知らないというのは解せません。
本気で、私より頭が良いつもりだったのでしょうか?
あの成績で……。
仮に私が以前の成績通りの頭だったとしても、ルシアン殿下は、他人の成績を見下せるような成績ではないと思うのですが……。
だって百位より下って、みんな同じ穴の狢というか、五十歩百歩というか、ほぼ似たようなものでしょう。
「滅相もございません」
私は内心で呆れながら答えましたが、ルシアン殿下は居丈高に言いました。
「その男が、貴様の不正に加担したのだろう!」
ルシアン殿下は、私の隣にいるユベール様をビシッと指差してそう言いました。
ユベール様は笑顔でそれに答えました。
「お言葉ですが、ルシアン殿下、私よりフェリシア嬢のほうが成績は上です。フェリシア嬢より成績の悪い私が加担などしては、フェリシア嬢の成績を落としてしまいます。有り得ません」
「貴様はフェリシアの順位を上げるためにわざと手を抜いたのだろう。貴様が今までずっと首席だったことくらい私も知っているのだ。貴様はフェリシアのために手を抜いて四位になったのだろう」
「いいえ、殿下、私の成績が落ちたのは、フェリシア嬢と恋に落ちてしまったからです」
ユベール様はぬけぬけとそう言い、私を見つめました。
「まあ、ユベール様ったら」
「フェリシア嬢にはそれだけの魅力がある」
「もう、こんな場所でそんなことを言うなんて。そういうのは二人きりのときに言ってくださいな」
「ごめん、ごめん。つい本音が出てしまった」
私とユベール様がじゃれあい始めると、ルシアン殿下は怒気を露わにしながら私を怒鳴りつけました。
「ふざけるな! 素直に白状したらどうだ!」
そう言ったルシアン殿下に、細い声が加勢しました。
「そうですわ!」
それはルシアン殿下の新たな婚約者、ラルベル公爵令嬢セリーヌ様の声でした。




