01話 地獄の王妃教育
※短編の連載版です。
※10話までは短編と同じ話です(加筆修正してますが話は同じです)
「モンフォール公爵令嬢フェリシア、貴様との婚約を破棄する!」
王太子であるルシアン王子殿下は、きりっとした表情で高らかに宣言しました。
「王妃教育を投げ出すような女は、王太子妃にふさわしくない!」
「はい、殿下。おっしゃる通りでございます。婚約破棄、承りました」
私は優雅に微笑んでそう答えながら、心の中で快哉を叫んでいました。
(やりましたわああぁぁぁ! 婚約破棄ですわあぁぁ!)
そう、私、婚約破棄したかったのです。
王妃教育があまりにも酷かったので……。
◆
――王妃教育。
それは、とても過酷で過酷で過酷な苦行でした。
ああ、この言い方では、王妃教育の風評被害ですわね。
王妃教育全般について貶める意図はございません。
この国の、現王妃による王妃教育が、とても酷いものだったのです。
◆
私、モンフォール公爵の娘フェリシアは、十三歳のときにこの国の王太子であるルシアン王子殿下の婚約者に決まりました。
王太子妃となることが決まった私は、王妃教育を受けることになりました。
(なーんだ、こんなの簡単ですわ)
王妃教育は最初は簡単でした。
私は王家が用意した一流の講師たちに、宮廷作法や歴史や公用語などを習いました。
それらは、すでに家で家庭教師に習っていたので、ほとんど復習のようなものでした。
「フェリシア様は大変ご優秀ですな」
「王太子妃にふさわしい」
「さすがは公爵家のご令嬢です」
講師たちは口々に、私を褒め称えました。
私は講師たち全員にお墨付きをもらい、王妃教育の基礎課程を終えました。
ええ、基礎課程、だったらしいです。
ここからが地獄でした。
「基礎が終わったら、次は、実践的なことを学んでもらいます」
基礎課程が終わった後、王妃様の直々の「実践的な」王妃教育が始まりました。
そして三年が経過した今でも、私は王妃様から直々に王妃教育を受けています。
◆
「フェリシア、今日中にこの課題を終わらせなさい」
その日の王妃教育でも、王妃様は厳しい表情で私に言いました。
「はい」
私は今日の課題に取り掛かりました。
昨年、私は王立貴族学院に入学しました。
学生となってからは、王宮に頻繁に通うことができなくなりました。
一週間のうち五日間は学院に通わなければならないからです。
そのため王妃教育は、週に一度となりました。
私は週のうち五日間は学院に通い、一日は王妃教育のために王宮に通い、残りの一日を休日とする生活をこの一年間続けていました。
(今日はそれほど難しくないわね。今日中に書き上げられそう)
学院に入学して週に一度しか王宮に行けなくなると、課題を「今日中に」と言われることが増えました。
もしその日のうちに課題が終わらなければ、翌日も王宮に来なければなりません。
そうなると一週間のうち一日だけの休日も王妃教育でつぶれることになります。
ですから私は、当日中に課題を終わらせるために頑張ります。
(ガイヤール辺境伯領は、野生種だったブルーベリーを改良したのよね)
ガイヤール辺境伯をもてなす晩餐会を想定して、その席で王妃としてガイヤール辺境伯にどんな言葉を掛ければ良いか。
それを考えて、文章に書くのが今日の課題です。
私は文章を綴り始めました。
(ガイヤール辺境伯には軍事についてねぎらいの言葉を掛けるのは当然として。ガイヤール産のブルーベリーに絡めて、ガイヤール辺境伯領の農業技術も称えましょう)
今日の課題は晩餐会を想定した場合の王妃の言葉ですが。
内政や外交などの政治問題も出題されます。
先月は、水害のあったラルベル公爵領を復興するにはどうすれば良いかという問題が出題され、私は当日に回答を作成できず、休日をつぶされることになりました。
私はその問いに、堤防の建設を国費で援助して推進するという回答を提出しました。
堤防の建設という事業を起こせば、職を失った人々を作業員として雇用することができて現地の貧困対策になりますし、堤防は未来の水害を防いでくれます。
「お昼になったら様子を見にくるわ」
私が今日の課題に取り組みはじめると、王妃様はそう言いさっさと退室してしまいました。
いつものことです。
王妃様の直々の指導による王妃教育といっても。
王妃様は私に課題を言い渡し、私が仕上げた課題を受け取り、「まあ良いでしょう」と素っ気ない感想を言うだけです。
この国の現王妃による王妃教育とは。
何の成果も実感できず、いつ終わるとも知れないもの。
現在地も目的地もわからないままひたすら暗闇を歩いているような、あるいはザルで水をすくっているような地獄でした。
ですがある日、ついに……。
私は、王妃教育の謎の実態をつかんだのです!
それは王立貴族学院の、試験の結果発表の日のことでした。




