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第3話 牛乳瓶と特ダネ!

「…なるほど、つまり黒森さんは、魔界の中にある死の霧の島出身で、お父様と二人暮らしをしていたが、魔界の王と政略結婚をさせられそうになったために人間界に来た…

趣味は墓場巡り、特技は魔法薬学、苦手なのは飛行術、実家でのペットは死体を隠した木馬…と」


「は、はい!フヒヒっ、私のことそんな聞きたがってくれて…やっぱりこふでさんは情熱的ですね…」


今にも溶けそうなほどの笑顔を浮かべる黒森に、いよいよ面白くなさそうな鄙寺。


「…こふで。もういい。もうたくさん話は聞いたから今すぐその女から離れて。目をそんなふうに合わせないで」


「ヒヒっ、ほ、他にも聞きたいことありますか…?あっ、私もこう言う関係になったからには、こふでさんのこと知りたいです!」


司馬に詰め寄る二人。司馬はメモを取り終え、椅子に座り直す。


「あっそれでは最後に一つ!その〜、コウモリの生き血?ですが、あれはいつも飲んでるんですか?どこから手に入れてるんです?」


「あっあれは!魔界から通販で…お水がわりにいつも飲んでます!魔力の補給にもなりますし…あっそうだ!」


スクールバッグから例の牛乳瓶を取り出す黒森。妙に粘度の高い赤黒い液体がどぷんと揺れ、黒い粉のような沈殿物が底の方で舞い上がる。


「の、飲んでください!!」


「う゛ええっ!?」


顔を引き攣らせる司馬。対して黒森は真っ赤な顔をして、両手で不気味な牛乳瓶を付きだしている。


「し、真の名前聞いてくれて嬉しかったです…!!ず、ずっと真の名前を聞いてくれた方が人間なら、こうしようって思ってて…。ほ、ほんとは柘榴とかがよかったのですが、これしか今…わ、私の気持ち受け取ってくださいっ!!」


「い、いやそれは…えっと…」


つい椅子を立って後退りを始める司馬。


「ぜひ!ぜひ!」


「ひ、鄙寺ぁ…」


目を黄緑色に輝かせ、ギザギザの歯を剥き出しにして迫る黒森。司馬が黒森にかまいっぱななことへの意趣返しか、鄙寺はつんとそっぽを向いている。


「えっと、く、黒森さん…」


突如、司馬の脳裏にある考えがよぎる。


(…もしかして、これを飲んで味のレビューをしたら面白いのでは…?この謎の液体が結局ぶどうジュースだったりしたら、めちゃくちゃ玩具にできるのでは…!?)


司馬がカッと目を見開き、高らかに宣言する。


「わかった!!飲ませてもらいます!!」


黒森の手から牛乳瓶をひったくり、瓶の中の赤黒い液体を思いっきり煽る司馬。司馬の喉仏が三回動き、牛乳瓶の中が空になった。


「こふでさん…っ!そんなに一気に飲んでくれるなんて…!」


目を輝かせ、胸の前で手を組むまどい。


「…」


空のの牛乳瓶に口をつけたまま、天を仰いで静止している司馬。口の端からたらりと赤黒いものが垂れる。


「…こふでさん?」


「えっこふで?ちょっと?」


「…」

異様な雰囲気を感じ取った二人が慌てだす。鄙寺の顔が真っ青になり、微動だにしない司馬を必死で揺さぶりだした。


「こふで!!こふで吐いて!!今すぐ吐いて!!」


「なっ…吐かせるなんてダメです!結婚には絶対必要なのに!!こふでさん大丈夫ですか!?わ、私の魔法薬…どっ、どこだっけ!?」


「うるさい黙れ厨二病女!ああ…ごめんこふで、私が止めるべきだった…!」


「こ、こんな強く反応するなんて…ああ…ごめんなさい…」


固まったままの司馬に下を向かせて、背中をバンバン叩く鄙寺。まどいはスクールバッグから一向に見つからない魔法薬を取り出すことを諦め、二人の周りをうろうろと彷徨き始めた。


「あっあっあの、私どうすれば…こっこふでさん…」


鄙寺は一向に吐き出す気配のない司馬に痺れを切らし、司馬の口に指を突っ込んでいる。


「こふで!!クソっ早く吐けこふで!!」


「はっ、吐かせればいいんですね!?わっ私!私できます!!」


「ちょっ、もう余計なことしない…で…」


振り返った鄙寺の目に映ったのは、先ほどまでの猫背でオドオドした少女ではなかった。


「え…?」


黄緑色に発光する粘液に覆われた真っ黒の触手に全身を包まれ、天井に届くほどの高さまで持ち上げられた黒森。その頭からは巨大な山羊の角のようなものが生え、瞳孔も黄緑色に光っている。


「吐かせるのは惜しかったんですが…」


触手を伸ばし、あっけに取られる鄙寺の手から司馬をするりと取り上げる黒森。そのまま触手の一本を司馬の口に捩じ込んだ。

司馬の口、いや腹の中から、液体が混ざるような粘着質な音が聞こえてくる。恐ろしいほど奥まで触手を突っ込み、何かを探すように掻き回している黒森。


「嘘…な、何してるの…いや…」


鄙寺の足の力が抜けて、埃っぽい床にへたり込んだ。黒森は黙ったまま、黄緑色に光る目を細めて司馬を抱いている。


そのまま数分が経過しただろうか。


「ゴホッ!!ウ゛エホッゲホッ!!オエエエエ!!」


司馬が大きくえづき、喉の奥から大量の赤黒い塊を吐き出した。


「!!」


「よし!これで…!」


触手の手から離れた司馬は、意識を取り戻したようで、自分で棚に手をついて立ち赤黒い粘液を吐き出している。吐き出されたそれは、床の埃や髪の毛をくっつけながら不気味にピチピチと跳ねている。


「すみません…に、人間がそこまで魔界のものに拒絶反応を示すとは思わなくて…」


鄙寺は机にぶつかりながら司馬の下に駆け寄る。


「こふで!!こふで大丈夫?!保健室行こう!!」


背中をさすりながら声をかける鄙寺。


「…て、」


「え?どしたのこふで!!」


「と、特ダネ…早速、記事に…して…」


司馬はそう言って鄙寺を見上げ、ヘラっと笑ってサムズアップをしてみせた後、


「こふでーーーーーーー!!」


また大量の粘液を吐き始めたのだった。

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