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社畜、番に選ばれる。  作者: あかね


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1/5

番と叫ばれた日

初日は二話更新、以降一日一話更新、全5話完結まで投稿済み。

よろしくお願いします。

 今日も遅れた電車。

 久美(くみ)はため息をついて満員電車に押し込まれる。もう、どーにでもなーれーなサンドイッチに自分の鞄だけ迷子にならないように抱きしめる。

 もはやミリも動かせんという状況で、見知らぬ誰かの背中に化粧がつかないよう頑張って引きはがす。

 がたんごとんと揺れる電車と遅れたことを詫びるアナウンス。定刻より15分遅れで到着しますというところだけ久美は聞き取れた。


 一駅約3分。5駅分というと大変近いように思えるが、それが国内で一番混む区間となると話は別だ。やはり自転車通勤を考えるべきではと半分寝た頭で考える。理性的な話で言えば、連勤と寝不足でやられた体では自転車で事故るのが目に見えているので今まで実行していないのである。


 駅に着く度に押し出されては押し戻される。流れ作業に皆慣れている。そこそこ良いポジションを取れたつもりがぎゅ! と押し込まれたりもする。すでに会社に行きたくない。久美だけでなく、ほかにもそう思っているだろう。


 もはや満員電車というイキモノの内臓のように一体化した自我のない生物のようで……。


「つかれてる……」


 久美は呟く。しかし、明日はお休み。待望である。録画だけしてみてないドラマを24時間流して、テレビの前の万年設置のこたつからミリも動かない予定がある。

 心の支えのコンビニスイーツとコーヒーを並べて、と夢想しているうちに久美の会社の最寄り駅に排出される。


 一つの群れのような流れに身を任せているうちに改札を通り越したあたりで久美は誰かに腕を掴まれた。いきなりのことに久美は悲鳴を上げ損ねた。

 なんだ、この野郎と久美が睨もうとした先にいたのは、想定していない相手だった。


 輝く笑顔の青年。犬歯がちょっと目立っていた。耳は久美が想定しているよりずっと上に。四つ耳属ではないらしい。そして、ぶんぶん振られるしっぽ。

 犬っぽい。狼の野生さはない。


「見つけた! 君こそが僕の番だっ!」


 見知らぬ青年にそう叫ばれたのである。


「……は?」


 予想外過ぎる言葉に久美は静止した。

 番。

 獣人の最愛ということはドラマで見たことがある。親戚や知人の知人というレベルでは話に聞いたことがあるものだった。

 昔はあまりなかったが、昨今の交通事情の進歩により遥かに見つけやすくなった、ということを久美は辛うじて思い出した。


 なるほど。

 人の多さには定評がある満員電車ならマッチングも可能かもしれない。

 で、誰が番だって? 久美は理解を拒みたい一心で周りを見回した。なぜか周囲に二メートルくらい空間が開いていた。この、朝の通勤ラッシュのど真ん中で。


「……私が、番?」


 言い逃れできぬほどに現場の証拠があった。


「そうです! ようやくお会いできました!」


 久美は人違いですと言いそびれ、勘違いですと言い募ったが、相手は頑としてきかなかった。お茶でも、どうかお話だけでもと言われてもそれどころではない。

 駅にある時計を見れば、あと5分で始業だ。

 そんな状況なのに、周囲は囲まれている。番だって、きゃーっ素敵という話が聞こえてきて頭が痛かった。


 久美は、今、仕事に遅れるほうがヤバい。


「仕事に遅刻するので」


 最終的にそう言えばついていきますと当たり前の顔していった。

 怖えな、獣人。

 久美は引きつった表情のままに、早足で職場に向かった。獣人の身体能力は驚異的だ。社畜が走ったところで撒けるわけもない。


 歩いている間に彼が言ったことは、シバという名前と学生だということ、犬系の獣人であること。それ以外は番にあえて嬉しいな、いつ一緒に暮らす? このまま一緒に家に行く? という世迷い言である。


 噂に聞いていたが、すっごいな、と久美はため息を付いた。


 久美も学生時代は番に見初められて溺愛というものに憧れたが、現実的にはブラック企業の社畜になった。夢も希望もあったものではない。

 というのに今、番と言われた。


 溺愛。


 なんか、仕事も、家事も何もかもしなくて良いのかなぁと遠い目をした。


 久美は予想通りに遅刻した。上司の嫌味を上の空で聞き流す。

 シバは会社の前で立ち止まって、では、帰りの頃にと大変恐ろしいことを言っていた。誘拐されちゃうんだろうか。

 もう、満員電車にも乗らないで良いのかなと思うとそれでも良いかなぁと揺れてきた。


「あの、退職するならどのくらい前に申請がいりますか?」


 上司の話を遮った自覚もなく、久美は突然そういった。


「あ? 退職? 他のやつが見つかるまで無理だ」


「労基とか行けば良いのかな、まあ、わかりました。はい。すみませんでした。

 仕事に戻ります」


 久美はそのままデスクに戻り、本日の業務を開始した。

 上司が他の同僚を捕まえて、あいつ、大丈夫か? と確認していたことには気が付かなかった。

久美:純人。入ったころはグレーだったのが年月を経るとブラック企業に!

シバ:犬系獣人。犬耳としっぽ装備。

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― 新着の感想 ―
ガチ満員電車を避けるための優雅な自転車通勤なんてのは幻想ですわ。 自転車は天候から守ってくれません。 んで頭働いてませんからね。いくらでも事故りかける。頭働くような状況なら、乗車時間帯ずらすだけでいい…
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