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石と魔法の街

アズラールは、魔法が息づく街だ。石畳の通りには、魔法灯が柔らかな光を投げかけ、市場の喧騒が昼夜を問わず響き合う。石造りの家屋が肩を寄せ合い、屋根の上では風見鶴が魔法の風に揺れる。街の中心には魔法ギルドの尖塔がそびえ、色とりどりの魔力結晶が夜空を彩る。行商人の叫び声、馬車の車輪の軋み、酒場から漏れる吟遊詩人の歌――この街は、秩序と混沌が織りなすタペストリーだ。貴族は絢爛な魔法で富を誇り、裏通りでは術者が禁呪を囁く。誰もが夢を追い、誰もが何かを隠す。それが、アズラールの流儀だ。


和久田晋助、通称ワクは、50歳を過ぎたベテラン刑事だ。魔法の才には恵まれなかったが、灰色の髪と鋭い眼差しには、半世紀の人生と無数の事件を切り抜けた重みが宿る。署では「魔法なしの伝説」と呼ばれ、若手から一目置かれる存在だ。だが、彼の頑丈な革ブーツと擦り切れたコートの裏には、街の裏側を知る男の疲れと情熱が隠れている。魔法が支配するこの街で、ワクは拳と勘だけで正義を貫いてきた。


今夜、ワクはいつもの酒場「鉄槌の炉」のカウンターに陣取り、麦酒の入った錫のジョッキを握っていた。店内は、煙草とロースト肉の匂いが立ち込め、壁には古びた剣と魔法の護符が飾られている。カウンターの後ろでは、店主が火魔法で串焼きを炙り、炎がチリチリと音を立てていた。ワクはジョッキを傾け、泡の苦みを味わいながら、店の入口に目をやった。


「おう、ウルフ! 遅ぇぞ、相棒!」


ワクの声が、酒場の喧騒を突き抜ける。扉が開き、男が姿を見せた。ウルフ――本名は誰も知らない。30代半ば、浅黒い肌に無精ひげ、革のマントの下には使い込まれた短剣が覗く。アウトローの匂いを漂わせるが、その瞳には、街の裏も表も見透かすような知性が宿る。魔法の知識はギルドの学者にも引けを取らないが、彼自身は魔法を使わない。いや、使えないのか、使わないのか、その答えは誰も知らない。


「毎度毎度、こんな時間に呼び出すなよ。夜は俺の稼ぎ時なんだぜ」


ウルフはニヤリと笑い、ワクの隣にどっかりと腰を下ろした。肩が触れ合う距離に、二人の絆が滲む。二人の出会いは数年前、市場裏の乱闘だった。ウルフがならず者に絡まれ、ワクが割って入り、殴り合いの末に意気投合。以来、酒を酌み交わし、事件を共に追い続けてきた。刑事とアウトロー、まるで正反対の二人が、奇妙な信頼で結ばれている。


「稼ぎ時? 冗談じゃねえ、夜こそこの街の真実が見える時間だろ」


ワクは笑い、ジョッキを掲げた。


「で、聞いてくれ。今日、署に妙な事件が舞い込んだ。魔法の霧だとか、記憶が飛ぶだとか、チンプンカンプンな話だ。金目の物が消えて、被害者は夢を見たみたいな顔でボヤいてる。お前、魔法のことは何でも知ってるよな? ちょっと頭貸してくれよ、相棒」


ウルフは片眉を上げ、店主から渡されたジョッキを一気に傾けた。


「霧、か。面白ぇな。どんな霧だ? 水魔法か、幻術か? それとも、もっと厄介な何かか?」


彼の声には、好奇心と挑戦が宿る。アズラールの闇を暴くとき、ウルフの目はまるで剣のように鋭い。


ワクは苦笑し、事件の詳細を語り始めた。

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