夢うつつ
ルグニア大陸
光の女神リディアに愛されて生まれたこの大陸の東に位置する大国
ベルラ王国
広大な農地と豊かな自然を抱え、精霊たちの恩恵に生きる王国
そのベルラ王国には、とある遊牧民族が住む。
その名こそ、「風の民」
自由を重んじ、一つの固定拠点を持たず、森を行き来する独特の民族
縛られず、風の如く生きるが正義
「なーんて、じっちゃんたちは言うけどさー、正直つまんないよねー」
一人の少年が野原に大の字で寝そべったまま広い空を見上げて呟く。
彼の名は、ルネ・シャルー
この風の民に所属する少年だ。
孤児として捨てられた彼は、風の民の族長に拾われて以来、風の民らしくのびのびと育てられた。
「なーに黄昏てんだい」
「あたっ!」
寝そべるルネの額をふくよなか中年女性、ペムがぴしゃりと叩く。
「ほら、ぼさっとしない!あんたも、もう16歳だろう!大人の仲間入りしたんだ!シャキシャキ働いてきな!」
「うぎゅぅ・・・」
そんなこと言われたって、と顔に書いたままルネは体を起こし、ペムをじーっと睨みつけた。
しかし、ペムはルネの睨みなどそよ風でも吹いているかのように相手にせず、遠くの子供達に声を掛ける。
「あんたたち!ルネにいちゃん、暇だから遊んでくれるってさ!」
ペムの声を聞いて、子供たちは一目散にルネの元へ喜色満面で駆け寄る
「ルネにいちゃん!おれ、かけっこしたい!かけっこ!」
「そのまえに、チャンバラやろうぜ!にいちゃん、敵な!」
「えー!ルネにいちゃん、魔法教えてよ!ほら、風をバーンってやるやつ!」
口々にルネを囲んで遊べ遊べと駆け寄る子供達に、ルネは思わず苦笑する。
「はいはい、わかったから、順番な。・・・まずは、追いかけっこしたいやつこの指止まれー!」
ルネが思いっきり高く人差し指を掲げると、子供たちは俺も私もとルネの指を掴もうと必死に飛び上がる。
いつもと同じ日々、いつもと同じ行動、
だが、どこか退屈な日々
それが、ルネの常の日々だった。
「なんか退屈って思うのは、風の民の気質、なのかな・・・」
ようやく子供たちから解放され、一息つくべくルネは森の中の泉に足をつからせ、呟く
この森に住み始めてそろそろ三ヶ月。もうすぐ風の民は移動を始めるだろう。次の拠点はどこなのか、何も知らされず。ただ、長老たちが占いによって道を定めて、生きる道を選ぶ。
ルネは先日16の誕生日を迎えた。
風の民では16歳を過ぎれば、大人の仲間入りと認められる。
つまり、民族の外へ出る許可を得られたこと、そして部族内では戦士として戦う義務を与えられたことを指す。
民族の外を出るもよし、留まって戦士になるもよし。どちらにしても、自由に選べばいい。
「そう言われても、まだ決まってないんだよな・・・」
どっちにしたってきっと素敵な未来が待っているとも思う。
だが、同時に明確な未来の選択が決まってもいない、とも言える。
「はぁ〜あ、ねぇフレン、君はどう思う?」
たった今フレンと名付けられたウサギはクシクシと痒そうに手で鼻を掻く。
フレン以外にもルネの周りには不思議と動物たちが集まってくる。
ルネは昔から動物に好かれやすく、いかな暴れ馬も猛獣も、ルネにかかれば穏やかに甘える始末。
ルネも詳しい事情のわからないこの力を、周囲の大人たちは「ルネは動物に好かれるほどお人好しなんだな」と笑って見過ごしていた。
「あぁ〜あ、考えてたらお腹空いてきた。もういっそのこと、バババーンと面白いことでも起きないかなぁ?」
ルネがそう声を上げた。その時だった
「ほぅ、なら、その願い叶えてやろうか」
「ッ!?」
聞きなれない声にルネは驚いて、近くにあった鋭利な石を取る。
鳥たちはバサバサと飛び立ち、ウサギたちは走って逃げる。狼はグルルルと低く唸り声をあげる。
(だれ、聞いたことがない声、こんなやつ、見たことない。気配もしなかった)
真っ黒のフードを目深にかぶり、仮面を纏った、男とも女ともつかない謎の人物は、気づけばルネの真横にいた。
「そんなに警戒しなくていい。私は怪しいものではない」
くぐもったその声に、ルネは警戒の姿勢を崩さずじっと見つめる。
「・・・良い目だ。お前のような奴を待っていた」
「え・・・?」
謎の人物の言葉に、ルネは思わず呆けた声をあげる。
「ゲフュール魔法士官学校へ向かえ。そこで、お前を待っているぞ。ルネ・シャルー」
「え、ちょ、まっ!まってよ!」
ルネが声をあげるも、謎の人物は跡形もなく瞬時に消え去った。
足元に、一枚の紙を残して。
「ゲフュール、魔法士官学校、入学許可証、ルネ・シャルーさまぁ!?」
ルネの大きな声が森中に響き渡る。
この物語は、この少年ルネとゲフュール魔法士官学校で巻き起こる事件の数々の物語である
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