まるで父と息子の様に
今回は、アルベルトの「過去」と「これから」が静かに交差する回です。
前世持ちのユリアーナ、そしてかつての仲間メーテス。
誰にも言えなかったことが、少しずつ、言葉になる——そんな時間。
重たい話も含まれますので、無理のない範囲でお付き合いください。
「メーテス殿…失礼しました」
何が起きたのか、突発的な事に動揺したまま、俺は微かに震える左手を掴んだ。
アカネ?
それがユリアーナの前世の名前、そういう事なのか?
しかし何で今…そんな記憶が…まるで当たり前の様にその人格は現れた?
『も、申し訳ありません。師にご紹介頂きました、弟子のユリアーナに御座います。大変失礼な姿をお見せしまた!』
まるで、今の俺を“師”として認識していたかのようだった。
前世だの、来世など……信じてなどいなかった。
しかし、こうも見せ付けられた後で俺はそれを信じないと言えるのだろうか……言って良いのだろうか?
それも含めてユリアーナなのだとしたら、俺は……受け止めてやらねばならない。
「なんか訳ありか?金眼に……その顔立ち…ユリアーナは貴族か」
「えっ?ぼ、僕貴族じゃないよ!な、ないですっ」
「まぁ、口を開けば奴隷と言われても仕方がないなぁ?」
「うっ……これは…その」
「自衛だったのです。ユリアーナの育った村には野盗に逃亡兵などが良く女児を攫っていたそうで」
「……成程な。それで言葉遣いや性格が男勝り、か」
「今、勉強してるんです!が、頑張って直してるから…アル…出来るよ僕」
「……ゆっくりでいい、焦る必要はない」
抱き寄せ、抱きつかれて広がる熱に、俺は安堵した。
前世がどうであれ、今のユリアーナに苦痛まみれの魂など要らない。
「ちゃんと父親してんだな」
「父親……でしょうか?」
「おうっ、ちゃんと親になってるよ」
「アルは……父さんじゃないよ。僕とアルはなんて言うか…アルは僕を守ってくれるから、僕もアルを守るんだ。親子じゃないよ!」
その言葉に何故か落胆しつつ、楽し気なメーテス殿の言葉にまた困惑する。
「アルが親父じゃ嫌か?良い男だし、強ぇし、隠し財産だってガッポリ持ってるぞ?」
「メーテス殿っ!」
ユリアーナを見下ろす。
不満気な目元に、俺は少し仕様の無い気分で……それもまた仕方ないと目を瞑った。
「アルが父さんになったら……僕は多分…いっぱいお願い事しちゃうし……勉強だってしなくなるよ。そしたらアルと商人にはなれない!……だからアルは父さんじゃないよ」
そんな風に思っていたのか。
それじゃ……確かに、親子にはなれないな。
だが、それはそれで……嬉しい言葉だ。
「ふーん。そうかぁ…ユリアーナはアルの盟友になりたいのかな?」
子供相手に揶揄う様なメーテス殿に、俺は昔を思い出す。17や18なんて子供だと、良く俺もこうやって揶揄われたな。
「めいゆう?」
「強い絆で結ばれた友、志を同じくした…仲間。そんな感じだ」
「そ、そうだっ!それっ!それがいい!僕はアルを裏切らないしっ、ガッカリさせる事だってしないよっ!そうなるんだっ!」
興奮して、メーテス殿の側に駆け寄るユリアーナ。
そんなユリアーナを優しい眼差しで見つめるこの方こそ、父や祖父…そんな風に俺には見えた。
深夜、宿屋へと移動し、ユリアーナが眠った後にメーテス殿の部屋で酒を飲んだ。
「成程な……魔力貯蔵かぁぁ!」
「はい。ですが、イシャバームでアルシャバーシャ様に雇用証文を頂き、金も貰いましたから……何とかここまでは」
「そりゃ強い後ろ盾が付いたな」
「えぇ。ですが問題は俺なんです」
ユリアーナに何かあればアルシャバーシャ様が黙っていないと牽制出来る。しかし……俺はそう言う訳には行かんだろう。特に…シェリフ相手ではな。
「だがある意味奇跡だったな。リュクリュートスから逃れられるなんぞ……お前位なもんだ」
リュクリュートス。世界の運航路、港の全てを手中に収めた海運総合商会。あそこが手に入れられない物はない。なにより、それを1人で立ち上げ10年も掛からず大商会とした、嫡子ではないにしろ王族でもあるシェリフの恐ろしさだ。
「あの時、エッケルフェリアが手を貸してくれたから逃れられたんですよ」
「……しかもデッケェ秘密持って帰って来たしな。今も隠してんのか証拠」
「えぇ。あの場で聖白金10枚で破棄するという言葉をシェリフが信じたとも思えませんけど……追っては来なかった」
「その割には……5年位はお前をしらみ潰しに探してたけどな…」
「冗談はよして欲しいですね」
何が良くてそこまで俺に執着するのかがわからない。
男娼の如く見目麗しい訳でも、従順でも無かった筈だ。
「アイツは壊れない物が欲しかったんだろうよ」
まるで心を読んだ様な言葉に俺は息を呑んだ。
壊れない物だ…と?そんな物、ある筈ないだろうが!
「あれ以降、アイツの側にはお前に良く似た男や屈強な女が侍ってんだぜ?笑えるよな!……そんなに大事なら……注ぐべき物は愛情だったんじゃねーのかって思っちまうよな」
……愛情や慈悲があったとしても、あいつは俺の中で死神の様な存在で、穢れの権化だ。次に相見える事があるならば…容赦はしない。
「まさかなぁ、現王の弟じゃなく……落とし胤、とされながら全く血が繋がって無いとはな!あはははっ!これがバレたらアイツはどうなるんだろうなぁ!」
「きっと、別の事業でのし上がるでしょう」
「クォークみてぇな男だからなぁ……あの見た目で47ってんだから恐ろしいわ…あれから…全然見た目変わってねぇんだ…まだ越えられねぇならイグラドシアや海には近付くなよ」
「えぇ」
「これから何するつもりだ」
「そうですね……変動商品でも扱おうかと」
「そうか。だが気をつけろ……カッカドールはリュクリュートスとの繋がりも深い。輸出品の多くは海路を使って輸送される……内陸を使えば関税と代行代だけで売り上げなんぞあっという間に消えるからな」
「……変動商品を売買するわけじゃないんです…扱いはしますが、加工品に重点を置き拠点には別の者を立たせて俺はユリアーナと買い付けに回るつもりです」
「それでも、だ。出来るだけ海辺には近寄るな…アイツは本当に質が悪い…あの子を人質にでもされたら…簡単にお前は隷属を選ぶんだろうよ」
多分、今の俺ではきっとその場に立ち竦み、あっという間に枷を嵌められるのだろう。ユリアーナを盾にされたら…それこそ俺は躊躇いなくそうする。
強くならねば。
俺の為に、そしてユリアーナの為にも。
▶︎次話 依頼と買い付け
ユリアーナにとっての「家族」とは何か。
アルベルトにとっての「守る」とは何か。
その輪郭が、ようやく少しだけ見えてきました。
そしてもう一つ。
“過去を乗り越えるには、力が要る”という現実も。
次回は、少しだけ光が差すお話になればと思います。
家族ごっこに、ほんのちょっとの商売を添えて。
楽しい回に…なる様頑張ります




