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閑話 教えて!アバルト先生

設定回ですが!ストーリー仕立てにしてみました!


「ユリアーナ君」


ルシュケールの両替商で、アバルトはユリアーナに様々なことを教えていた。

ルシュケールの物価に始まり、なぜレーク金貨を聖金貨に換えると金額差が生まれるのか。そして同じように、ルシュケール金貨との換金でも違いが出るのはなぜか──。


「ふーっ」


「疲れたかい?」


「うん。ちょっと疲れたかも」


そう言うと、アバルトは静かに席を立ち、受付裏の事務所へと姿を消した。


「アルおじさん」


「なんだ」


「変だね~。だってさ、ルク金貨は700枚で聖金貨1枚に換えられるのに、レーク金貨だと2200枚も必要なんだよ?おかしくない?」


「それが──信用の差だ」


そう言いながら、アルベルトは石板に、両替商の掲示板に貼られていた換金率をもとに、国別のレートを書き出して見せた。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


【国名】     【換金レート】   【信用度合い】


イグラドシア   約950枚      最高

カッカドール   約1100枚      高

ヒルバル     約1250枚      中

レークイス    約2200枚      底

ルシュケール   約700枚       高



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「へ~~!ルシュケールの方がイグラドシアより換金率がいいんだね!でも、信用度はイグラドシアの方が上なんだ?」


「この“信用”はな、国の格じゃなくて、“その金貨が他国でどれだけ通じるか”って話なんだ」


その説明を聞きながら、ちょうど事務所から戻ってきたアバルトが、ビスクでできたお菓子の家を皿に載せて運んできた。


「ユリアーナ君、おやつとお勉強、どっちがいい?」


「え?」


お菓子と石板を交互にチラチラと見つめるユリアーナに、アバルトはイタズラっ子のような笑顔を浮かべて言った。


「両方はどうだい?」


「食べたあとに勉強するの?」


「ん~、食べながらかな!」


果物が乗ったビスクの家と、クリームの乗った甘いビスクの家が、誘惑するようにユリアーナを見つめていた。


「さて、商会について──知りたくないかい?」


「ごくん……う、うん!」


「この世界には、大きく分けて二つの“商会”があるんだ」


そう言うと、アバルトはビスクの一切れをすくい、ユリアーナの口にぽいっと放り込む。

そして手元の紙に図を描いて、説明を始めた。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


◇ 商工総合所(ウォール特別区にあるよ)

•総合商会・物流総合商会を統括

•法律・証書・身分登録を管理

•教会と連携して「信用の基準」を設定


◇ 総合商会

•通貨や税の管理、金銭取引全般の統制

•聖教会と連携し、聖貨幣の流通や発行を監督

•小切手・手形・割符・証文などの発行や精算


◇ 物流総合商会

•売買・流通管理、鑑定・契約の執行

•商人の信用管理、銀行・両替業務

•商品の出入りと証文の整合性をチェック



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「この通り、ウチの様に両替商として単体で運営する場所もあるけれど、どこの商会も“総合商会”と“物流総合商会”の両方から、最低一人ずつ管理官が派遣されるんだ」


「ふーん。でも、まとめて一つの商会にした方が早くない?」


「ふふ、そう思うよね。でもね、全部一緒にしてしまうと、“悪いこと”をみんなで隠してやれてしまうかもしれないだろ?」


「お互いに見張ってるんだ?」


「そう。物流側で突然果物が増えたら、『あれ?どこから入ったの?』って、総合商会が待った!を掛ける。つまり“相互確認”ってわけさ」


「じゃあ、物流総合商会は“モノの関門”で、総合商会は“お金の関所”みたいな?」


「その通り!」


「へー、ならここって、すごくちゃんとしてるんだね!」


その言葉にアバルトはニコニコしながら、またビスクを一口ユリアーナに差し出した。


「ユリアーナに菓子を与えすぎるな……虫歯になる」


不意に放たれたアルベルトのひと言に、アバルトは肩を揺らして笑いをこらえた。


「アバルト先生!」


「はいっ!ユリアーナ君!」


「アルおじさんは商人だけど、商会に登録してるの?」


「いや、アルベルトさんのように、お店や拠点を持たずに商売している人も多いんだよ。そういう人たちは、商会からの依頼で買い付けに行ったりしているんだ」


「じゃあ、商会ってやっぱり大変?」


「うん。年間の売上が一定以上ないといけないし、“この人は信用できる”って認定ももらわないとね」


ユリアーナは最後のビスクを頬張りながら、まっすぐアルベルトを見上げた。


「アルおじさん!僕、頑張るよ!」


「……あぁ。期待している」


ユリアーナはまだ世界のすべてを理解しているわけではない。

けれど、確かにひとつ──“仕組み”という世界の地図を、少し手に入れたのだった。






商会を立ち上げる――それは「人を使う側」になるということ。


アルベルトにとって、それはただの夢じゃなく、自分自身が自由になるため、そしてユリアーナを守るための“手段”であり“悲願”でもあります。


今回はその土台となる「商会の仕組み」を、ユリアーナの目線から少しずつ描いてみました。

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