隠す物は何も無い
※ちょっとしたお知らせ
今週から【本編は週末投稿】【平日は閑話や設定回】のスタイルにしてみます。
気軽に覗いていただけたら嬉しいです!
疑問となる設定やセリフありましたらコメント下さい!
僕はアルの言葉のすべてを理解しようとしたんだ。
でも、なんでだろう。『違う』って思ってしまうんだ。
信用しなければ、信用されない。
利益のために人と関わるわけじゃない。
騙されても、騙す人間にはなるな。
誠心誠意向き合えば、分かり合える。
きっと、夢の中で見た僕がそう、学んでいたんだと思う。
村での生活だって、父さん、母さんは、いつもお隣のマールさんとニコニコ物々交換してたのに、家の中で「次はキャルロの数を減らさなきゃ」とか、「足元見てるな」って言ってた気がする。
それって、仲良くしてたけど信用はしてなかったってことだろ?
だとしたら、僕の心の底にある感覚は、間違ってることになるじゃないか。
「ユリアーナ」
「ん?」
「商人を理解できないか」
アルは、いつも僕の心がスッキリしない時、こうやって声をかけてくれる。
最近、本当に優しいと思う。
僕は、僕の感覚でアルを信用してるし、信頼してる。これは、正解……だよね?
「頭では分かったんだ。それが正しいって……」
でも、心の奥でその違和感が、僕をずっと叱ってるんだ。
『間違ってる』って。
でも、その理由を探しても見つからないんだよ。
騙されないために信用せず、どんな事が起きても大丈夫なように準備して、騙された時にはそれを使って騙し返す。
それはきっと、アルの経験で、知恵なんだと思う。
それに、僕たちがいるこの世界で生きていくなら、優しい気持ちじゃダメなんだよな。
「お前のその違和感は正しい……商人でなければ、きっとお前の賢さと誠実さは美徳として受け入れられる」
商人だから……今の僕の感覚が合わないのかな?
「僕はアルと商人になるからな!……慣れるよ、大丈夫」
僕は笑ったけど、アルは笑ってくれなくて……ただ、ずっと僕を見てた。
この顔をしてる時のアルは、僕を疑ってるんだよなぁ。
「何が引っかかるんだ」
「え?」
「お前の良い所が死ぬから、やめろ」
な、何言ってんだ……アルこそおかしいっ!
だ、大丈夫か?
「アルこそさ、何言ってんだ?へ、変っ!」
「……まずは晩飯を食いに行く。たぶん顔役と会うのは深夜になるからな」
「う、うん」
茶屋を出て、アルは僕の手をつないで、部屋を取った宿屋近くのお店に行くと言った。肉料理が美味しいらしい。
でも、なんか僕はそれどころじゃないような気がして、胸がムカムカしてた。
「なぁ、アル」
「何だ」
「なんで怒ってるの?」
「?――怒ってなどいない」
「ウソだよ。だって、ずっと僕の手……握ってる」
アルの癖……なのかな。
本気で怒ってる時、アルは僕の手を強く握って、離してくれない。
怒って見えても、僕に怒ってない時は握らないんだ。
ラディを殴りに行った時は、怒ってるっていうよりも呆れてるんだって、ミーセスおじさんが馬車でコソコソ言ってた。
「クハッ!クククッ……」
「アル?」
「いや……」
急にアルが僕の前でしゃがみ込んで、抱きしめてきて、僕は慌てた。
うーーっ!たくさんの人がいるから、恥ずかしいんだけど!
「お前が、俺の話を聞いて……真剣に考え、どうすべきかを悩む姿に……嬉しいと思っただけだ」
分かんない。
なんで、そんなことが嬉しいんだろう。
当たり前だろ?
商人になってアルと旅をするには、僕はもう1人のアルにならなきゃなんだからさ。
「っ!うわぁっ!!な、何だよアルっ!急に抱き上げるなよ!」
「……お前は……口は悪いし」
「ごっ、ごめん……なさい」
「すぐ暴力で何とかしようとするし」
「だって!……アルを困らせたから……」
「意地汚いしな」
「……ごめんって」
なんで僕は、アルに悪口言われてるんだ⁉︎
別に、アルのこと悪く言ってないよな、僕。
「でも、お前の心根は素直で優しい。良い子だ」
「‼︎」
見たことのない顔で笑うから、恥ずかしくなった。
キョロキョロして誤魔化してたけど、周りの大人たちはアルを見て何か笑ってるし!
本当に恥ずかしいからっ!やめろよ!
「やめっ……」
痛ったぁぁ!強い強い強いっ!
力入れすぎだよ、アルッ!
「この年頃から見習いを始める子供は多い。けれど、多くが任された仕事を、大きくなってもやり続ける者が大半だ……その理由が分かるか?」
「……分かんない」
「情勢の移り変わりは激しく、一所に留まれないことの多い世界で、使える人間になれば戦に動員される、目をつけられ攫われ殺される……そんな世の中だからだ」
フッて力が弱まった。
アルは僕を見上げて笑ってて、恥ずかしいのは変わらないけど、その顔を僕は見たことがなかったから……じっとすることにした。
「……それ、やれる事増やさない理由になるの?」
「そうだ!その感覚がお前のすごい所なんだ!」
うぅっ!落ち着いたと思ったのに!やめろよなっ!
アルから褒められると、こう、なんていうか、首とか!背中とか!お腹が、こう、なんていうか、ムズムズしてじっとできないんだよっ!
「お前は貪欲で、恐れ知らずだ。だから……俺は本当に嬉しいと思ってる」
しかもなんか、本当に嬉しそうだし。
嫌になっちゃうよ!
いつものしかめっ面の方が、僕は……慣れてるからさ。
「悪かったなっ!僕は意地汚くて暴力振るう子供だよっ!……あーっ!何がおかしいってんだよ!笑うなっ!笑うなよっ!」
「アハハハハッ!ククククッ」
アルは歩きながら言った。
『お前の良い所は貪欲で、諦めが悪くて……納得するまで突き詰める所だ』
僕はその意味が分からなくて、「良い意味の言葉なのか?」って聞いたら、真剣な顔で頷いたから……なんだか全部をアルに話して、この違和感をなくすことが『信頼』なんじゃないかって思えたんだ。
「アル」
「何だ?」
「聞いて欲しいことがあるんだ……僕の“違和感?”の理由」
僕を見るアルの顔は真面目で、真剣に話を聞こうとしてくれる顔だった。
「……もちろんだ」
だから、お肉料理を食べながら……僕は夢の中の僕について、すべてをアルに話したんだ。
アルには、僕が弱いって知られたくなかったし、殴られてたとか、女の子に助けてもらってたのに、僕は助けなかったなんて言いたくなかった。
でも、アルは最後まで黙って聞いてくれた。
アルはご飯を食べ終わると、「デザートだ」って言って甘い物を頼んでくれた。
「わぁ!何だこれっ!サッカームよりふわふわだっ!」
甘いメルロドっていうクリームの乗った柔らかいビスクは、本当に美味しかった。
な・の・に!アルの一言で、僕はメルロドを落としてしまったんだ。
「お前は……男を見る目がなかったんだな…前世商人だったら悲惨だったな」
……ちがうしっ!それ、今の僕じゃないし‼︎
なんか、僕がずっと言えなかったことや、違和感を持ってたことが、馬鹿みたいに思えたよ。
でも、アルにとって、そんなことは大したことじゃなかったんだ。
それが……とっても嬉しかった。
……なんか、今日の夜は、ちょっとだけ、いい夢が見られそうな気がした。
▶︎次話 くだらない理由と捨てる理由
子どもが大人っぽくなるのは、憧れか、環境か。
ユリアーナはその両方を持つ存在であり、前世の記憶が“感覚の根っこ”を支えています。
でも、どれだけ知識があっても、違和感は誤魔化せない。
それに向き合い、口にし、聞いてもらうことが——彼女の心を前に進めた。
今回は違和感とその理由の融合、一歩踏み込めた話でした。
次話、顔役とアルベルトの過去の清算回予定です!
前書きにも書かせていただきましたが、投稿スケジュール変更します。
【今後の更新予定】
•本編は週末にどどんと更新!
•平日は“閑話”や“ちょっとした裏話”などをゆる〜く投稿します
本編が重い分、キャラの日常やちょい裏側も楽しんでもらえると嬉しいです!




