洒落込む3人と、1人の下僕 1
アルベルトは不機嫌だった。
御者台に座ってはいるが、まるで処刑執行人の背中の様で、ミーセスとユリアーナはフルフルと震えながら膝を抱えて荷台の床に座っている。
彼等がアルベルトを恐れている理由。
それはもう1人の同乗者にあった。
「ごめんってアルベルト」
「……」
「頼まれた仕事は依頼済み!レブラント様への奴隷探しも確約済み!後は俺が現地で指示出して終了!完璧っ!」
「……煩いぞラディッツ」
ユリアーナの暴走後、白目を剥いて倒れていたラディッツ。彼をそのままにして街を後にしたアルベルト達だったが、関門を抜けた所で、部下の諜報員が担ぐ担架に乗った彼が現れた。
爆発したユリアーナに、アルベルトの狂気に似た物を感じた様だった。
『狂気に惚れた!ユリアーナは俺のご主人様だっ!』
挙句、仲間の制止を振り切り荷台に乗り込んだ。
唖然としていたのは、アルベルト達の方だった。
平気な顔で「礼としてさ~」なんて言い出すラディッツを見て、誰もが反応に困った。だが、笑顔のラディッツは否を言えない提案をする。
「礼としてさ…噂聞いたけど、レブラント様の為に奴隷探すんだろ?その契約、俺が代行するからさ!」
確かに何国も跨いで情報収集や口止め、伝手を頼らなくてはならない面倒な契約だ。それを任せられるのなら、カッカドール到着を前倒し出来る。そうアルベルトは判断した。
「ヒルバルまで」という交渉に、渋々も渋々にラディッツは頷き、アルベルトは吐き捨てるように言った。
「だったら、お前は奴隷として扱う。勘違いするな」
怒りを抑えきれず、そう言い切ることでしか自分を納得させられなかった。結果、奴隷として扱う事を条件に同乗を許可した。
そんな状況でアルベルトの機嫌は一向に良くならず、ラディッツに声を掛けられたユリアーナはビクリと肩を震わせる。
そして、恐る恐る御者台に視線をやってヘラリと笑った。
「う、うん…ハハッ……」
「ラディッツ…喋るな」
「ごめーんアルベルトッ!」
その声にアルベルトは強めに手綱をしならせた。
「で、でも…ヒルバルまでって約束したし、結構コイツも面白い奴だって分かったし…さ…」
ユリアーナの言葉に覇王の様な顔のアルベルトが振り向いた。
「お前はっ!コイツを殴る程…腹を、立ててた!そうだったな…?」
「だ、だって!泣きながらアルが好きだから側に居たいって…床に頭こすりつけてさ、ごめんなさいいっぱいしたし…」
モジモジしながら、荷台に移動してユリアーナに抱き付くラディッツを撫でるユリアーナ。その姿がさらにアルベルトの怒りに火を付けた。
「ミィーーーセスッ‼︎」
「ふぁいっ!コラっ!ラディッツ!ハウスっ!」
「はーい」
ハウスと言われて、荷台に積まれた箱の上に座るラディッツ。その顔はボコボコに腫れているのに楽しげだった。
何が拗れてこんな旅一座の様な状況になったのか。
アルベルトは怒りに染まった思考で考えた。
しかし、答えなど出る筈もなく、キャッキャうふふと、まるで旅芸人の一座でも見ているかのように騒ぐ荷台の3人に、ついにアルベルトは声を荒げた。
「黙ってろっ!」
ザハルビークはヒルバルにとって資金洗浄を一手に引き受ける予備国。ルシュケールはレークイスの資金洗浄を引き受けており、ザハルビークとルシュケールは双方の国と手を結びつつ、聖貨幣を融通し合ってバランスを取っていた。
「ザハルビークってルシュケールと似てるね…街の感じ」
「ユリちゃん、この国とルシュケールの王様は兄弟なんだよー!だからねーとっても似てるんだー」
ラディッツはユリアーナに背後から抱き、腫れた顔を歪に歪ませ笑っていた。そんなラディッツの言葉にユリアーナはコクコクと頷き話を聞いている。
「兄弟なのに国がちがうのか?」
「兄弟だからだよー」
「意味がわかんない」
ベタベタするラディッツをアルベルトは引き剥がす。そしてユリアーナの手を引いて、中央特区が運営している物流商会へと足を向けた。
「国同士は利益が無くては手を組まん…弱く、利益を提示出来なければ孤立無縁となる。だから予備国には血縁の者が他国の王、というのは良くあるんだ」
「へー」
「今日は俺の預金を下ろしてヒルバルに入る……さっさとあの変態を追い返したい」
ザハルビークからヒルバルまでは半日も掛からない。
アルベルトはザハルビークで換金、魔術道具を使って中央の知り合いに連絡を取り、買い出し、情報収集、ユリアーナを平民の服屋に連れて行き、初めてを沢山経験させてやるつもりであった。しかし、要らぬ瘤が2つも付いて、予定は全て狂ってしまった。
「アル」
「何だ」
「旅ってさ、厳しいって言ってたよね」
「あぁ。学ぶ物は多くあるが厳しく過酷だ」
「だったらさ、楽しい事があっても良いんじゃない?」
そう言ってユリアーナは後ろで騒ぐミーセスとラディッツを見た。その顔は愉し気で、嬉しそうだった。
「お前はあの2人が好きなのか」
「好きだよ?」
そう言いながら、ユリアーナはミーセスとラディッツの方をちらりと見て笑った。
あの騒がしさが、今の彼女には“楽しい”と感じるのだろうか。アルベルトは振り向かずに呟いた。
「俺は…2人が嫌いでは無いが忌々しくある」
「……理由ってあるの?」
「頭ではあいつらの所為ではないと分かっていても、怒りが込み上げる時がある」
静かに、穏やかに話すアルベルト。
ユリアーナはその手を掴むとぶんぶんと振って笑って答えた。
「だったら嫌ったままでいいと思う!2人はアルが好きみたいだし、八つ当たりしても着いて来ると思うよ?だから嫌いな分だけ怒って、怒りきったらいいと思う!」
出し切った先に、アイツらを受け入れられるのだろうか?アルベルトはそう言ってユリアーナの顔を見た。だが、あまりに当然の様な顔をしているからか、アルベルトは思わず頷いた。
「ユリアーナ…楽しいか?」
「うん!毎日楽しいよ?だって泣いたり怒ったりしても1人じゃないし!」
アルベルトは萎えた心が立ち上がるのを感じた。
そして、ふと、目に止まった洋服屋が展示している服に目が行った。
「ユリアーナ、服を買わないか」
「服?」
自分の姿を見下ろすユリアーナ。
如何にも旅装束の自分がアルベルトには恥ずかしいのだろうか?そんな事を考えた。
「いいよ?」
若者の好みそうなヒルバルで流行りの洋服が飾られている。そこに入って行くアルベルト達をミーセス達は慌てて追いかけた。
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