ルシュケールの貨幣と換金 1
夜を駆け、星々をしるべに、灯りを目指して夜を駆ける幌馬車が砂丘を行く。そして明けが近付き、御者を担うミーセスを照らし始めた。
「ふーんふふーん、ふーん」
鼻歌が風に紛れて眠っていたユリアーナを起こした。
「オッサン」
「起きたか」
「隣座っていーい?」
「気をつけろ。馬を今は止めらんねぇからな」
御者台に這って上がるユリアーナ。その手には、お菓子がわりにと買ってもらったハーブを煮固めた物があった。
「ん」
「…セーブルキャスティか」
「?」
「草飴だ。食い過ぎると腹くだすからなぁ~1日2個で我慢しとけよ?」
「えぇー僕、もう2つ食べちゃったよ」
シュンとしたユリアーナに、ミーセスは上着のポケットから板状の物が入ったケースを取り出した。
「一枚食ってみろ。あ、食っても騒ぐなよ?アルベルトが起きっから」
「ん」
ワクワクしながらユリアーナはケースの蓋を開けて一枚舌の上に乗せた。
「‼︎‼︎‼︎」
「美味いか?」
ブンブンと頭を振るユリアーナにミーセスは笑う。
そしてタバコに火をつけ煙を吐き出した。
「噛むなよ。溶かして食うんだ」
「甘ーい!美味しいっ!これ何んだ?」
「バッガスロート」
「ばっがす、ろーと?」
「酒を作り終わると、酒の素になった花蜜と蜜蝋とか諸々溜まるんだよ。それを加熱して蜜を加えて飴にしたやつだな」
「お高い?金貨?」
「くくっ、いや。これは胃薬の代わりだ。1ケース聖銅貨2枚だ」
「お安いのか?」
「まぁな。子供でも好きな奴は駄賃持って買う程度だ。大人にゃ手軽な薬代わり、子供には贅沢品だな」
「そっかぁぁ!贅沢っ!」
張り付かない様に、まぶされた粉にまみれた指をユリアーナは嬉しそうにしゃぶる。その姿にミーセスは笑った。
「美味いか?」
「ん?さっきも美味いって言ったよ?」
「はっ!……そうだな」
子供が美味いとはしゃぐ姿に、喜びを知ったミーセスは、その後も事あるごとに『美味いか』と聞き、ついにはユリアーナに無視されてしまった。
日が昇り、ルシュケールの関門間近になってアルベルトがミーセスに御者を代わると声を掛けた。
「……」
「寝てっからこのまま俺がやるよ」
ミーセスの膝枕ですやすやと眠るユリアーナ。それを目にしたアルベルトは似合わぬ事を言い出した。
「……俺が代わる」
「いや、止めらんねーんだからこのままでいいだろ」
しかし、アルベルトは御者台に乗り込むと、ユリアーナをさっと抱えて膝の上に抱いてミーセスから手綱を奪った。
「……まじかよ」
「何だ」
「……いーや。別に」
ミーセスは荷台に移りながらアルベルトをチラリと盗み見た。
まさか嫉妬?
あのアルベルトが、そんな感情を?
……いや、あいつは家族を、愛したものを後生大事にする男だった。
「……」
微かに目元が緩むアルベルトの姿に、何故かジワリと涙が込み上げた。そして幌を少し開けて目元を手で覆うミーセス。彼は初めて考える。
亡くなった自分の子供達は誰に愛を貰っていたのだろうか、いや、貰えていたのだろうかと。
ユリアーナが目覚めると、既にルシュケールに到着していて、馬貸家の厩舎に仮泊めされていた。
「アルおじさん」
「何だ」
「何で僕を抱っこしてるんだ?」
「お前が膝の上で寝ていたからだ」
「……そうだっけ?確かオッサンと話してて」
「行くぞ」
話を遮る様に御者台から降りたアルベルト。そして荷物持ちをさせられているミーセスは笑いを噛み殺しながら、その後ろを着いてあるいた。
「ユリアーナ、両替をしてみるか」
突然の提案に、道に降ろされたユリアーナは首を傾げ答えた。
「レーク金貨をここのお金に変えるのか?」
「そうだ」
「やってみたい!」
3人は関門近くの両替商に入った。
賑わう店内、色々な国の商人達にユリアーナは目を丸くした。
「わぁっ!見てよ、あの人肩に猿乗せてる!可愛いっ!」
「あれはヒルバルの商人だな。履いてんのはズボンじゃねぇぞ。大きな腰布を股下で交差させてそれっぽく見せてんだ」
「オッサン!よく知ってんな!」
「なぁ、そろそろさ、そのオッサン呼びやめねぇか?」
30だが、見た目年齢に自信があるミーセスはユリアーナにニコニコ笑って圧を掛けた。
「えー。でもオッサンがいい」
「そうだな。勘違い団長にはオッサンで良いだろう」
「ね!アルおじさん!」
「ちょっ!アルベルト!お前もおじさん呼びやめさせろや!」
アルベルトに必死な形相を見せるミーセス。そして、アルベルトも考え込んで一言。
「……そうだな」
何気に気にしているのか、嫌だったのか呼び名の変更をユリアーナに求めた。
「え″?…何、2人とも…いーじゃん別に」
「可愛くさー、ミーセスさん!とか、セスお兄ちゃん!とか言ってみ?俺は優しくするぜぇ?」
「やだよっ!街の女みたいに媚びてる感じでさっ!」
それが何故駄目なんだ。
そんな胡乱な目を2人はユリアーナに向けた。
「女心は分からんな」
「いや、女心じゃねーからな、アルベルト」
「もー!そんな事より両替!」
前を歩くユリアーナとミーセス。
アルベルトは2人を見守りつつ、周囲の目を警戒した。
「アルおじさんも早く!」
「…あぁ。今行く」




