ミーセスとユリアーナの口喧嘩
レークイスを発つための買い物を終えた2人は、ミーセスの店に立ち寄ることにした。
理由は一つ。レブラントとの契約を履行するためである。
「なんだ、意外と早い再会だな」
「団長、仕事を頼みたい」
アルベルトは手付に貰ったレーク金貨500のうち、350枚をミーセスに手渡した。
「大金だな」
「人買いの依頼だ」
だが、ミーセスは頷かなかった。
理由は――人買いとして登録はしているが、実際に人買いを生業とはしていなかったからだ。
「大方、諜報のために会員となったんだろう?」
「まぁな」
「良い機会のはずだ」
アルベルトはニヤリと笑うと、事のあらましを聞かせた。
そして、4ヶ月後くらいに見目良い役者を2人、王弟に差し向けろと言った。
「そりゃ、ウチの者でもいいのか?」
「構わん。美しく口が固けりゃ誰でもいい……その代わり、1ヶ月耐えて欲しい」
「なんで1ヶ月なんだ?」
カッカドールへ向かう途中に中央特区へ立ち寄り、『エッケルフェリア(傭兵紹介)』で人を雇い向かわせ、2人と交代させる――と、アルベルトは言った。
「そんな伝手があんのか」
「昔な」
「……良いだろう」
しばらく考えていたミーセスだが、目の前の金を受け取ると「少し待て」と言って奥に消えて行った。
「アルおじさん、なんであの人に頼むんだ?」
「ここは外向きは奴隷販売店だが、情報を売り買いする闇の商店だな」
「そんな仕事があるんだ……」
暫くすると、大荷物を抱えたミーセスが現れ、唖然とする2人を他所に店の扉を開けて振り返った。
「行こうぜ」
「「……はぁ?」」
ミーセスが同行を申し出たのには理由があった。
カッカドールへ向かう途中、西側から中央に食い込む形のイグラドシア王国があり、そこに用事があるからだと言った。
「なぁ、ユリアーナ」
「……何」
「お前、女だろ」
「僕の性別なんて関係ないだろ?」
「関係あるさ。お前が女じゃなきゃ、アルベルトが再起することはなかったろうしな」
馬車の荷台に向かい合って座る2人。
ユリアーナは、そもそもミーセスが気に入らなかった。
アルベルトが苦しい顔をした元凶であり、自分が初めて「すごい」と尊敬したアルベルトを、時折馬鹿にするからだ。
「なぁ、オジサン」
「なんだ? クソガキ」
「なんで1人で行かないんだ? 僕、オジサンが臭くてたまらないんだけど」
「馬鹿だなぁお前は。これは男の匂いだ、アルベルトだって同じ匂いがするだろうが! それに、俺とアルベルトの仲だぞ? 旅は道連れ、世は情けってな!」
酔っ払いのようなテンションで絡んでくるミーセスに、ユリアーナは苛立ち、足蹴にした。
「って!」
「アルおじさんはオジサンみたいに臭くないし! 風呂入って髪洗えよ! 野良犬のほうがよっぽど綺麗じゃないか!」
「なんだと? このクソガキっ! こっち来いっ!」
「やめろっ! 臭いっ! 変態っ! 人攫いっ!」
「そーだぞ? 俺は人買いだ。このままお前を売っぱらってやろうか? どうだ? お前みたいなクソガキを調教するのが好きな、きったない貴族に売ってやろか!」
その言葉に、ユリアーナは大笑いする。
そして、アルベルトに「首から下げていろ」と渡された、アルシャバーシャの証文であるペンダントを見せた。
「悪いね! 既に売れてんだよっ!」
「……お前、命は大切にしろよ?」
同情めいたミーセスの言葉に、ユリアーナは首を傾げる。
「アルシャバーシャ様は好事家らしいからな」
「こうずかってなんだ?」
「子供にいやらし〜ことして甚振るのが好きな御仁ってこったよ」
「ああ、オジサンみたいな奴ってことな!」
「おいっ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ荷台の2人。
アルベルトは「煩すぎる」と言って、2人に出掛け前に買ったサッカームを手渡した。
「「やったー!」」
1人の大人と、正真正銘の子供1人は、仲良く分け合いサッカームを夢中で食べていた。
「……二児の親になった気分だ」
新たな旅は始まったばかり。
静かな2人旅が、急に騒がしくなったもんだ。
そうアルベルトは溜息を漏らしながら、手綱を撓た。
▶︎ 第三章 寝物語
こちらで本編の第二章完で御座います。
まだ続きます旅ですが、どうぞよろしくお願いします。




