表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/79

吹っかけ、得を示して元手を得る 1

 ミーセスと別れた後、2人はレークイスへと入国した。そして入国完了を行う役職へと向かい、手元にあった証文証書を正式な物とした。


「なぁ、これで僕はあの女男に完全に売られたって事か?」


「あぁ」


「ならさ、もう演技とかしなくてもいいのか⁉︎」


「そうだな。演技をする必要は無い…だが、何がきっかけとなるか分からんからな…出来るだけ大人しくしてろ」


「分かった」


 2人は人の行き交う道を歩いて次の旅路について話をした。


「ユリアーナ……俺は次の目的地をカッカドールにするつもりだが……どうする」


「どうする?って言われても、わかんないよ」


「故郷に……行くか?」


「……もう、何にも残ってないんだろ」


 ロレント王国はレークイスに吸収された。そして故郷のアマレッタ村はもう無い。きっと家屋も農地も、遊び場にしていた川さえも、その姿を変えているだろう。


「だからだ」


「“だから”って、どういう意味?」


「区切りをつけなくてもいいのか。思い出が、あるんじゃないのか?」


 ユリアーナは空を見上げて、目を閉じた。そんな彼女を、黙ってアルベルトは見つめる。


——俺は、区切りをつけなかった。だから、未だにあの美しいものが頭から離れない。


「……いいや」


「何故だ?」


「だって……今の村を知らなければ、いつでも目を瞑れば戻れるから」


 戻りたい。でも戻れない。そして——どこかで、戻りたくないと思っている自分もいる。


 その想いを、二人はそれぞれのやり方で昇華しようとしていた。


「俺は……愚かかもしれんが、“戻っていれば”と思うことがある」


「アルおじさんも……同じなのか?」


「ああ、そうだな」


 穏やかな沈黙と喧騒が2人を同じ孤独に閉じ込めて行く。2人はまるで互いの背に凭れているような安堵感の中、傷にゆっくり触れていく。


「戻ったら、何か変わる?…もし変わらないならさ…この記憶もいつか消えるんだろうし…今はこのままでいいや」


 その一言は、まるでアルベルトの頬を打つようだった。言葉が出ず、歩きながら、忘れねばならないという強迫観念が、静かに崩れていくのを感じていた。


「……そうだな。変わらん。そう、変わらんな」


「だったらいいや。僕の記憶、変えたくないし」


「……お前は、時に聡すぎる」


「それって僕、褒められてるのか?」


 アルベルトはわずかに口元を緩め、ユリアーナの頭を撫でた。


 2人が次の行き先に決めた南の国、カッカドール。農業大国であり、この世界の食糧庫である。国民は温厚で王族は善政を敷く良き統治者であると評判であった。


「カッカドールに向かうには三国を通過する」


「どこ?」


「ルシュケール、ザハルビーク、ヒルバル。ヒルバル以外は小国だ。ザハルビークは公国で元ガザンの某系王族が公王として統治している」


「ふーん」


 アルベルトが教える事は何でも覚えるつもりのユリアーナだが、事、地理的な話や王侯貴族の話になると途端に興味を失った。


「ちゃんと聞け…攫われそうになったとき、不利益を被った時…知らぬ存ぜずと喚く前にお前の首は無いぞ」


「うっ」


 世界は未だ緊張を孕んでいる。今も何処かで戦は起きていて、傷も癒えぬ前から新たな傷が出来てゆく日常。


 復興など今や誰も考えない。戦は富を持つ者の享楽であり、常套手段だ。


 壊れた物は無かったように新しい物に挿げ替えられる。


 ならば底辺である2人はどう生きるべきなのか。


「知識こそが底辺(俺達)の武器で活路だ」


「でもさぁ、王様を知ったらご飯が食べれるのか~?関わる事なんてないのに?」


ガンッ!


「いったぁぁ!何するんだよ!」


 アルベルトの眼差しは鋭く、拳骨の痛みにユリアーナは蹲った。


「お前の存在が第二、第三のアマレッタ村を生むんだぞ…だからアルシャバーシャ様はお前を手に入れたがったし、ミーセスは俺に警告したんだ!」






▶︎次話 吹っかけ、得を示して元手を得る 2






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ