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出国前夜

 何か起きるのかもって思う様な怖い事を言われて、何て事無いぜって振りをしたけど、おじさんが戻って来るまで僕はただ隠れ場所の中でうずくまってた。


 このままおじさんが戻って来なかったらどうしよう。

損しかしてないじゃないかって今更…捨てられたらどうしよう。


そんな事ばかり考えてた。


けど、意外とすぐおじさんは戻ってきた。

3回と3回のノックに僕は慌てて隠れ場所から出ておじさんを出迎えた。


「アルおじさんっ!お帰りっ!」


「…」


どうしたんだろう?

おじさんが動かなくなった。


え?死んだ⁉︎

勘弁してくれよっ!

これから僕はおじさんに教えて欲しいことが沢山あるのにっ!


「…今…戻った」


「うん? お帰り」


ぽんっておじさんの手が頭に乗って、またぽんってされた。


何だろう? 何だろう⁉︎

こんなのおじさんじゃないっ!


『煩いぞ、黙ってろ』


そう、いつもなら言うじゃないか!


でも、なんか…うん。

なんか良い感じだっ!


「ユリアーナ。これを」


 大きな袋をおじさんが僕に押し付けて来て、僕はそれを抱えたまま困った。

どういう意味なんだろう。


おじさんの荷物を持てって事?

それともこれを持って出ていけって事?


 どっちも嫌だよ!


「…開けてみろ」


「開けていいの?」


「あぁ」


 袋を降ろして、固くしばってあった紐を解いた。

 袋の中にはおじさんのよりも一回り小さなリュック、皮の水袋、ポーチ、おじさんと同じ色のフード付きのポンチョ、ゴーグル、ブーツに下着、服が入ってた。


「旅は長く辛い。これからお前は俺と旅をする…それは全てお前の物だ。長くは使えないかもしれない…その時はまた準備してやる」


 言葉は大切だって父さんは言ってた。

知りたい事、伝えたい事、知って欲しい事は、言葉を選んでちゃんと届く様にしないとだめだって。


でも、僕の気持ち…今の僕の気持ちを何て伝えたらいいの?


父さん。


『何かを貰ったなら、ちゃんと言いなさい』


母さん。


『ありがとうって』


おじさん!


「ありがとうっ! アルおじさんありがとうっ!」


抱きついたら嫌がるかな。

そりゃそうだよな。

おじさんは父さんじゃないし、兄さんでもないしな。

でも嬉しくてどうしよう!


スーリ(サンダル)じゃ砂漠は越えられんからな。それは捨てていけ」


は?

僕の赤いスーリ(サンダル)を捨てろって⁉︎

おじさんが僕に初めてくれた物じゃないか…何でそんな事言うんだよ。


「やだ…だって僕には与えられなかったはずのスーリ(サンダル)だ」


「?」


おじさんは訳が分からんって言いそうな顔のまま服を脱いでベッドに寝転んだ。

それでまた訳が分からんって顔で僕に何か言いたそうだった。


「ぼ…僕は…欲しいって思ってても与えてなんて貰えないんだ」


「…それはそうだろう?」


「でも…街の子は欲しいって言って良い子なんだ」


欲しいと何かを強請った事なんてない。

言えば……打たれた記憶は無いのに、打たれるかもしれないと思っちゃって……父さんにも母さんにも、ばあちゃんにも言えなかった。


 僕は我が儘を言っちゃいけないんだ。


だからおじさんが僕が欲しいって思った物をくれた時、本当に嬉しかったんだよ。


「良く意味が分からんが、欲しいと思ったのなら稼いで買え。俺はお前が欲しいと思った物を我慢せず買える様にしてやる…それに…荷物は増えるがスーリ(サンダル)が気に入ったのなら持っていけばいいだろう?」


 怒ってる訳じゃなかった。


そ、そっか…何かさ、眉の間がギュッてなるとさ、

何か、あぁ、これから怒られるんだって思ってたんだよな。


 でもやったね!

 赤い僕のスーリ(サンダル)

 大切にするんだ! 次の街でも履きたいからさっ!


 もう僕は眠るのが怖く無いよ。

 夢をみてもさ、起きたらおじさんがいるんだもん!


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