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何処までも続く底辺


 アルシャバーシャ様に出来ぬ事はこの地には無い。

女がほしいと言えばその場に首筋を晒した女が用意される。

異国の果物が食べたいと言えば直ぐにそれを食べられるだろう。


なのに——まだ足りないのか?

その深過ぎる欲は何を求めるんだ!


「この娘の価値は何だと思う?」


穏やかに、密やかに…そして毒を撒き散らかす蛇の様な赤い舌が彼の求める物を語る。


だがそんな物聞きたくも無い。


「…魔力貯蔵(タンク)の才以外にありましょうか?」


俺自身も驚く程、低く唸る様な声が出る。

噛み締めた唇からは微かに血の味がして、俺は目を瞑った。


「あは、アハハハハハッ! ヴァジャ、あぁなんて面白奴だ君は!」


元々、俺達底辺の人間に救いなどありはしない。

そこから更に堕ちぬ事を幸運とし、欲を掻かずただ与えて貰った物を後生大事に抱いて歩くしかない。


そんな想いなど、惨めさなど…この人には一生理解出来ないだろう。


蔑まれ嘲笑される悲しみ、理不尽に鞭で打たれる痛み、殴られ八当たりの道具にされて骨を折られた屈辱。

そしてただ尊厳を踏み躙りたいが為だけに犯される怒り。


それら全てを与えるのはいつだって貴族だ。

だから!笑うな!笑うな…嗤ってくれるな!


「はぁ~可笑しい! 君は根っからのヴァジャ(人買い)なんだな」


何とでも言えばいい。

俺にだってあったさ、ただ真っ直ぐに生きていた日々が。

だが、コイツの様な人間達が頂点に居るのなら俺達に何が出来る?

抵抗すら許さないその力で俺達から何もかもを奪うというのに。


「君達は性別を、売り買いの判断基準にしかしないのだろう?だがね、私は違う…もう一つの見方をする」


俺の中で渦巻く不快感がそろそろ限界に来た時だった。

アルシャバーシャ様が俺に顔を近付け耳打ちした。


「それはね…この子が女で、世には男が在る事さぁ」


何を言っている?

俺は娘へ向けていた目を少しずらした。

揚げ足を取られぬ様にこの人の顔は見ない。

嫌な汗が背中を伝う。


「まだ分からないのかい?」


そんなの分かっている!だが俺にも人としての

最低限の良識は持っている!なのにお前は、お前達はっ!


「ふぅっ…で、アルシャバーシャ様…貴方はその責任を取れるのでしょうか?」


取れない。

としか答え様の無い質問を返した。

この人の言いたい事の結果をどこまで理解しているのかを知りたいからだ。


—— 子を作る。

—— 魔力貯蔵(タンク)を増やす。

—— 消耗品を量産する。


その為の種と苗床。

悍ましいと、吐き気と共に涙が腹の底から溢れそうで俺は拳を握り歯を食いしばった。


俺の()を、2度も失う訳にはいかない!

もう絶対に、あの悲しみを、苦しみを味わう訳にはいかない!


子は物じゃない。

そんな事俺が1番分かっている。

売っているから分かっている!


人を殺める事、買う事、売る事。

一線を越えて終えば何という事はない。

非人道的な事も()()となるだけだ。


だからこそ、俺は人を見極める。

まだ生きる希望を抱く者は買わない。

絶望に生きる事を諦めた者を買う。

せめて、せめて、せめて!

1日でも長く生きて欲しいからっ!

人でありたいから!


「責任? あはっ、君がそれを問うのかい? くふっ、ふっ、ふふっ」


「私は子を買いません。明日があるから…年老いた者も買わない、下げずとも良い頭を下げさせたく無いから! 明日を…何故貴方様が決めるのです? 弟君すら助けられなかった貴方様がっ、どうやって民を守るのですっ!」


もう目は逸らさない。

俺は溢れる涙も拭わずただ見つめた。


「弟君が苦しまれた事を喜んでおられるのですか? だからこの子等にも同じ結末を見せ、喜ばれるのですか? この子等に幸せを与える…責任を負えるのですか?」


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