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過去2

弟は幼い頃から人を魅了する所があった。

可愛らしく従順で、感情を読むのが上手く、大人達を良く手玉に取っては遊んでいた。


そんな弟、イルシャムに初任務が言い渡されたのは12歳となったばかりの頃。


「レークイスの動きがな」


「父上、レークイスは帝国と一戦交えるつもりでしょうか」


当時、レークイスは他国から見向きもされぬ様な国であった。

鉱山資源以外に外貨を稼ぐ物は無い癖に、他国の利を考えず融通も利かない外交下手な田舎者の集まりと誰もが彼等を毛嫌いしていた。


「そもそも、レークイスの無茶な採掘によって河川を汚染した事が原因の癖にな…穀物の輸出量激減に激昂し、世界会議でガザンを名指しで非難した」


「父上、ガザンは相手にしなかったのでしょう?」


「大人な対応をしておった。穀物の代わりに羊10万頭の供給を提案したぞ。本来ならばそんな必要はない。しかし、戦を避けたいガザンはそれを提案した。儂ならその場で剣を抜いておったわ」


「何故レークイスは会議でそれを話題にしたのです?」


「?」


そんな非常識な事を言えば、ガザン以外の大国は黙って無いだろう。

自然災害による飢饉はどこにでもあり、それを理由に援助し合う事はあってもそれを理由に他国を非難する事はない。河川の汚染原因がレークイスなら尚更だ。


ガザンをきっと各国は守る。

そんな事、いくら愚か者の集まりレークイスとて分かっていたろうに。


「きっかけが欲しかったのではありませんか?」


「戦のか?」


「これまで、レークイスが我を通す事は幾度となくありました」


「うむ」


「しかし、大国と一戦を交えても補給を断たれ、物量に押されて停戦を申し出る事は殆ど。故に自ら戦を吹っかける事はありませんでした」


「……」


「打開策を見出したか?」


「補給は土地柄見込めない。ならば短期決戦でどうにか出来る算段が着いたのでは」


考えられるとすれば魔術道具を兵器に応用した可能性。そして魔術道具師(マジシャン)の育成だ。

また、毒や病をばら撒く…それが有用かどうかを確かめる為に敢えて河川を汚染したのならば?


「ならばイルシャムを行かせるか」


「父上! イルシャムはまだ12! 初任務がレークイスなど」


子供は入り込みやすい。

警戒心の強い土地は大人の流入に過敏に反応するため、年端も行かない子供を間者にする事は良くあった。

しかし可愛い弟を死地に追いやる真似など出来ない。


「父上、兄上! やります!」


兄として、弟の成長は嬉しい。

しかし、今回の任務は生優しくは無いだろう事を私は予期していた。

弟の素性がバレたら。今まで国王陛下以外には秘匿してきた事実が公となれば…イルシャムも、父上も私も無事では済まない。


しかし、イルシャムは躍起になっていた。

才を使ってみたい、己を誇示したい。年齢的にもそういう気持ちが前に出ていた。


イルシャムにはガルフェウスというレークイス生まれの補佐を付け、魔術道具師を生業にしている、こちらの息の掛かった家門の従僕として潜り込ませた。

上手くいく。行かせてみせる、そう私も注力した。


他の者による2ヶ月の内偵で分かった事は、レークイスは愚かだが、阿呆ではなかったという事。


次々と齎される内情は、世界勢力すら書き換える物で、聖貨に代わる貨幣を鋳造し、魔術道具を応用した兵器を量産していた。

しかも、魔術道具師を数百人も囲っており、中には5才にも満たない子もいた。


総力戦。まさにそれであった。


直ぐにイルシャムを帰国させねばならないと陛下は仰った。

しかし、判断が遅かった。




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