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* 唄 ***
私は、素直に涙を流すことができない子供だった。
花を折られて、悲しかったのに。
花が枯れていくのを見るのは辛かったのに。
―――あの子の花が、庭で枯れた。
蕾もできていない、あの子の花が。
それは、あの子が花を愛してあげなかったから。
花に触れようともしなかったから。
あの子は涙を流した。
涙を流すあの子に、大人達は「優しい子だね」と言って微笑み、温かい眼差しで慰めた。
―――涙を流せば、誰もが優しいの?
―――涙は優しいことの証なの?
―――花を見捨ててしまったのに?
―――泣き叫ぶ花の声から耳を背けたのに?
―――涙を流せば、許されてしまうの?
私は……素直に涙を流すことができない子供だった。