表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トワの奏弦士  作者: 苫古。
◆第1章◆ 花とヨルの箱庭
6/57

05. 市場にて

「うっわ~、すっごい音。これだったら、俺でも朝起きられそう」

「じゃあ、長様に頼んで、屋敷の庭に鐘楼を建てて貰ってあげるよ」

「やめろよ? ……マジでやるから、あの人」

 時を報せる鐘の大音響に耳を塞ぎつつ、ウィード=セルは目の前の小さな神殿を見上げた。

 どうやら、街の至る所にこういう神殿があるらしい。鐘の音が鳴り出すとともに、一日の始まりに祈りを捧げに来ていた人々が、それぞれの道に散って行く。

「やっぱり、俺たちも行った方が良かったんじゃないか?」

「いいけど。真っ先に、神様に罰せられても知らないよ」

 そう答えながら、ヒース=クラウンはようやく開き始めた市場を見回した。

「それで、どうしようか?」

「俺はアレがいいと思う!」

 ウィード=セルが指差した先にあったのは、人の良さそうな老人のクレープ屋だ。生地の中に、野菜や香辛料で軽く炒めた鶏肉が挟んであり、ほかほかと美味そうな湯気を上げている。

「……誰が、朝食の話をしてるの」

 さっき、朝の女の子に貰ったサンドイッチを、美味い美味いと、大袈裟に絶賛しつつ食べたばかりのはずだが。

「いらないのかい? 俺の奢りだよ?」

「奢りも何も、僕、お金持ってないし。どこかの主人が、給料もくれずにこき使うから」

「……さー、朝飯だー」

「僕、出来たてじゃなきゃ嫌だから」

 さっさと屋台に歩み寄ったウィード=セルは、いそいそと皮袋から取り出した小銭を老人に渡し、クレープを受け取った。尊大な態度で片手を差し出した従僕の少年に、一つを渡してやりながら、熱い生地と柔らかな鶏肉に大きく齧り付く。

「まあ、のんびり行くとしよう。町中、虱潰しに歩いていけば何かに当たるさ。だから、〈姫〉と二手に別れたんだろう? まあ、時間がそうあるとは言えないけどねぇ」

「……大丈夫かな」

 まだ幼さを残す顔を曇らせたヒース=クラウンが、クレープを手にしたまま頼りなさ気に俯く。その銀色の頭を、ウィード=セルはクシャッと撫でて笑った。

「大丈夫さ。もしも見つかって追われることになっても、お前たちだけは、俺が絶対逃がしてやるから」

 あ、今かなりいいことを言った、と一人悦に入りかけたウィード=セルの様子に、ヒース=クラウンは奇妙なものを見つけたかのように眉根を寄せる。

「……? 心配しなくても、僕は勝手に逃げるけど。大丈夫かなって思ったのは、〈森〉に帰った時、長様にちゃんと報酬が貰えるかってことだよ。僕、タダ働きって大嫌いなんだよね」

「…………」

「でも、僕たち(、、、)相手にじゃ、やっぱりくれないかもしれないね。という訳で、ウィード= セル。やっぱり、ちゃんと生きて帰って貰える? とりあえず」

「……えーと」

「あー、これ辛い。あっちの果実水も買ってよ」

「………はい」

 スタスタと先を行く従僕の後に、主人(サイフ)は肩を落として従った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ