表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トワの奏弦士  作者: 苫古。
◆第5章◆ 白銀の奏
46/57

04. 白夢

夢から覚めたような、一瞬――――。


「―――っやッ」


 やっと星水(セーラ)から顔を出すことが出来たマーセルは、抗いの声を上げた。だが、それを許さない冷ややかな腕が、彼女を再び水の中へと押し戻す。

 波打ちの間から、必死に空気を飲み込むが、どうしても水を飲み込んでしまう。

 しかし、身体に入ってくるのは水だけでない。マーセルは、自分の中に流れ込んできた、もっと他の、異質なものの存在をはっきりと感じていた。

 粘性の強い液体を注ぎこまれているかのような不快な感覚で、気持ちが悪い。眩暈のせいで、思わず力が抜けてしまいそうだ。

(な、に? なんなの、これ……ッ!)

 それは、凄惨な光景を再現したかのような幻。

 ここ暫く、彼女を苦しめてきた夢の続きが、頭の中に押し寄せる。


 双子の姉妹。

 妹を手にかけ、自らも命を絶った姉。

 彼女は死してなお、妹を思わせる容姿をした年若い娘を殺し続ける。

 哀しい、〝レイファーナ〟と呼ばれた娘。


 ―――〈白花の姫君(レイファーシャ)〉。

 代々、癒しの練祈を持った神子姫に与えられてきた称号。


 ……これは、偶然?


 それとも、彼女が………、


 彼女が犯す殺戮の様を、マーセルは彼女自身の視点から見つめ続ける。

 長い髪を振り乱し、怯えた顔で涙を流す娘たち。

 幾人も、幾人も……娘たちの中に混じり、何故か一人だけ初老の男の姿もあった。

 そして、その男の後に映し出されたのは――――――シェンナという、あの娘。


(―――やめてっ!)


 初めて目にした、生前のシェンナ。

 彼女の姿が現れた瞬間。

 ――――マーセルの中で、鼓動と共に、熱いものが波打った。

 ポロポロと涙をこぼし、恐怖に引き攣るシェンナの顔。

 髪を振り乱して逃げ惑う姿と、命乞い。

 だが、まるで野の花を捥ぐように容易く、マーセルの指は彼女の首を握り潰した。


 シェンナの顔が、紅く咲く。


「いやああぁああぁあっ!!」

 マーセルの身の内で、何かが弾けた。

 これまでに感じたことのない、全身の感覚。

〈門〉を連想する錬祈とは違う、もっと別のもの。


 息苦しいまでの、世界の重圧に囲まれた感覚。


 何故だかは、分からない。

 荒れ狂う風の奔流のように、彼女に圧し掛かってくる世界。その奔流を止める術を、マーセルは知っていた。

 腕を、伸ばす。

 奔流を掻い潜り、導かれるままに、マーセルは世界の一点に触れる。


 ――――〈世界(トワ)〉が、ゴソリと動いた。


 全身でその気配を感じた瞬間。

 マーセルの視界は白銀に染まり、彼女の前には、また新たな夢幻が広がった。







■ □ ■ □ ■ □







 発ち上がった、白い銀の閃光。


華鏡(セイレル)〉から揺らぎ昇る光の眩さに、神官(ドナク)や神殿兵たちは一様に目を細めた。

「……そんな、まさか」

 祭壇の裾に立ち、その光の彩を目にしたルシアは、震える手で口元を覆った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ