* 吟 ***
足元を、見下ろした。
横たわっているのは、自らが生み出した血溜まりに沈む、紅い花の名を持つ女。
私の、妹。
私の、木霊だったモノ。
弄ぶように切り裂かれた四肢。執拗に刺し潰された喉元。
私を真似て伸ばし続けていた妹の髪は、血に濡れ、もとの艶やかさを失ってもなお、そこにある。
私は自分の髪を乱雑に掴んだ。
……目障りだった。
短剣の刃を当てる。
妹を葬った刃は、いとも間単に髪を断ってくれた。
不揃いな髪が、はらはらと首筋に落ちてくる。項を撫でる風を愉しみながら、私は天を見上げて目を閉じ、瞼越しの眼球に暖かな春の日差しを感じた。
「ラティカナ!」
花が咲き乱れる楽園の如き、春の昼間の庭に、絶叫が響き渡った。
父様と母様の声。両親が居るであろう方向に、舞の仕草でもって振り返ってみせた。
二人は、全身を戦慄かせながら、変わり果てた妹の姿に立ち尽くす。そして、まるで魔物に怯えるような眼で、こちらを見やった。
そんな両親の後ろ。呆然と立ち、私に絶望を向けているのは―――――彼。
「レイファーナ……」
彼の口唇が、私の名を形作る。
彼が紡いだ音が、私の名を結ぶ。
ただ、それだけのこと。
それだけで……胸に、花が咲く。
私は微笑んだ。
かつて、彼が花のようだと言ってくれた笑顔で。
再び、彼が口を開こうとしたその時、その前に―――――――、
私は、手にした刃で、自分の喉笛を深く掻き切った。