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トワの奏弦士  作者: 苫古。
◆第5章◆ 白銀の奏
45/57

* 吟 ***

 足元を、見下ろした。



 横たわっているのは、自らが生み出した血溜まりに沈む、紅い花(ラティカナ)の名を持つ女。

 私の、妹。

 私の、木霊だったモノ。


 弄ぶように切り裂かれた四肢。執拗に刺し潰された喉元。

 私を真似て伸ばし続けていた妹の髪は、血に濡れ、もとの艶やかさを失ってもなお、そこにある。 

 私は自分の髪を乱雑に掴んだ。

 ……目障りだった。

 短剣の刃を当てる。

 妹を葬った刃は、いとも間単に髪を断ってくれた。

 不揃いな髪が、はらはらと首筋に落ちてくる。項を撫でる風を愉しみながら、私は天を見上げて目を閉じ、瞼越しの眼球に暖かな春の日差しを感じた。


「ラティカナ!」


 花が咲き乱れる楽園の如き、春の昼間の庭に、絶叫が響き渡った。

 父様と母様の声。両親が居るであろう方向に、舞の仕草でもって振り返ってみせた。

 二人は、全身を戦慄かせながら、変わり果てた妹の姿に立ち尽くす。そして、まるで魔物に怯えるような眼で、こちらを見やった。

 そんな両親の後ろ。呆然と立ち、私に絶望を向けているのは―――――彼。



「レイファーナ……」



 彼の口唇が、私の名を形作る。

 彼が紡いだ音が、私の名を結ぶ。


 ただ、それだけのこと。



 それだけで……胸に、花が咲く。



 私は微笑んだ。

 かつて、彼が花のようだと言ってくれた笑顔で。

 再び、彼が口を開こうとしたその時、その前に―――――――、




 私は、手にした刃で、自分の喉笛を深く掻き切った。





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