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01. 闇夜の淵
◆第2章◆ 謳の悪夢
―――あの日。あの、月の夜。
「それで、貴女はどうしたいの?」
あの泉のほとりで、ずっと涙を流し続けていた彼女に、少年は静かに問うた。
女は、ただ涙を流すだけ。
もうずいぶん前に失われてしまった、愛おしい片翼を想って。
寄る辺ないその女には、そうすることしか出来ない。
しばらくして、まだ涙を流し続ける彼女に、少年はその手を差し伸べた。
「どうしたい?」
少年は、再び問うた。
風のない、冬の湖よりも静かな表情で。
曇りのない深淵の、夜の色をした瞳で。
第2章スタートです。ようやくです。
『謳の悪夢』と書いて、〈はなのユメ〉と読みます。無理やりです。
無茶なルビ振りは、作者の大好物です。