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トワの奏弦士  作者: 苫古。
◆序章◆
1/57

夜の孤供

ご訪問ありがとうございます。


小説を書くのも、何方かに読んで頂くのも初めてで、何が何やらです。

稚拙な文章なりに気張っていきますので、楽しんで頂ければ幸いです☆


この文章を読んで下さる皆さまに、幾億の感謝を。

 憐れんで欲しかったのでもなく、赦されたかったわけでもない。

 ただ、分け与えて欲しかった。


 ほんの、少しだけ。




 頭上を仰いだ。

 覆うように見下ろしてくるのは、闇色に塗りつぶされたの無数の影。取り囲むように居並ぶ、見知らぬ人間たちに戸惑いを見せることもなく、少年は視線を巡らせた。

 最期に、自らの手元に視線を落とす。


 ――――目隠し。


 幼い手にあるのは、つい先ほど解くことを許されたばかりの、白い布の目隠しだった。

「……こんなに……幼い子供が?」

 影の一つが、重い静寂を破る。他の視線が、その影に集まる気配。だが、どの人影もそれに答えはしない。

 少年は虚ろな目で、影らを見つめた。

 長いとも思われる沈黙の後、痩せ細った首を傾けながら、問う。


「―――おじさんたちも、ころしにきたの?」


「なにを……」

「ころしたいから、ボクのところに来たんでしょう? みんなそうだから。いつも、みんな最期には、ボクをころしたがるんだよ。―――さっきの、おじさんの友達みたいにね」

「…………」

 初めは優しげに差し伸べられる、大人たちの手。だが皆一様に、少年の力を目の当たりにした瞬間、微笑みの表情(かお)を恐怖、憎悪へと変える。

 彼の頭を撫でた、その同じ手で振り下ろされる鈍色の(やいば)を、幾度見上げてきただろう。

「だけど結局、誰もボクをころしてくれやしないんだ」

 何度も、何度も、何度も、何度も、同じことの繰り返し。

 いつも生き残り――――また、独りになる。

 少年はもう一度、己の手を見つめた。

 べっとりと赤く濡れた、乾ききっていないその手。

 数え切れないほど自分を殴った男から、壊れるように溢れたこの液体は、主の怨念のように纏わりつき、こびり付いて剥がれない。

 静かに差し込む冷たい月明かりの中、それは少年の手に握られた純白の目隠しをも、じわじわと侵してゆく。

「……お前は、死にたいのか?」

 男の問いに、少年はわからないと、緩慢に首を振った。

 少年の硝子玉のような夜の双眸は、此処にあるもの全てを吸うように深い。

 遠く、過ぎ去ったものへ注がれるかのような視線。それは、子供であることを、〈世界(トワ)〉に許されなかった者の目。

 虫の音が響く。

 痛いほどの沈黙に鳴る微かな虫の歌が、銀色に闇を震わせる。

 男は、すっと手を差し出した。それに気付いた少年が、訝しげに眉を顰める。

「この手を取るか、取らぬかはお前の自由だ」

 風が大気を撫でゆき、重く頭上を覆う黒雲を掻き乱した。

「取らぬのならば、私たちはお前を……お前に連なるものを、すべて消し去らねばならぬ。だが……」

 遮られていた月光が、一気に辺りを照らし出した。影の差した男の顔が、青白い光に浮かぶ。

「お前がこの手を取るのなら、我等はお前に居場所を与えよう」

 少年の目が見開かれる。

「―――お前に、生きる場所を」

「ボクに……」

 唱えるように呟き、大きく開ききった目で、少年は男の差し出す手を見つめ―――……。



 腕を、伸ばした。



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