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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

飼い殺し姫は優しい夢を見ない

作者: ユキア

私は飼い殺されている。

いつからだろう。もの心ついた頃にはここに居た。この地獄で。私は姫らしい。だからこの牢獄で飼われている。亡国の姫に生まれてしまったが為に牢に囚われて早5年。ここでは暴力だけが正義だ。ここでは誰であれ、偉いものも金持ちも老人も子供も強制労働させられる。私、No.2025番もその強制労働者の1人だ。不衛生な牢屋でまともに食事も与えられずに働かされる。でも、ここから出たいなんて思えない。いや、出られるという希望さえ打ち砕かれるのだ。隙間風がふく。寒さに打ち震えながら悴んだ手を摩る。そんなものは意味をなさないほどに悴んでいるがしないよりはましだ。ここに居るものに与えられるのは少しの布切れと囚人服ぐらいである。そして私は姫。だから特別に1人の牢屋に入れてもらえるが後のものは集団で入れられる。もちろん力の無いものから減ってゆく。あるものは食料を奪い合い、あるものは暖をとる布を取られて凍えてそのまま息絶える。力なきものから減ってゆく。そして、強制労働からは姫であろうと逃れられない。だが、たいした仕事ではない。兵器を作らされるのだ。ここに来るものは皆、帝国に滅ぼされた国の者達。皆捕らえられてここで働かされる。だが、ただ殺されるよりはまだ飼い殺しのほうがましなのだと言い聞かせる。だって、生きているのだから。ここに来れずに途中の道で亡くなる者、兵士として戦い死んだ者、生きる事さえ許されずにその場に捨てられた赤子。そんなのに比べたら私は全然ましなのだ。そうでも言い聞かさないとおかしくなる。だが、私はひとつの希望を抱く。ある時、牢屋に戻る通路で、1人の少年とぶつかった。少年はNo.8842番、ロンだ。ロンは私に希望をくれた。彼は脱獄を企てていた人間のリーダーだったのだ。そして彼は、私を仲間に入れてくれた。姫として他の囚人達から疎まれているはずの私を。彼はいい人なのだと思っていた。だから、ロンにいい人だねと言ってしまった。後から考えると愚かだったと思う。牢獄を脱出する日が待ち遠しかった。そしてその日は来た。私達は通気口を抜けて外へでる穴まで移動するはずだった。通気口前の看守が交代する午後8時には通気口から穴へと移動しなければならない。5人のメンバーが次々と通気口へと入ってゆく。最後に私が入る。必死にほふく前進した。

私だって綺麗な服が着たい!美味しい料理が欲しい!暖かくてふかふかのベッドで寝たい!そんな希望は全て打ち砕かれる。ここでは暴力だけが正義だ。弱いものはまびかれる。光だ!だが希望の光なんてない。見えた光は看守のライトだった。目の前が暗くなる。そのまま殴られて引きずり出され、壁へとたたきつけられた。なんで?なんでバレたの?そう思っていると穴があるはずの場所に穴なんて無かった。最初からロンは私を囮にして逃げる算段だったのだ。後で聞いた話しだが、穴は通気口の前ではなく、通気口から2つ目の通路にあったらしい。看守がそう話していた。私は姫だ。なのに、……。何度も何度もムチで打たれる。痛い。そして、痛みに慣れてきた頃に牢屋へと再び叩き戻された。この地獄からの出口はない。ないのだ。そうして絶望して目を閉じた。

何かが近づいてくる。前の牢屋に誰かが入れられた。目を開く。そこにはボロボロになったロンがいた。何故?!ロンは必死に説明してくれた。本当は私を逃がしてくれるはずだった。だが、音を立ててしまって看守に気付かれてしまったらしい。そして、結果的に私を囮にしてしまった。ロンはその罪の意識から戻ってきてくれたのだと。いい人だって言ってくれただろって笑う。そして、言い終わると事切れた。後悔した。一瞬でも彼を疑った事を。いい人なのだと思っていた。本当にいい人だった。いい人だったから殺されてしまった。私は愚かだ。一瞬でも疑っただけでなく。彼をいい人にして殺してしまったのだ。彼はいい人なんかじゃなかった。リーダーにふさわしい人でもなかった。看守から聞いた話しだが、彼は元軍人で、彼の作戦の失敗のせいで私は囚われたらしい。そして、国王を騙して戦争に駆り立てた。そう、わいい人なんかではなかった。国民を戦争に導いた戦犯だった。でも、最後の最後でいい人になってしまったのだ。私は後悔した。彼を悪人からいい人にしてしまった事を。そして、逃げ道なんてないのだと絶望した。





夢を見た。そう、これは夢のお話。かつての夢だ。あの日、私は脱出に失敗なんてしていない。だからこそ、今、塀の外で生きている。叶わない夢なんてないのだと喜びをかみしめながら……。

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