表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノアの星旅  作者: たか
1/2

序章

挿絵(By みてみん)

暗黒に包まれた宇宙空間の中を、一隻の宇宙戦艦が突き進んでいた。

その名は「ノア」。

遠く離れた銀河系からやって来た人類の希望の象徴である。

ノアはかつて無敵と言われた宇宙戦艦だったが、

今や全身を無数の弾痕に覆われ、片翼はもげ落ちようとしている。

残る片翼も、修復可能な状態ではない。

しかし、乗組員たちは決して諦めずに前進し続けた。

彼らは目的地である別の銀河へ向かっており、そこに生存可能な新天地を探す計画だった。

「みなさん! エネルギーが足りません。節約して航行してください!」

船内スピーカーから、若々しい女性の声が響き渡る。彼女はアリシア・コルダ。

肩までのストレートヘアで、銀色に輝くような

青いグラデーションカラーの髪をした優秀な科学者で、

ノアの生命線でもあるエネルギー供給を担当している。

いつでも動けるよう白い実用的な戦闘服を着ていて、

上着の背中には宇宙戦艦ノアのエンブレムが入っている。

「了解! エネルギー消費を最小限に抑えるよ!」

通信士が応答した。

彼らは皆、宇宙戦争によって故郷を失い、ノアに乗り込んだ戦友たちだ。

しかし、彼らの表情には疲れが見え始めていた。


希望を持って旅立ったものの、無事に到着できる保証はどこにもない。

それでも、彼らは前に進むしか道はなかった。

「ケント! 修理用のパーツを探してきてください! 私は別の場所を調べます!」

アリシアは通信士と並んでいる男に向かって叫んだ。

男の名はケント。元宇宙海賊団の一員で、今はノアの船長代行を務めている。

「わかった。気をつけろよ、アリシア!」

「はい! ありがとうございます!」

短髪で黒髪のケントは不愛想な表情で返事をすると、即座に部屋を飛び出した。

彼は以前、敵対勢力との戦闘中に額に大怪我を負っており、その後遺症で常に不機嫌そうな顔をしていた。

アリシアは急いで科学研究室へ向かう。

そこでは、残された少ない資源を使って修復作業や新たな発見を目指す日々が続いている。

「あった! この素材なら、何かに使えるかも……」

アリシアは希望を胸に、手に取った素材を調べ始めた。

ノア内部にある物資は限られている。

だから、どんな小さな物でも有用なものは決して無駄にせず、研究に活用するのだ。


しばらく集中していると、突然、船内に警報音が鳴り響いた。

「何事ですか!?」

アリシアが慌てて外へ出ると、ケントが血相を変えて走ってきた。

「アリシア! エンジンルームで爆発が起きた!」

「えっ……?」

予期せぬ報告に、アリシアは目を見開いた。

「私たちは今、エネルギー供給に必要な資源を探すために最下層まで降りていたはずです。火花一つでも散れば大惨事になりますよ!」

「そうだ。だが、現場に行って確認した方が早い。付いて来い!」

二人は急いでエンジンルームへ向かった。

長い通路を駆けながら、アリシアは頭の中で状況を整理しようと努める。


(爆発……? こんな閉鎖空間で火災なんて起こったら、みんなが危ないわ。早く原因を突き止めないと)

エンジンルームに到着すると、辺り一面が赤く染まっていた。

壁や床には焦げた後が残り、所々で火がチラチラと燃え続けている。

「ひどい有様ね……」

「ああ。だが、不思議なことに、被害はこのエンジンルームだけだ。

他の部屋からは何の音もしない」

ケントは周囲を見渡しながら言った。

アリシアも同じく観察する。すると、彼女の目にある物が飛び込んできた。

「これは……プログラムデバイス?」

地面に落ちていた小型の装置破片を拾い上げる。

それはノアの制御を担当する重要な機器の一つだった。


「おい、アリシア! それってまさか……」

ケントが顔色を変えて近づいて来た。アリシアは急いで装置を確認する。

「可能性は高いわ。他にもこのデバイスが爆発すれば、エンジンルームだけじゃ済まなかったはずよ。外部からの攻撃を受けた形跡もないし、内部からの爆発ならこれが原因じゃないかしら」

二人はお互いに視線を交わし合う。

どうやら、このプログラムデバイスが爆発したことで、限定的な範囲での爆発事故が起きたようだ。

「こんなことが起こるなんて……誰かが意図的に起こしたの?」

「分からない。だが、これが他の部屋にあるものまで爆発していたら、俺たちは全員死んでいたかもしれない」

「そうね……。とりあえず、みんなに知らせなくちゃ」

アリシアたちはエンジンルームを後にして、急いで船内放送用の設備へ向かった。

「みなさん! 緊急事態です! エンジンルームで爆発が起きました。幸い、被害は限定的ですが、プログラムデバイスが破損しました。ノアの制御システムに影響が出る可能性がありますので、注意してください!」

アリシアの声が船内に響き渡る。返事はない。彼女たち以外にも乗組員は大勢いるが、爆発の音で気を失っている者や、避難中の者が多数いるようだ。

(私がみんなを守らないと……)

アリシアは改めて決意を固めた。これからも予期せぬ事態に直面することがあるだろう。しかし、彼女はそれらを一つひとつ解決していく覚悟があった。

「ケント、私たちも避難しましょう。今は安全第一よ」

「ああ。でも、どこへ向かえばいい? 他の部屋に行っても状況は変わらないだろう」

ケントの言葉に、アリシアは少し考えてから答える。

「最上階のブリッジに向かいましょう。そこなら防火設備も整っているはずよ」

二人は急いで階段を登り始めた。途中、倒れている仲間たちを見つけるが、手を差し伸べる余裕はない。彼らには後で助けを呼びに行くことにして、先を急いだ。

最上階に到着すると、ブリッジの扉が見えた。

中からは話し声が聞こえる。どうやら、誰かがいるようだ。


「誰かいますか!?」

アリシアが大声で叫ぶと、ブリッジのドアが開いた。出てきたのは船長のロバート・ミラーだった。

「おお、アリシア! ケントか。無事だったか」

安堵の表情を浮かべるロバートを見て、二人もホッと一息つく。

「ええ、何とか。爆発に巻き込まれそうになったんですけど、運良く逃げ切れました」

「私たち以外の生存者は?」

アリシアが尋ねると、ロバートは少し考え込むような素振りを見せた。

「半分以上は避難できたようだが、まだ数名が行方不明だ。

リアクター付近で見かけたという報告もある」

「そうですか……。一緒に探しに行きましょう。最下層へ戻りましょうか」

アリシアが提案すると、ケントが待ったをかける。

「いや、俺はここでブリッジを守ろう。ここがノアの心臓部だ。

何かあった時に対応できるのは俺たちだけだろう」

「わかりました。お願いします。私たちは最下層に向かいます」


二手に分かれて行動を開始する。

アリシアとロバートは再び階段を降りて、最下層へ向かった。

「行方不明者の捜索は、俺たちだけだ、もっと人がいると良いのだが」

「大丈夫よ。今は生存者を優先するべきだわ。」

落ち着いた様子のアリシアに、ロバートは小さく頷いた。


二人は無言のままエレベーターに揺られ続ける。やがて、目的のフロアに到着した。

ドアが開くと、そこには暗闇が広がっていた。

ライトを照らしながら進んで行く。しばらく進むと、突然目の前が開けた。

そこは広大な空間で、壁一面に機器類が設置されていた。


「ここがリアクターよ。行方不明者がいるって言ってたのは、ここのどこですか?」

「具体的な場所までは分からない。だけど、あの辺りに人影が見えたと報告があった」


ロバートが指差した先には、巨大な熱核反応炉があった。

周囲には作業員用の通路や細かい区画があり、そこにはまだ多くの機材が残されていた。

「結構広いから全部探すのは時間がかかりそうです」

「そうだな。でも、焦らずに一つずつ調べるぞ。手分けして探そう」

二人は左右に別れて捜索を始めた。

ロバートは奥へ向かい、アリシアは手前の区画を調べることにした。

数十分後、何の変化もないまま時間ばかりが過ぎ去っていた。


「おかしいわね……。本当にここにいるのかしら?」

アリシアは小さく独り言を呟いた。すると、突然背後から声が聞こえてきた。

「おい、そこの女!」

驚いて振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

見るからにワイルドな風貌で、身体中に古傷がある。ケントよりも年上のようだった。

「あなたは……?」

「俺の名はジョーカー。宇宙海賊団『死神の右手』の元メンバーだ」

男は自己紹介を終えると、ニヤッと笑みを浮かべた。

「行方不明者を探しているんだろ? 案内してやるよ」


アリシアは警戒しつつも、ジョーカーに付いて行くことにした。

彼はノアの設備に精通しており、効率的に行方不明者を見つけ出すことができると判断したからだ。

ジョーカーの先導の下、二人は反応炉へ向かった。

反応炉周辺は他の区画に比べて開けた空間になっており、多数のパイプが縦横無尽に走っていた。

「この奥に生存者がいるはずだ」

ジョーカーが指差した先には、巨大な機械装置があった。

その近くに、小さな影が動いているのが見えた。

「あれは……!」

アリシアが息を飲む。影は少女だった。


身体中埃まみれになり、何かを必死で操作している。

「おい、そこの女! あの子を助けてやってくれ!」

ジョーカーが叫ぶ。アリシアは駆け出した。

少女に駆け寄ると、彼女の手元を見る。そこには予期せぬ光景が広がっていた。

「これは……緊急停止装置?」

少女が操作していたのは、ノアの反応炉を強制的に停止させる装置だった。

なぜか起動しており、カウントダウンが進んでいた。


「早く止めないと、反応炉が暴走するわ!」

アリシアは焦る。しかし、少女は混乱して操作を誤ってしまう。

カウントがゼロになろうとしていた。

「きゃあっ!」

突然、爆発音が鳴り響いた。アリシアと少女は吹き飛ばされ、地面に転がる。

大量の煙が立ち込め、視界が悪くなった。


「大丈夫か!」

ロバートが駆けつけてきた。二人は無事だったが、反応炉が巨大な火柱を上げていた。

「やばいわ……。このままじゃノアが……」

アリシアは青ざめた表情で言った。

暴走した反応炉はもはや手の施しようがなく、消火活動も間に合わないだろう。


「くそっ、俺たちに何ができる?」

ジョーカーが歯嚙みした。そんな時、ロバートが閃いたように声を上げた。

「あるぞ、希望は! 非常用の核融合反応炉があるはずだ!」

「非常用反応炉?」

「そうだ。通常の反応炉がダメになった場合に備えて設置されている。

これを起動すれば、反応炉を冷却して止められるはずだ」

三人は急いで非常用反応炉までへ向かった。

道中、爆発の影響で折れたパイプや落下した機材など、多くの障害物が現れた。

しかし、三人は手を取り合いながら進んで行った。


「非常用反応炉まで後少しよ!」

アリシアが叫びながら走る。突然、前方から大量の熱風が吹きつけてきた。

反応炉の火柱が崩れ落ち、辺り一面が煙に包まれたのだ。

「くそっ、視界が……」

ロバートが歯嚙みする。目の前が真っ暗になったかと思うと、強烈な光が差し込んできた。反射的に目を閉じる。再び開けると、そこには非常用反応炉の扉があった。

三人は急いで扉を開き、中に飛び込んだ。

非常用反応炉の部屋内部は非常に狭く、数台の装置が並べられていた。


「早く起動させろ!」

ジョーカーが叫ぶ。アリシアは操作パネルに向かい、必死にスイッチを探した。

ロバートも手伝い、何とか起動準備を整える。


「起動シーケンス、開始……。核融合燃料の投入を確認。全システムグリーン。非常用核融合反応炉、起動します」

アリシアが宣言すると、装置が駆動音を立て始めた。

激しい光と共に、スクリーンにプログラムが実行されている様子がものすごい早さで流れている。

「行け! ノアを救え!」

ジョーカーが叫ぶ。

別のスクリーンのメイン反応炉の温度ゲージがどんどん下がっていき、暴走した炎は、徐々に勢いを失っていく。

「やったわ……!」

アリシアが安堵の息を吐き出す。ロバートも胸を撫で下ろした。

しかし、ジョーカーだけは不思議そうな表情を浮かべていた。


「おい、この非常用反応炉をどうやって起動させた?」

「どうやってって、マニュアル通りにスイッチを押しただけよ」

アリシアが首を傾げる。ジョーカーは頭を抱えた。


「お前ら、本当に宇宙船のクルーかよ……。あんな非常用反応炉が簡単に起動できるわけねぇだろうが」

「えっ、そうなの?」

「ああ、普通はセキュリティがかかってる。生体認証とパスワードが必要なんだよ」

ロバートは解除していなかったので驚いていた。アリシアは苦笑いする。

「じゃあ、なんで起動できたのよ」

「さあな。運が良かったのか、セキュリティが解除されてたのか……。まあ、結果オーライだ」

ジョーカーは投げやりな口調で言った。

三人はひとまず安堵し、反応炉周辺に取り残された少女の元へ向かった。

画像はアリシア・コルダです。

続きは後日投稿予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ