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phase6   再会(1)

「くそ...今思い出してもムカつくぜ」


思い出すのは昨日の事


一日経ったというのに、あの失礼極まりないあの子に対し、未だに不平を垂れている俺


我ながら未練がましいと思えなくもない


おかげで、歩美との他愛無い口論にも翳りが出てしまい、危うく言い包められそうだったほど苛立っていたし


ともかく今は、結局は言い包めることに成功した歩美と、二人並んでの登校しているわけだ


「ふ~ん、そんなに嫌な女の子だったの?」


「ああ、一瞬見ただけで天敵だと悟ったね。普通いるか?俺と全く同じ内容の買い物をして、しかも俺を見下して勝利に酔いつつも暴言吐くような人間が」


普通いねぇよそんなやつ


「あ、あはは...まぁ、確かにすごい偶然だよね」


もう最悪の偶然だ


「ったく、どこの奴かは知らねぇけど、次は必ず見下してやる」


絶対に一番安い品物を揃えて目の前で勝ち誇ってやる


そんで、捨てゼリフよろしく敗北を実感させてやる


お前なんてその程度だって、思いっきり上から目線で罵ってやるんだ


ああ、もう絶対にだ


「変な宗馬。何をそんな買い物くらいで一人でムキになってるの?らしくないよ?」


「買い物くらい言うな!俺が毎日を生きるため、どんだけ苦労してると思ってんだ!」


「何よ。そう思うんだったら、家に戻ればいいじゃないの。ウチならそんな苦労しなくて済むんだし。あ、そうだよ!そうしなよ?ね?宗馬っ!」


「...だから嫌だっ!っての」


ったく、今日はやけに食い下がるな


どうせ手負いの熊だと思って攻めてきているんだろうけど、俺もそうは甘くない


「でも、その子って、ウチの高校の生徒なの?実は知り合いだったりする?」


「まさか、誰があんなのと知り合いなもんか。それに俺は制服だったけど、そいつは私服だったし、詳しいことは分からん」


やけにだらしない服装で、髪型がボブカットだったってのは覚えてるけど、でもそれ以外で外見にさしたる特徴はなかった気がする


まぁ、さすがに見た目中学生か大学生ってことはないと思うけど


「ふ~ん、そうなんだ。でもそれなのに、またその女の子に会えると思ってるわけ?そんな偶然そう簡単にはないと思うけど」


至極もっともな事を言う歩美


でも、俺の意見は違う


「いや、多分会えるだろ。だって、タイムサービスとか一番安いところまで使って買い物する高校生だぜ?きっと俺と同じように極貧一人暮らしをしているに違いないんだ」


そうさ、きっと俺以上の貧相な生活をしてるに決まっている


きっとそうさ、そうに違いない


お前の家のワンルームには3口コンロなんてありゃしないだろ?


精々一口電気コンロだろ?


へっへ~んだざまぁみろ


なんて、無意味に勝ち誇ってみるも、むなしさが募るだけだった


「でも、ホントにそうなのかな?もしかしたら家の手伝いしてたのかもよ?」


「そりゃそうかもしれないけど、でも歩美は知らないんだよ。夕方時の奥様方とのあの壮絶な攻防を。あれを掻い潜るにはそれなりの修行が必要なんだ。それなのにその中で目的の一番安い品物を買い揃えるなんて、ありゃ相当のテダレだね」


商店街を知り尽くしている俺が言うんだから間違いない


「へぇ~~、でもお母さんはそんな苦労してないような気がするけどな?」


「それこそ甘い。というか知らなすぎだ。俺の買い物の師匠は里美おばさんなんだぜ?いやもう俺マジおばさんを尊敬してんだから」


昔、手伝いにと、おばさんと一緒に買い物に出かけて、初めてあの脚捌きや身のこなしを見たときは、それはもう体が震えたもんだったよ


「あの軽やかかつ自然な動作、あれをマスターすることが俺の目標の一つだな」


拳を握り締め、改めて決意する俺


「そ、そうなんだ。私には、ちょ~っと無理かもね...」


そんな俺を見て、微妙に引いている歩美


ふん、余裕扱いていられるのも今のうちだ


この街にいるのなら、あれは必ず一度は通る道なんだからな?


「ともかく、あいつは必ずあの商店街に現れる。相手にどういう経緯が有っても知るもんかってんだ。俺は何がなんでも絶対に、昨日の決着をつけてやる」


いや、どっかのライバルキャラよろしく、負けを認めずに勝手に思い込んでるだけなんだけど


「ふ~ん。ま、せいぜい頑張んなよ。応援くらいはしといてあげるからさ...って、ん?あ、あれツバサちゃんだ。お~~~いっ!ツバサちゃ~~~~ん!!」


知り合いを見つけたのか、俺のときと同じようにデカい声を張り上げる歩美


「って、お前は誰にでもそんな大声で呼びかけてんのかっ?」


なんて傍迷惑な奴だ


「うっさいな~、そんなの私の勝手でしょ?お~~~いっ!!おっはよ~ツバサちゃ~~~~~~~ん!!!」


「ったくこいつは...」


悪態をつきつつも、その呼びかけられた子の方を見やる


その子もどうやら、歩美に気づいたらしく...気づかないわけもなく、こちらに振り向いて歩いてきた


心持うんざりして見えないでもない


うんうん、よく分かるぞその気持ち


君は俺の同胞かもしれないな、うん


「...でも歩美が、ツバサちゃん...ね」


歩美は、声はでかいくせに少しばかり人見知りの感がある


おかげで昔は、いっつも俺にばかり付いて回っていたものだ


それも随分改善されたとはいえ、まだ根っこの部分で人との接触を微妙に怖がっている部分があったりする


でもそれを名前で呼ぶともなれば、恐らくは相応に仲がいいのだろう


きっとそのツバサちゃんというのが、よほどの好人物に違いない


それに、俺と同じ目に合っていることを鑑みても何となく好印象を持てる


というわけで、何となく気になって、そのツバサちゃんを見てみることにした


「む」


まぁ、当然だが鴇視の制服を着ていて


背は歩美よりも、ちょっと低いくらいで


髪型はボブカットで...


気持ち大人しめな印象...というよりはクールな感じで...


...何故だか、微妙にだらしなさを残す服の着方をしていて?


で...


そんで...その...


どっかで見かけたよう...な...気、が...?


「って、うああああああぁぁぁっ!!?」


「うわっ、何、急にどうしたの?」


「お、おおおおお...」


震える指で指差してその、ツバサという女の子を見つめてしまう


というか、睨んでしまう


「お前はぁぁぁっ!!」


そこには見間違えようもない


昨日商店街で出くわした、俺のことをあっさりと見下しやがった、例のあの暴言女の姿があった

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