phase5 出逢い(4)
「ふっ...」
その子の第一声は、俺を蔑んだような笑い声だった
つか、鼻で笑われた
いや、もう思いっっっきり見下されていた
「くっ!」
一瞬にして、額に青筋が走る
どうやら同い年か年下であろう女の子に見下されて、それで腹の立たない奴はそうはいない
だから、ちょっとヒトコト言ってやろうと思ったのだが
「って、あ゛!」
だがそれよりも、あまりに驚くべきものが目の前にぶら下がっている事に気づく
だってそこには...
丸特スーパーのビニル袋に入った豚肉とたまねぎ
八百吉のものであろう半玉キャベツとトマト
そして、この激安専門店、一安の袋に入った卵一パック...
俺の買えなかった...卵、1パック...
という、本来なら今日、この俺の買うはずだった商品達...
って、何で全部俺と買うものかぶってるんだコイツはっ!?
俺に対する当て付けなのかっ!?
「そ、それは...まさか...」
声が心なし震えてしまうほど動揺している俺
だって、あの戦場とも言える店の中で、こんな女の子が生き残れるなんて、正直信じられない
「ええ。これは間違いなく、この私が『勝ち取った』商品よ」
「くっ!」
そして、親切にも俺の疑問を悟って、わざわざご丁寧にその正解を教えてくれる女の子
つか、敢えて勝ち取ったことを強調してって言いやがったなコイツ
「ボソっ...(負け犬ね)」
「っ!?」
今コイツ人のこと負け犬って言わなかったか!?
しかもボソッと見下して笑みを浮かべて斜めからっ!
「てめぇっ!!」
すぐさま立ち上がり...
というかようやく立ち上がり、そのムカつくだらしのない女を見据えてやる
背はこっちの方が高く、それを利用して今度は逆に見下ろしてやった
だが、そんなことはコイツにとって気に留めることでもないようで
「何?キレたの?まるでどっかのSF映画の主人公みたいな人ね...よっぽどヘヴィな性格でもしてるのかしら」
なんて挑発じみた言葉を俺に返してきやがった
「くっ!お前なぁっ!」
初対面早々見下されて、かつ負け犬呼ばわりされて、オマケに妙な例えでバカにされて、これで怒鳴るなと言うほうが無理だ
「あ~怖い怖い。年下の女の子相手に本気でキレてるわこの人。サイテ~ね」
「く...」
いや、あまりにその通りなので、つい逆にたじろいでしまう
我ながら大人気ないと思う
でも男ってのは、基本女の子相手に強気になれない生き物なのだ仕方ないだろ?
って、今コイツ自分で年下って言いやがったな。ってことはやっぱり年下なのだろうか?
まぁ、見た目そう見えなくもない
「それじゃサヨナラ負け犬さん。今日は、その少し高くついてしまったお肉でも食べながら、精々嘆いて喚いて自身を呪っているといいわ」
「なっ!?」
何つ~言い草だ!
高々豚肉ごときの話しで、それなのにドンだけ高飛車になれんだよこの女はっ!
「って、おい!お前!」
そんな高飛車女に、一言文句を言ってやろうと引き止めようとする
けれど、俺の声なんて、まるで聞こえていないかのように、俺とは逆の方向に歩いていってしまう彼女
その後姿は、気のせいか悠々と勝者を気取って見えなくもないから、さらに腹立たしい
「くっ!あんにゃろ~...」
苦言を呈するものの、俺は俺で、それ以上はそいつを追おうとはしない
いや、もちろん追いつこうと思えば追いつけるが、さすがにそこまでする意味はない
そもそも引き止めてどうするというのか
彼女に文句を言ったところで、目当ての商品を手に入れられるわけでもないのだし...
「...........」
「...........」
「...........」
「...むなしい」
そこには、勝者たる彼女を見送りながら、不覚にも敗北を実感している、あまりに無様な独りの男の姿があった