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phase3   出逢い(2)

「ふぅ...」


自分の席に着き、軽く息をつく


今日もどうにか歩美を遅刻はさせずに済んだ


あいつは気づいてないと思うが、それくらいの兄貴らしいことくらいしてやらないとな、なんて思っている


それに、俺のせいで遅刻の常習犯じゃやっぱり気は重いし


というか、君塚の家を出た当初、ホントにいっつも遅刻させてしまっていたので、その罪滅ぼしでもあったりする


てか、もう学校が違うのに、アパートの前で待ち構えてるなんて、どういう根性をしているのだろう、と不思議に思ったくらいだ


まぁ、同じ高校に通うようになったので、今はこうして、何とか日々を無事に過ごせてるけど


「......で、なんで俺の隣に、新しく席が出来てんだ?」


意識しないようにしていたが、気になるものは気になってしまう


確か俺の隣には、つい昨日まで席なんてなかったはずだ


夢でも見ていない限り間違える筈もない


掃除のときのミスなのか、それとも新手の嫌がらせなのか


「おい天風!知ってるか!?」


と、そこに嫌がらせ容疑者最有力の阿呆が現れる


「...相変わらず、第一声に挨拶が出ないな板倉」


板倉健吾いたくら けんご


腐れ縁を絵に書いたような、ただのバカ


説明はこれで十分だろう


「何言ってやがる。今更謙虚に振舞いあう仲でもないだろ?俺達はさ」


何を今更とばかりに、肩をすくめる板倉


いや、そういう問題じゃないだろう


「お前は後で、親しき仲にも礼儀あり、って言葉を辞書で調べてレポートにして担任に提出して、「何だこれは、こんなの知らんぞ?」って呆れられてろよ阿呆」


ついでに、その出来にも反省させられてしまえ


「何だよ何だよ天風~、礼儀なんてそんなのいいじゃんか。俺は気の置けない男ナンバー1を目指しているんだぜ?」


「むしろ気を置きまくりのワースト1だ、このド阿呆」


「で、だ。お前知ってるか?」


スルーしやがるかこの野郎


「何かさ。今日はウチのクラスに転校生がやってくるらしいぜ?」


「は?...転校生?」


思わぬ単語に、素で聞き返してしまった


「おいおいこの時期にか?もうあと少しで受験ってこの時期なのにか?もう秋だぞ秋...一体どんな間抜けだそいつは」


親の事情だとしても、親の方で単身赴任とか何とか考えるだろ普通


いい加減、間が悪過ぎるって


てか、もし本当なら随分と子供の事を無視した考えの親だ


ああ~、いや、どちらかと言うと、その話そのものが嘘臭いか


何しろ、情報源がこの馬鹿なんだし...って、いやいや待てよ?転校生?


つ~ことは、この隣の席ってもしかして...って、いやいやいやいやでもまさかそんなはず...


「どうやら父子家庭って話で、だけど娘が心配でどうしても、ってのが今のところの有力候補だ。いや、なんて心配性で親バカないい親父さんなんだろうだね。およよよ~、ええ話や~~」


なんだよその泣き真似は


というか、こいつは自分で言ってて、どこまで本気なのだろう


もし本気なら相当の阿呆だ


「ん?でも娘?女子なのかそいつって?」


「お?何だよ何だよ食いつきがいいじゃないのよ。さっすがジゴロ王ソーマってとこか」


「...今すぐその腐れた称号を撤回しろ、でないと今ここでお前のベッドの下にあるエロ本の変態的趣向をクラス中にぶちまけるぞ」


「何っ!?いや、おいおい!俺のお宝を人質、いや物質にとるつもりか卑怯だぞ!?」


「...いや、別に質に預かってるわけじゃなく、この場合、被害にあうのはお前の風評なんだが」


こいつは、気にするポイントを履き違えている


もちろんお前のエロ本がどうなろうと知ったことじゃないけど


「でも天風、それだとお前だって、噂を流した張本人ってことで何かしら被害を被るんじゃないか?お前、そんなリスクをわざわざ背負うつもりかよ?」


へへん、裏を掻いたり~と鼻を鳴らす阿呆


「何、俺のことは心配するな。この前お前の家に行った時、実はそのお宝の写真を数枚写メに撮って置いたんだ。で、誹謗中傷的文章は作っておいて、後はそれをクラス中に送信するだけの形にしてある。無論非通知の迷惑メールとして送る予定だ」


「...あ、天風お前、いつの間にそんなものを...でででも、迷惑メールなんて普通みんな読まないだろ?な?」


「そこはそれ。タイトルに『衝撃!鴇視ときみ高校、3年A組、板倉健吾の知られざる性癖!?』とか何とか書いておけば、送った内の何人かは興味本位で見るだろう」


噂、ゴシップは古来から続く、人の娯楽の一つだ


しかも、様々な端末が溢れるこの世界ならば、悪い噂を広げるには、そりゃもう平安時代の人もビックリなほどに怖い時代だとも思う


「............」


「............」


「............」


「............」


二人の間に微妙な空気が立ち込める


でも、すでに勝敗は決まっているようなもの


俺には何のスリルもない


「...OK。さっきのは撤回する」


「賢明だな」


当然の帰結......なんて


実を言えば、そんな写真は撮っていないのだけど、こいつにはこれくらいが丁度いいだろう


それに、こんなのはただのお遊びだ


きっとこいつだって、それを分かってて乗ってきている訳だし


「で?転校生の女子ってのは?」


「ん?何々、やっぱ興味ある?」


思った通りに、元の調子に戻る板倉


でもだとしても、ある意味において羨ましい性格と言えなくもない


そんな板倉に若干呆れつつも、一応「まぁな」と返しておく


「そりゃな~。天風だって男の子だもんな~。転校生の女子って聞いて気にならない男子はそうはいないよな~」


「...その男の子って表現は止めろ。何かムカつく...でもまぁ、そこまで言われて興味を持たない方がよっぽど嘘だろ」


さっきも言ったが、人の風評やゴシップを気にしない人間なんて基本いない


もし、そんなことを問われたら、それは嘘つきか否かを聞かれているも同義だ


「でも板倉、お前よく転校生が女子だって分かったな。それともやっぱり、お前の希望的観測だったりするか?」


「いやいや、それは確か。えっと、一週間くらい前だったかな?俺、担任の村瀬と校長、それとその女の子と、多分その親父さんの4人で話してるとこ見かけたのよ。で、色々調べて見たってわけ。どうよ?俺の情報収集能力」


「...いや、まぁ、よくやるよなお前ってさ」


こいつの好奇心というか探究心にはほとほと呆れて返ってしまう


そういや前も、学校の七不思議なんてどうでもいいものを、元ネタから何まで徹底的に調べてたっけ


受験を前にしてドンだけ暇なんだろうか


それに、話してるとこ見たって、どうして校長室だか応接間だかをどうやって覗いてたんだよ


「おっと、情報元は訊くな?お前の命が危ない」


「...いや、訊かないけどさ」


訊きたくもない


ま、一応本当だとしても、情報元はどうせ先生とか、その辺りだろう


もしそうじゃなかったら本当にヤバい奴だ


というか、志望はマスコミ関連でもなかった筈だし、そんなとこに心血注いでどうするんだか


「って、あ...」


「ともかく、女子の転校生が来るのはホント。しかも見た感じ、かなりの美少女...いやもう美女って感じだったね。ついでに情報によると、相当頭の良い子って話だ。どうだ?ちっとは俺の事見直しただろ?」


そう言って、気持ち背を反らす板倉


あんまり機会に恵まれてない分、頑張って自分を大きく見せようとしているのだろう


...不憫な奴


しかもそれも、今となってはただの裸の王様でしかない


「ああ、一応は大したもんと褒めてやらなくもないよ。でも、もうちょっとだけ触れ回るのが早けりゃ良かったな」


「って、何よその微妙な言い回しは...まるでお前の情報なんて時代遅れだと言わんばかりな感じじゃんか~」


「いや、だってもう、その子そこにいるし」


「え!?」


驚いた板倉が振り返る


いや、何というかその振り返り方が漫画だ


一瞬アムロを殴った直後のブライトさん思い出しちまったよ


それに見事なまでの間の悪さも漫画っぽいし


これもある意味で言えば天性ってやつなのかもな


合掌しないけど


とまぁ、そんな板倉に少しだけ同情しつつ、担任に連れられたその生徒を見る


なるほど、その第一印象は、成績の良さそうなお嬢様っぽい感じ


しかも、モデルみたいなスタイルで、相当にモテそうな顔立ちに思える


って、もう基本的な能力もう完璧じゃんか


いやいるんだね、世の中こういう人種もさ


(...それに)


その両目の輝きは、とても印象的に思えてしまう


気づけば、引き込まれてしまいそうなほどの瞳の色だ


例えるなら、この世の誰もが見惚れてしまうような、そんな感じさえしてしまう


...なんて、それは言い過ぎにしても、確かにその目には、とても不思議な感情を抱く俺がいた


黒板の前に立つそんな彼女は、黙ったままその強い光を宿した瞳で教室全体を見据えている


「............」


え?


だけどふと、一瞬だけ俺と彼女の目が合った...そんな気がした


実際に目が合ったかは分からないが、それでも少し驚いて目をそらしてしまう


しかも、何となく気まずくて改めて見返すことが出来ない


いや、目が合っただけなら、大したことじゃないのだが


ただ...その...


多分気のせいだとは、思うのだけど...


俺のことを見た彼女の口元が、何故か微かに笑みを浮かべてたように見えたんだ

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