鷹司理香子の覚悟
私、鷹司理香子。もう二学期に入ってしまった。この前の文化祭で祐也さんに積極的にアピールして、最後まで行ってしまう位の覚悟でいたら、なんと彼は藤原佳織と一緒に校門から入って来た。勿論手を繋いで。
校門の近くにいた生徒は祐也さんが連れて来た佳織に驚いていた。そして私の計画を実行できない事も分かった。
だから、彼らがクラスの模擬店に行った時、強気で言ったけど、全く実現性のない言葉。
そして彼女がトイレに行った隙に彼に声を掛けたけど、肝心な所で佳織が出て来てしまい中途半端なままに私はその場を離れた。
どうすれば、どうすれば祐也さんは私と関係を持ってくれるのだろう。文化祭で佳織を連れて来たとはいえ、今、彼は一人。何とかしたい。
放課後、祐也さんが校門を出た所で声を掛けた。
「祐也さん」
彼は振り向くと
「なに?」
「もう、お付き合いして下さいとは言いません。お願いです。私を抱いて下さい」
「こんな所で何を言っているんですか。場所をわきまえて下さい」
「あなたとしなければ、私は売られてしまいます」
「えっ?!売られる?」
「はい、大学卒業後、家の都合だけで好きでもない人にあてがわれます。そんな事…」
「それは、俺に言う事では無い。あなたのお父さんと相談して下さい」
「お願いします」
私は、彼の前に周り、地面に手を着いて頭を下げた。
「ちょ、ちょっと、何しているんですか?」
周りの視線が凄い。当たり前だ。鷹司さん程の美少女を目の前で土下座させているんだから。
「してくれると言ってくれるまで…」
「とにかく、立ち上がって下さい」
「嫌です」
「仕方ない。明日のお昼に話をしましょう」
「えっ?!」
鷹司さんは立ち上がると宜しくお願いしますと言って駅の方に走って行った。
確かに鷹司さんの家は傾いているのは確かだ。彼女が必死になるのも仕方ない。父親からも厳しく言われているんだろう。
俺も佳織さんも同じようなものだ。家という存在に振り回されて今になっている。彼女の気持ちは良く分かるが、俺が彼女と関係を持つなんて絶対に出来る事では無い。
佳織さんに話すしかないだろう。その上で彼女に言えばいい。
塾が終わると俺は、佳織さんに
「少し話をしたいのですが」
「宜しいですよ。何か?」
「鷹司理香子さんの件です」
「えっ?!あの人の事?」
「場所を変えたいのですけど、喫茶店とかでは話せないのでうちに来て貰えますか」
「分かりました。片桐にその様に言います」
俺は、彼女の事を考え、車で我が家に来て貰った。玄関を上がり帰って来ているお母さんに声を掛けると俺の部屋に入ってもらった。
「佳織さん」
「はい」
今更あの女に…なんて事は無いと思いますが不安です。
「佳織さん、いずれは話す事でしたが、それはずっと先の事だと思っていました。しかし、鷹司さんが放課後の帰り道で土下座して迄、俺との関係を持ちたいと迫って来たんです」
「えっ?!あの人がそこまでしたのですか?」
「はい、流石にその場は。明日話をするという事で凌ぎましたが、これからもあんな事されると学業にも影響が出かねません」
「はい」
「だから、俺の気持ちを言う前に佳織さんにも知っておいて欲しくて」
まさか…なんてことはないですよね。
「不安な顔はしなくて良いです。俺は佳織さんと決めています。これが揺らぐことは有りません。そしてこれは中務のお爺ちゃんにも言ってある事です」
「……………」
「お爺ちゃんは、鷹司の事等知った事では無いと言っていました。家の繋がりからすれば当たり前の事です。
でも、佳織さんも最初は家を守るために俺に近付いて来た…」
「いえ、私は…」
「最後まで聞いて下さい。そして俺も形は違うけど葛城と中務の関係を強固にする為に中務の養子になる。
鷹司さんも家を守るために必死に俺との関係を築こうとした。勿論、関係を持つ気は全くありません。
ですが、彼女はこのままだと売られてしまうとまで言っています。売られると言うのは、大学卒業後、家にとって都合に良い企業の跡取りに押し付けられるという事です」
「祐也さん、それは私も同じ事でした。あなたと会うまでは。鷹司理香子が、何処に嫁ごうが、私達は関係の無い事」
「それは正論です。しかし正論ばかりが世の中の営みを作っている訳では有りません」
「祐也さんは彼女をどうしようと?」
「俺が中務の養子になった時、鷹司の家を支援する事にします。勿論、経済的な面だけです。人間関係は一切関わりません」
「祐也さんはそう言いますが、それを理由に彼女が強引に関係を迫って来るかもしれませんよ」
「それは条件に入れるつもりです。俺と関係を持とうなんて素振りを見せたら支援は無しとします。支援していても打ち切ります。そして鷹司家を潰す。彼女がどうなろうが知った事じゃない」
「えっ!」
潰す?祐也さんの言っている事は単なるお人好しにしかすぎないと思っていましたが、裏切りには厳しい仕置きをするということですか。
「分かりました。裕也さんは変わりましたね。とても良い方向に」
「お母さんを守る為です」
「私では無いのですか?」
「佳織さんも変りましたね。昔はもっと自信家だったのに」
「あれは…。女の子は愛する人の前では弱くなります」
「そうですか」
この人はそんな甘い人じゃない。
「そんな事ないです。裕也さんを愛する一人の女です」
失敗した。
「ふふふっ」
その後、俺の部屋だという事でアレに持ち込まれそうになったけど、何とか帰って貰った。でも今度の土曜日と約束してしまったけど。
翌日、お昼休みに鷹司さんに声を掛けた。クラスの人は、文化祭での出来事を知っているだけに驚いた顔をしていたけど。
とても人が居る場所では、話せる内容では無いので校舎裏の花壇のベンチで周りに人が居ない事を確認してから、昨日佳織さん話した事を鷹司さんに伝えた。そして
「ですから、俺にはもう近付かないで下さい。これも支援する条件の一つです」
「祐也さん、私は家の事も大事ですが、一人の女の子としてあなたを好きになったのです。この気持ちを分かって下さい」
「気持は分かりましたが、俺はあなたと付き合う訳にはいかない。文化祭で佳織さんが言った事は本当です。
俺は中務祐也として佳織さん、中務佳織を俺の妻とします。諦めて下さい。もう行きます。この事は絶対に他言無用です。宜しいですね」
「…はい」
私は、祐也さんの背中を見ながら、藤原佳織に完璧に敗れた事を知った。もうチャンスは無いんだと。
涙が溢れ出て来た。ハンカチで押さえたけど、我慢出来なかった。とても授業を受ける気力は無い。保健室で休んだ後、私は早退した。
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次話がエピローグです。
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