諦めきれない鷹司さん
今日は、都立巻島高校の文化祭二日目だ。この日は、生徒の家族、親戚と友人が来訪出来る日。
俺は、午前十一時十五分前に学校の最寄り駅で佳織さんを待っていた。それから十分程すると駅前に見慣れた黒い車が停まって佳織さんが降りて来た。
本当は学校の前でも良かったんだけど、目立ちすぎる事と佳織さんが、俺が駅から登校する道を一緒に歩きたいというお願いが有ったからだ。
「祐也さん、来させて頂きました」
「行きましょうか」
「はい」
直ぐに手を繋いで来た。この時間、生徒は歩いていないから目立つ事は無いが、校門をくぐったら、…仕方ないか。
学校の近くになると
「素敵です。校門が飾られて雰囲気を出していますね。私の高校ではこういう事はしませんので」
「そうなんですか。でも文化祭はやるって言ってましたよね」
「外部の方が入れないからです。また校門をこの様に飾ってしまうと良からぬ方もいらっしゃるのでしないのです」
「そうですか」
やはりお嬢様学校だけの事はあるな。
「私の高校はお嬢様学校ではありません。厳しい校則としつけがなされる学校です」
しまった。
「ふふっ、良いではないですか。裕也さん」
校門をくぐると近くにいた生徒が一斉にこっちを見た。
―誰?葛城君の横にいる人?
―凄い美人だな。
―それに間違いない完璧なお嬢様だ。
「気にしないで下さい」
「大丈夫ですよ。裕也さんと一緒ですから」
―聞いた。葛城君を名前呼びしたわよ。
―うん、まさか外で付き合っている女性がいたなんて。
―友坂さん、自分が悪いって言っていたけど、本当は葛城君が振ったんじゃ。
―疑惑発生だね。
好きに言ってろ!
「祐也さんは有名人の様ですね」
「そんな事ないです」
「祐也さんのクラスはどの様な催し物を?」
「今から行きます」
俺達のクラスは、クレープの模擬店を出している。クレープ屋でバイトをしている奴がいて、材料とか全部そこから準備出来るという事で決まった。
でも作れるのはそいつ一人だから、多くは作れない。ほとんどの生徒は受験優先だったので、数人の仲の良い奴が手伝っているという、何とも趣味的な模擬店になっている。
勿論、俺なんか何の手伝いも出来ないので担当は無い。
近くに行くと、手伝わなくてもクラスの人達が協力して呼び込みをやっている。
「祐也さん、あれですか?」
「はい」
「あれはクレープですよね。食べたいです」
「えっ?」
「いけませんか?」
「いいですけど…」
まさか、クレープに興味を示すとは。
「女子高生はああいう物に興味があるのです」
「分かりました」
模擬店の前に行くと
「葛城、食べるか?」
「ああ、一つ」
「イチゴが良いです」
焼いている奴が一瞬、佳織さんを見て驚いたが
「あっ、はい」
器用に白い液体を金属の円盤にクルクルと広げてその上にイチゴを乗せて作って、薄い紙に巻いて渡してくれた。
俺は代金を払うと会計の女子が
「葛城君、凄い美少女の彼女が居たんだ」
「まあな」
―認めたよ。
―ああ、いつの間に。
―なるほど、葛城が校内の女の子に興味を示さない理由が分かった。
勝手に言ってろ。
「祐也さんも食べられますか?」
食べ欠けを俺の目の前に出して来た。
「いや、ここでは」
「では、向こうに行きましょうか」
移動しようとすると
「佳織、来てたんだ」
「琴吹、ええ、祐也さんの学校を一度見たくて」
「佳織の学校とは違い過ぎるでしょう。驚いた」
「そんなことないですよ。裕也さんのいる学校です。とても素敵です」
「ふふ、もう熱々だね」
「当たり前です。私の夫になる方です」
「決まったんだ。おめでとう」
「ありがとうございます。琴吹」
そこまで言っちゃうの。明日からの俺の高校生活はどうなるんだ。
―おい、誰か。クレープが溶けるぞ。直ぐに冷やせ。
―あ、ああ。そうだな。
藤原佳織見せてくれるわね。ここは、
「藤原佳織、そんな夢を見れるのも今の内よ」
「理香子さん、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんが」
―おい、鷹司さんと葛城が連れている女性知り合いか?
―それに小山内さんも
―どうなってんだ?
不味い。
「佳織さん、向こうに行きましょう。クレープを食べます」
「はい」
―名前で呼んだぞ。
―明日は、葛城オンステージだな。
―ああ、レコーダも用意しよう。
明日はどうなるんだ。
「佳織さん、みんなの前でまだ言わないで下さい」
「何故ですか」
「この高校を卒業するまでは、みんなには黙っていたいんです。残りの高校生活が大変になってしまう」
「ごめんなさい。裕也さんの事だとつい」
「気持は分かりますけど、楽しく回りましょう」
「はい♡」
理香子が現れなかったら。あのようなはしたない事言わなくて済んだのに。
それからは、体育館でやっている演劇や軽音、各教室の催し物を見て回った。
お昼は、佳織さんの希望で焼きそばやおでん、それにたこ焼きとちょっといつもと違うお昼になった。
食事が出来るエリアで一緒に食べながら
「うふふっ、とても美味しです」
「それは、良かった」
「はい、普段口に出来ない食べ物ばかりです。この味には驚きの連続です」
「佳織さんから見るとジャンクフードになるのかな?」
「そういう訳ではありません。作って差し上げましょうか?」
「そういう話は先過ぎて」
「でも、夏休みの宿題を一緒にやっている時は毎日私が作って差し上げましたよ」
「そうだった」
「酷い、もう忘れたんですか」
「いや、それは…」
「宜しいです。結婚したら、毎日祐也さんに食べて貰う事が出来ますから」
「……………」
何も言えない。
祐也さんが、藤原佳織とべったりと一緒にいる。どこかで少しでも離れてくれたら、チャンスも掴めるのに。
でもあの二人まだ行っていない。その時がチャンスかも。
俺は食事が終わった後、少し休んでから、午後から体育館で演奏するブラスバンドを聞きに行く事にした。
「佳織さん、うちの学校のブラスバンド聞きに行きませんか?」
「宜しいですよ。でもその前にちょっと。案内して頂けますか」
「分かりました」
俺は、佳織さんをトイレに連れて行くと少し離れて待っていた。
「祐也さん」
声の方向を向くと鷹司さんが立っていた。
「なに?」
「佳織ばかり…。少しは私の方も向いて下さい」
「それは出来ません」
「何故です。私にもチャンスを下さい」
「チャンスですか…。もうそのチャンスは無いですよ」
「えっ、もしかして…」
「想像の通りです」
「そんな…」
その時、佳織さんが出て来た。鷹司さんが、佳織さんが出て来たのを確認すると直ぐに離れて行った。
「如何したのですか?」
「何でも有りません。体育館に行きましょう」
「はい」
理香子さん。もうあなたが私と祐也さんの間に入るスペースは無いのですよ。
体育館でブラスバンドの演奏を聞いて午後三時になった所で駅まで送って行った。
「祐也さん、とても楽しかったです」
「それは良かった」
「また、夜に連絡しても宜しいですよね」
「勿論です」
「では、これで」
佳織さんを乗せた車が見えなくなってから俺は学校に戻ったのだが、
「おい、葛城。ゆっくりと話しを聞こうじゃないか」
「そうだ。ぜひ話してくれ」
「細かい所もな」
「あははっ……」
俺は六人近いクラスの男子に囲まれて説明せざるを得なかった。まあ、適当に流しておいたけど。振休開けからどうなる事やら。
もうしてしまったようね。でもまだチャンスはあるはず。必ず祐也さんを私に振向けさせて見せる。
―――――
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