二学期がもう目の前です
佳織さんとの旅行から帰って来た後は、彼女と毎日会った。勿論、俺の家に来てくれた。
毎日では無いが、お母さんがいない時間は、彼女と楽しい事もした。最初受け身だけだった彼女も慣れて来ると結構積極的になった。人という生き物は見掛けとは違う一面を持っているものだと改めて思った。
鷹司さんからの接触はない。プールの時だけだ。夏休みも終わり近くになり、二人で塾に秋のコースを申し込みに行った。
偶然にも美琴と会ったけど、向こうも全く俺達の事を無視していた。もう俺との事は過去に置いて来たんだろう。
祐也達が塾に来ていた。前にも見た可愛くて美しい品のある女性と一緒だ。今いる二人の姿は、前に見た時と明らかに違う。
女性だから分かる事。もう済んでいるんだろう。私の可能性はこれでゼロパーセントか。全ては私自身が犯した過ち。たった一度とはいえ、犯してはならない事も有ると知った。
これからは同じ過ちをしない様にしたい。学力も大分上がった。夏休み前の模試の結果も予想を上回っている。
これをもっと向上させれば、祐也と同じ大学も夢じゃない。そうすればゼロが一になる可能性だってある。諦められない。
いや、取り逃がしたからこそこんな気持ちになっているんだろう。本当はもう他の気持ちに動かないといけないのに。
幸い、学校では祐也と別れた理由は誰も知らない。そして三ヶ月もしない内に誰も気にしなくなった。人なんてそういうもの。
お父さんは、藤原特殊金属工業の事業部長として立派にサラリーマンをしている。お母さんも会計士として立派にOLをしている。
お陰で私は塾に通う事も私学に行く事も可能だ。でも私は国立に行く。自分の為に。
そのおかげで家族の会話が少なくなった。理由はお父さんの帰りが遅かったり、お母さんの帰りが遅かったりするからだ。
仕事だとはいえ、午後十二時近くになる時がある。そしてそういう時は口からアルコールの匂いがする。二人共そうだ。
お母さんが、土曜日も出勤だと言ってしっかりとお化粧して出て行く時がある。何をしているかなんて分かっている。
お父さんを信じて苦しい時でもお父さんに付いて来た。そのお父さんが家族より自分の事ばかり気にする様になってからだ。だからその反発だろう。
そして金丸さんの融資をこれも自分都合で断って藤原特殊金属工業へ鞍替えした。その辺からお母さんのお父さんへの気持ちが変わっていった。
今は、二人は表立って喧嘩をする事は無いが、お互いに相手に対して不信感を持っているのは言葉でわかる。
二人がどうにかなってしまう前に私は独立したい。そうすればもうこの家とも離れる事が出来る。
学校では、随分、男子に声を掛けられるけどみんな断っている。もう受験で手いっぱいだから付き合う時間なんてないという理由だ。
同じ大学に行こうなんて言ってくれる男子もいるけど、そんなのどこかで聞いたセリフだ。思い出したくもない。二学期は目の前だ。
私、鷹司理香子。八月三日にプールに行って葛城君、いえ祐也さんと一緒に遊ぶ事が出来た。ウォータースライダーで肌を思い切りアピールする事も出来た。でもそれだけ。その後は全く接触出来ていない。
彼のスマホの連絡先を知らないからだ。佳織が裕也さんとどこまで進めているのかも分からない。
出来れば体の関係だけは持って欲しくない。だけどそうしたからってまだ負けではない。そう体の関係以上の実績を作ってしまうという最終手段もある。
私個人へのダメージも多いけど家の為なら仕方ない。それに彼を好きになってしまった私もいる。とにかく早く二学期になって状況を確認したい。
八月も終わり直前の三十日、佳織さんが俺の所に来た。お母さんはいない。
「祐也さん、中務家から、藤原家に対して正式に私を養女にしたいという申し入れが有ったそうです」
「そうですか」
「これで、名実ともに私は祐也さんの妻になる事が決まりました」
「はい」
「祐也さん…」
佳織さんが俺のベッドの上で柔らかい白い肌をぴったりと付けながら
「祐也さん、二学期からの事ですけど、…祐也さんの高校にも文化祭が有りますよね。私、それに行って見たいです」
「えっ?!なんで。俺達はもう受験生だし、俺のクラス、真面目にしないと思いますよ」
「いえ、祐也さんと一緒に高校最後の文化祭を見て見たいのです」
「だって、佳織さんの所もあるでしょう」
「私の学校は女子高ですし、あっても生徒だけで行われます。裕也さんと一緒に楽しむ事は出来ません」
「来てもいいですけど、楽しいのかな?」
「はい、祐也さんと一緒ならどこでも楽しいです」
「そ、そうですか」
この人、旅行以来、完全にべったりになったな。昔はこうじゃなかったのに。
「嫌ですか、こんな私」
「そういう意味じゃない…。また読んだの?」
「いえ、読んでいません。裕也さんの心の声は私の頭の中にそのままコピーされるんです」
「そ、それって?」
「良いではないですか。それに…」
うふふっ、祐也さんは私に嘘つけないですから。まさに運命です。
「それに?」
うわっ!
こうして居ると幸せを感じます。もう祐也さんは何処にも行かない。ずっと私の傍に居てくれる。不安なんか無いのに。
私、こういうの好きだったのかな?初めての感情です。でも、もういいですよね。裕也さんと私ですから。
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