佳織さんと
お爺ちゃんと今後の事について話したお陰で帰るのは一日延びてしまった。でも仕方ない事。
話した内容は、俺個人の将来の事だけではない。佳織さん個人の事だけではない。葛城、中務、藤原にとってとても大きな事だからだ。
それはこの三つの家の傘下で働く何十万人もの人達とその家族に影響が出る。簡単に片づけられる事では無かった。
でも不思議なものでお爺ちゃんとここまで話すと俺がその立場になるという事を自然と体が自覚した感じがする。
帰る日はお爺ちゃんとお婆ちゃんがとても近くに感じた。去年まではお父さんのご両親位にしか思っていなかったのに。
でもお母さんはとても難しい顔をしていた。今迄自分が守らなければ行けなかった事が大きく変わってしまった事が理由だという事は簡単に想像出来た。
俺は、家に着くと直ぐに佳織さんに連絡した。
『佳織さん、葛城です』
『祐也さん。三日だけなのに声を聞けなかっただけで胸が苦しくなりました』
『済みません。ところで旅行の事なんですけど』
『はい!』
俺は、佳織さんと藤原家の海の別荘にだけ行く事にした。山に行く余裕はもうない。
当日は、佳織さんが、黒い車に乗って駅で待っていてくれた。午前八時、お母さんに行ってきますと言って家を出て、車に近付くと佳織さんが出て来た。そして運転している人も。
「祐也さん、運転手兼私のボディーガードの片桐。覚えておいてね」
「片桐です。宜しくお願い致します」
「片桐さん。葛城祐也です。こちらこそ宜しくお願いします」
「さあ、出かけましょう」
俺のスポーツバッグを片桐さんがトランクに入れると運転席に回って車を発車させた。
「祐也さん、仕えの者は既に先に行かせておりますが、別荘には元々管理人も居ます。その人達が私達の世話をしてくれます。裕也さんは私と素敵な時間を過ごして頂きたいと思います」
「ありがとうございます。佳織さん」
もう、俺の腹の中は決まっている。残り二分の一が好意だろうが何だろうが、自分の責任を全うするだけだ。
車は高速道路を使って一時間位走った後、自動車専用道路に入ってそこから更に四十分ほど走った。
一般道に降りてから十五分。木々に囲まれた広い土地に二階建ての建物と一階建ての建物が建っていた。
「祐也さん、着きました」
俺達が降りると二階建ての建物の方に五人程の人が並んで立っていた。その一番先頭にいる人が近寄って来ると
「お嬢様、お待ちしておりました」
「中江田。久しぶりです。こちらが葛城祐也さん。粗相の無いようにお願いしますね」
「はい、葛城様にも十分にご満足いただける様に尽くす所存でございます」
なんか、やっぱり帰りたくなって来た。
「ふふっ、祐也さん。もう帰れませんよ」
「えっ?!」
「お嬢様、私はこれで。三日後にお迎えに参ります」
「はい、お願いしますね」
そういう事?
「中江田。室内は私が案内します」
「かしこまりました。お嬢様、ご昼食を用意しておりますが」
「ありがとう。後で食べます。さっ、祐也さん行きましょう」
俺達の荷物は既に建物の中に入れられている様だ。
中に入るとそれなりの広さのエントランスが有って、壁に沿って広い階段がある。エントランスには、椅子やテーブルがいくつかあり、ダイニングも一階にあるようだ。
「祐也さん、私達は二階に」
「はい」
ゆったりとしたカーペットの引かれている階段を上がると四部屋程ある。
「祐也さん、私達の部屋はここです」
「えっ、私達って…。部屋は別々では?」
「祐也さん、ここ迄来てくれたのです。もう覚悟して下さい」
俺が覚悟するのかよ。
「私も覚悟しています」
「分かりました」
「えっ?」
ここは祐也さん断ると思っていたのですが。
「何を驚いているんですか?」
「えっ、でも、それは…」
「佳織さん、残り二分の一も決めましたから」
「……………」
遂に祐也さんが…。でも私…。分かってその日も選んで来たのですけど、それでもまさか祐也さんがそこまで考えているとは。
「入らないのですか?」
「い、いえ。入ります」
そこは大きな洋間で椅子とテーブル、サイドボードにシャワールームが付いていた。ベランダにもイスとテーブルが置いてある。でもベッドが無い?
「ベッドはそこのドアの向こうです。来て下さい」
いきなり手を引かれた。佳織さんがドアを開けると大きなダブルベッドが置いてあった。勿論洋服ダンスもある。
「ふふっ、今からでも宜しいですよ」
「流石に、それよりお腹が空きました」
「そうですね。昼食を頂きましょう」
一階に降りるとダイニングのドアが開いていて、中に昼食が用意されていた。
俺達が椅子に座ると中江田と呼ばれた人が
「お嬢様、葛城様。本日のご昼食は海の幸をふんだんに使ったスパゲティをご用意しております」
「楽しみにしているわ」
運ばれて来たのは、言っていたスパゲティだけでは無かった。海藻と魚貝類の盛り合わせのサラダ。伊勢海老がスープ皿からはみ出た美味しそうな匂いが漂うスープだ。
「祐也さん、召し上がれ」
「はい」
先にスープをスプーンで口に運んだ。伊勢海老の美味しい味がしっかりと優しく口の中に広がる。
次にスパゲティをフォークとスプーンで取って、口に運んだ。海の香りが満載のスパゲティだ。良く咀嚼した後
「とても美味しいです」
「それは良かった」
俺が感想を言うと傍に居る人達も嬉しそうな顔をしている。今迄の生活とは切り離された時間だ。割り切って楽しもう。
「祐也さん、ここは素敵な時間が包んでくれるところです。楽しみましょう」
「はい」
でも、何で佳織さん俺の頭の中が読めるんだ?
「そんな事いいではないですか」
やっぱり。
昼食後は、着替えて砂浜迄歩いて行った。佳織さんは黄色のTシャツに白のハーフパンツ。
俺は白のTシャツに短パンだ。足は二人共かかとの付いたビーチサンダル。手を繋ぎながら歩いて行くと五分と掛からずに砂浜に出た。
真っ白な砂浜が、大きな湾状になっていて観光客も一杯いる。海は透明から水色に輝いている。
「ここの砂浜は遠浅の海で、その上湾状になっているので波も大きく立ちません。海水浴にはぴったりの所です。家族連れが多いのもそれが理由です」
「そうですか。佳織さんは毎年ここに?」
「いえ、山か海かどちらかに行く事にしています」
「そうですか」
俺達は、手を繋ぎながら、砂浜の端の方にある岩場にも行って見た。家族連れが一杯岩場の上で遊んでいる。心がのんびりする。
「祐也さん、明日は一緒に浜辺で楽しみましょう」
「こういう所ですけど、話したい事があります」
「祐也さん、お部屋に戻りましょう」
多分、とても大事な事のようです。
俺達は一度別荘に戻ると部屋に入った。
「お話とは」
「これは、今月中に中務家から藤原家に正式に伝えられる事ですが…。
俺は、あなたを妻として迎えます」
「……………」
声が出なかった。
「時期は、あなたが二十二才になり中務の養女になったその次の日。俺、中務祐也と結婚します。言い方が上手くないですけど、緊張して…うぉ!」
いきなり佳織さんが抱き着いて来た。目には涙が一杯溜まっている。
「祐也さん。この日をお待ちしておりました。どれだけ…どれだけ長く待っていた事か」
ゆっくりと彼女が顔を上げると俺の方から口付けをした。長い口付けだった。俺の方から放すと
「祐也さん、今からでも」
「佳織さん、夜にしましょう。まだ陽は高いです」
「私とした事が…。そうですね。そうしましょう」
俺達は、もう一度浜辺に降りて手を繋ぎながらのんびりと歩いた。佳織さんは少し俯きながら嬉しそうな顔をしている。
夕飯を食べて、お互いがお風呂にしっかりと入った。ベッドルームで佳織さんの背中に両手を回して
「いいですよね」
「はい」
私は初めての体験を致しました。裕也さんはとても優しくしてくれました。とても痛かったですが、それもこの人と結ばれたと思うとそんな事は気にもなりません。
ですが、私はどうも多分に大きな恥ずかし声を上げてしまったようです。でも仕方ないのですよね。
ふふっ、祐也さん心配していましたけど、安全日ですと言ったら、驚いていました。もうこの方が私から離れる事はない。この方は私を放す事もない。心が穏やかさに包まれています。
祐也さん、朝方にも私に…。勿論私もそうして欲しかったし。
それから、別荘にいる間は毎日…。私の体が祐也さんの色に染まっていくようです。
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