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プールでの出来事


 俺、佳織さん、上野、小山内それに鷹司さんが流れるプールに入っているのだが、何故か佳織さんは俺に積極的に抱き着いて来る。どう見ても鷹司さんを意識しての事だ。


「佳織さん、そんなに体をくっ付けなくてももう少し…」

「祐也さん、良いではありませんか。去年もこうして二人でぴったりと抱き合いながら水遊びしていたのですから」

 いや、それは嘘です。でも鷹司さんの手前、違うと言えない。


 鷹司さんは上野や小山内と結構、仲良く泳いだり水の掛け合いとかしている。二対一で上野が攻められているけど。


「祐也さん、私の手を引いて下さい。私はバタ足するので」

「いいですよ」


 俺は、佳織さんの両手を持って後ろ向きに歩くと佳織さんが、ゆっくりと波が立たない様にバタ足をし始めた。

 でも…。この形で引くとどうしても目が彼女の胸に行ってしまう。豊満な胸に水が当たってそこから水が分技して何とも言えない状況を作り出している。


 少しして止めると

「もっとしてくれないのですか?」

「あっ、そろそろ一度休んだ方が、なあ上野?あれ?」


 上野達がいない?俺が佳織さんを引いている間に離れてしまった様だ。

「上野達の所に戻りましょう」

「私は祐也さんと二人が良いのですが」

「でも集団行動しないと」


 佳織さんの不満顔を無視して彼女の手を引いて上野達の所に行くと三人で楽しんでいたようだ。良かった。


「葛城、そろそろあれやるか」

 指差したのはウォータースライダー。


「祐也さん、やりましょう」

「いいけど…」


 上野、小山内、鷹司さん、佳織さん、俺の順でプールの縁をウォータースライダーの方へ歩いていると男性からの視線がはっきりと分かる。


―すげぇ。三人とも可愛いし、スタイル抜群だな。

―ああ、男に二人。女三人。俺一緒に。

―あほな事言うな。無理に決まっているだろう。

―そうかな。残念。


 周りの男性の声を視線を無視してウォータースライダーの場所まで来ると十五分位は待ちそうだ。



「どういう順番で滑る?」

「私と祐也さんは決まりです」

「佳織さん?」

「何ですか、祐也さん」

 あまりにも鷹司さんを意識的に無視しようとしている。気持ちは分かるけど、ちょっとなぁ。

「最初は、別々で一回滑りませんか」

「一回だけですよ」



 最初だけは自分だけで滑った。佳織さんと一緒に滑るのが嫌だと言う訳では無いが、去年の事を思い出すと結構メンタル面で削られる。


 二回目は、俺と佳織さん、小山内と上野、鷹司さんは一人だ。


 三回目の時、鷹司さんが

「葛城君、私とはだめですか?」

「駄目です。裕也さんは私以外の女性とはしません」

「葛城君に聞いているの!」


 鷹司さんが思い切りお願いという顔をしている。でもここは断るしかない。

「鷹司さん、すみませんが、一緒には滑れません」

「そうですか」


 今度は思い切り寂しそうな顔になった。そして上野や小山内に助けを求める様な視線を送っている。


「なあ、葛城、一回だけ一緒に滑ってあげたらどうだ。藤原さんとの事は理解するけど、一回鷹司さんと滑っても関係は揺らがないだろう」

「葛城君、私もそう思う。佳織一回だけさせてあげないよ」

「……祐也さんの意思で」


 俺に振るのかよ。でもさっき断っているし…。

「一回だけですよ」

「祐也さん!」


 佳織さんが怒りと寂しそうな顔になった。彼女の気持ちは分かるけど、ここで鷹司さんと一回滑っても俺の気持ちが変わる訳でもない。


「じゃあ、そういう事で」


 三回目は俺と鷹司さん、上野と小山内になった。何故か、佳織さんは出口付近で待っているという。


 ふふっ、来た甲斐が有りました。裕也さんとウォータースライダーを一緒に滑れるなんて。

 祐也さんが先に座った。私はあくまで係員の指示という振りをして思いきり彼のお腹に手を回すと背中に私の胸を押し付けた。そして横顔を彼の背中にくっ付けている。素敵。


「スタートして下さい」


 ふふっ、右に左に振られる度に彼の背中に擦り付ける様になる。どう、佳織よりよっぽどいいでしょう。


 参ったな。佳織さんとはまた違う感覚だ。なんなんだこの感覚。でもこれきりだ。我慢するか。ゴールでは佳織さんが待っている。


 右に回り左に回り、クルクル回って最後に


ザブーン、ザブーン。


「ぷわぁ。面白かったです。裕也さん」

私はスライダーを出てからもう一度彼に抱きつこうとしたら


「うわっ!」

「駄目です。それ以上祐也さんに近付かないで下さい」


 なんとゴールに藤原佳織が入って来て、私と祐也さんの間に割り込んで来た。


 やっぱり、理香子の考えなんて直ぐに分かるわ。こっちで待っていて良かった。


「早く退きましょう。上野達が出てくる」

「「は、はい」」


 俺達が退いて直ぐに上野と小山内が出て来た。危なかった。



 鷹司さんはご機嫌だが、佳織さんが面白くないという顔をしている。まあこうなるよね。

「祐也さん、今回だけですよ」

「はい、これきりです」


「葛城、そろそろお昼にするか?」

「そうだな。一度シートに戻ってから交代で買いに行こう」

「ああ、そうするか」


 最初、上野と小山内、それに鷹司さんが売店に行った。十五分位して戻って来た。

「佳織さん、行こうか」

「はい」


 俺達は、売店に向かいながら

「祐也さん、もう、絶対に、絶対にあんなことしないで下さい。私がどれだけ心を痛めたか」

「分かりました」

「早く、痛めたこの胸を祐也さんに見せたいです」

「はっ?」

「い、いえ」

 口が滑りました。


 俺達が、好きな物を買ってシートに向かっていると、あーぁ、なんで定番なシチュエーションなんだ。


 小山内と鷹司さんがチャラ男に声を掛けられて上野が間に割り込もうとしている。あっ、チャラ男の一人が鷹司さんを掴もうとして、えっ?


 男が鷹司さんの腕を掴もうとした瞬間、その男の体が宙に浮いたと思ったら、そのままコンクリートの床に投げ落とされた。痛そう。

 もう一人の男が上野に…。殴ろうとした腕を掴まれて返されて床に押さえつけられている。


 係員が寄って来て二人を連れて行った。上野は分かるけど、佳織さんと鷹司さんといい、どうなってんだ。


「あれは、鷹司家の護身術です。大した事ではありません」

「そ、そうなんですか」

 はぁ、なんか違う世界だ。


「大丈夫です。裕也さんは私が守ります」

 なんか、逆の様な。


 

 俺達が、シートに着くと

「理香子さん、いつもながらですね」

「嗜みよ」

 それで終わりかい!



 今の事が、佳織さんと鷹司さんの心のギスギスさを取ったのか、お昼間は結構楽しく食べられた。


 昼食後ゆっくり休んでから上野が

「今度は、波の出るプールに行くか」

「そうだな」


 今度はそちらへ移動した。流石にここでは、鷹司さんは俺にくっ付いてこようとはしなかった。

 でもその分というか、佳織さんが彼女を意識してか、全くべったりとくっ付いて来た。


 ふふっ、これだけ見せつければ理香子も諦めるでしょう。



 悔しいけど、今度はウォータースライダーの様に頼む訳にはいかない。佳織の私に見せつける様なあの顔、悔しいけど仕方ない。

取敢えず今日の目的は予想以上の成果が有った。これで充分だ。



「葛城、そろそろ上がるか?」

「そうだな。佳織さん、小山内、鷹司さん、上がりますけど」

「はい」

「そうね」

「分かりました」


 

 五人で、男女別れて更衣室に入った。

「葛城、藤原さんとの仲、聞きそびれたな」

「ああ、あの状況ではな。でも見た通りだよ。佳織さんとは正式に付き合っている。親同士も分かっている」

「そこまで進んでいるのか。去年、突然小山内が連れて来てから、凄い進展だな」

「色々有ってな。二学期にははっきり言えるかもしれない」

 俺がお爺ちゃん達を説得出来ればだけど。


「そうか、楽しみにしている」


 俺達は、シャワーを浴びてタオルで拭いた後、着替えて更衣室の外で待った。三人共髪の毛が長いから乾かすのが大変なのか二十分位待たされた。


五人で遊園地のゲートを出ると電車を待ちながら佳織さんが

「今度は、二人だけで海ですね」

「佳織さん?」

 ここでそれ言う?鷹司さんの事意識し過ぎだよ。


「ふふっ、楽しみでつい口に出てしまいました」


 藤原佳織、嫌らしいほどにあなたと私は違うのよって言うのを暗に出している。二学期を覚えてらっしゃい。必ずその立場を奪い取って見せるから。


電車に乗ると途中駅で俺と上野それ小山内が途中で佳織さんと鷹司さんと別れた。


「藤原さんと鷹司さん、凄かったな」

「佳織があそこまで葛城君に抱きついて来るなんて、相当進んだのね。どう佳織は?」

「どうって言われても、何もしてないし」

「「何もしてない?」」


 なんか勘違いしてない、二人共?


 結局そんな話をしながら二人が先に降りて最後に俺が降りた。次はお父さんお墓参りだ。それと一緒に中務のお爺ちゃんとお婆ちゃんに俺の気持ちをはっきり言う事になる。


――――― 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。


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