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宿題の後


 夏休みが始まった。高校生最後の夏休み…なんだけど、俺の前には夏休みの宿題を全部持って来て座っている佳織さんがいる。


 お母さんは仕事に出ているから二人だけだ。珍しく白のブラウスの第二ボタンまで外している。そして部屋に響くのは


 カリカリカリ。パタパタパタ。

カリカリカリ。パタパタパタ。


何故か、シャーペンの音と佳織さんが胸元で扇ぐ扇子の音。いい匂いはするのだけど


「あの、佳織さん。暑かったらエアコン強くしますけど」

「いらないです。冷えすぎるだけです。それより今日の分を早く終わらせましょう」

「はい」


 どう見ても、下心丸出しだ。扇子の所為で第二ボタンまで外しているブラウスがそよそよと揺れて、偶に真っ白な肌とそれを覆う…がチラ見えする。明らかに挑発している。


 そういう俺もTシャツと短パンだ。暑い。


「どうしたんですか、先程から私をジッと見ていますけど」

「いえ」

 どう見ても間違いない。


 ふふふっ、夏は恋の季節なんて言われています。ちょっとした間違いでも起きれば嬉しいのですが…。


裕也さんがこんなに強固な意志の持ち主とは思いませんでした。友坂さんとは経験があるはずなのに。去年水着姿も見せているし。思い切り抱き着いてもいる。


 もうそろそろと思っているのですが、祐也さんの私が好きの残り二分の一。行動で見たいです。

 でもこれは裕也さんへの動機付け。プールに行き、別荘にも行く。ここは急がずに。




 お昼になれば、お母さんから許可を得ている佳織さんがうちのキッチンで、昼食を作ってくれる。

可愛いクマさんエプロンだ。長い髪を後ろでまとめている。普段の佳織さんとのギャップが凄い。


 サンドイッチ、チャーハン、オムライス。時にはそうめんや冷たいおそばまで作ってくれる。

 自然とその日のお昼は何か気になるのだけど、出来上がるまで教えてくれない。



 そして、いつの間にか三十一日になり、宿題は午前中で終わってしまった。


「祐也さん、出来ました。ダイニングに来て下さい」

「はい」


 いつも軽めなのに、なんと今日は唐揚げと野菜サラダ。出汁卵焼きそれに白いご飯とお味噌汁。凄い。


「今日の午前中で宿題が終わりました。午後分の宿題は無いので、思い切り祐也さんの為に少し多めに作りました。裕也さん、鳥もも肉の唐揚げと出汁卵焼き好きですからね」

「ありがとうございます。凄いです」

「ふふっ、良かった。では」

「「頂きまーす」」


 出汁卵焼きを箸で取って口の中に入れてゆっくりと咀嚼する。出汁と卵の控えめな甘さが口の中に広がる。

「美味しいです!」

「良かった」


 なんか胃袋迄掴まれつつあるような。でも美味しいからいいや。


 ふふっ、祐也さんの嬉しそうに食べるお顔は、とても素敵です。作り甲斐があるというもの。


 一通り食べ終わると

「祐也さん、午後から如何しましょうか?」

「そうですね。…何しましょうか?」

「私が聞いているのに」


「じゃあ、緑道を散歩しますか。暑いかも知れないですけど」

「構いません。裕也さんと一緒なら」



 二人で食器を洗った。佳織さんはずっと笑顔だ。

「食器洗い楽しいですか?」

「はい、祐也さんと一緒なので」

「そ、そうですか」


 祐也さんと早く毎日こんな感じで過ごせたら。何とかこの夏休みの間に…。



 佳織さんは白のブラウスに丈の短いパンツスタイルだ。足元は水色のかかと付サンダル。それにフチ広の帽子。

 俺は紺のTシャツとデニム。それに黒のスニーカだ。


 ゆっくりと歩を進めながら

「佳織さん、俺、お父さんの墓参りに行った時、中務の家に寄る。二泊くらいしてくるけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんに俺の気持ちをはっきり言うから」

「はい」


 もう、なにを話すのかなんて野暮な事は聞きません。ここまで来た以上、後は祐也さんに任すだけです。


今日は二人共口数が少なかった。手だけはしっかりと握られている。



 家に帰って来たのは、午後三時半。結構な時間、歩いていた事になる。


「祐也さん、プールには、一緒に行って頂けますか?」

「構わないですけど、直接行かれた方が、近いのでは」

「いえ、祐也さんと行きたいのです」

「分かりました。途中駅で待ち合せしますか」

「ここの駅まで来ます」

「えっ、でもそれでは大分遠回りに」

「いいんです。裕也さんと少しでも長く居たいので」

 はぁ、そこまで思ってくれているのか。決心はついているとはいえ、中務のお爺ちゃんにはっきりと言わない限り、何も言う訳にはいかない。



 俺は、ゲームをするとか、ゲーセンに行くとかの余裕のある暮らしはしてこなかった。それだけに佳織さんと二人だけで部屋にいると会話が持たずに持て余す時があるのだが、そんな時でも佳織さんは、ただ俺の傍に居てくれる。何も話す訳では無い。


 どんな気持ちでいるのか一度聞いてみたら、ただ傍に居るだけでもいいんですと言われてしまった。


美琴の時は、二人でイチャイチャしていれば良かった時も有ったけど、この人とはそうはいかない。

 これからもこんな時は多いのだろうけど、大学入ったら何か趣味でも持つか。


「そうですね。二人で共通の趣味を持ちましょう」

 もう、なんでわかるんだよ。


「ふふっ、祐也さんだからです」

 もう考えない。


 今日も午後五時に駅まで送って行く。まだ日差しが暑い時期だ。駅に行くといつもの様に黒い車が待っていた。


 そして別れ際に彼女が

「祐也さん、三日は午前八時前にはここに居ます。プール楽しみにしています」

「分かりました。待っています」


 黒い車が見えなくなるのを待って家に戻った。次はプールか、そろそろ上野と小山内に家のこと以外は話した方が良さそうだな。


――――― 

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宜しくお願いします。


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