夏休みまでもう少し
学期末考査ウィークに入った。佳織さんが、どうしても一緒に勉強したいと言って来ている。中間考査で鷹司さんに四点差だった事を気にしている様だ。場所を俺の家でしたいと言っている。
しかし、土日はお母さんも居るからと言ったら
「祐也さんのお母様とは、去年の夏に中務の叔父様の家で会っています。問題ありません」
なんか、こういう時って凄く言葉が強いんだよね。言い返せないって感じ。考査ウィークは今日から来週の水曜まで、その後、学期末考査が木曜日から土日を挟んで火曜まであり、翌水曜日が模試だ。
もうこの時期、どちらも気が抜けない。志望大学も決定しないといけない時期だ。
佳織さんは翌日金曜日から我が家に来た。俺の部屋は流石に狭いのでリビングでやっている。
学校が終わってからなので、来るのは午後二時、そして終わるのが午後六時だ。丁度お母さんが帰ってくる時間だ。
勉強が終わると駅まで送って行く。彼女の家の車が待っているので佳織さんはそのまま帰ると言う流れだ。
まあ、家の前にあんな大きな黒い車が止められても困るけど。彼女が帰って少ししてお母さんが帰って来た。
「ただいま」
「お帰りなさい、お母さん」
「佳織さんは来ていたの?」
「うん、十分くらい前に駅まで送って行った。お母さんと入れ違いって感じ」
「そう、明日は何時から来るの?」
「午前十時には来ると思う。それから午後五時まで勉強する予定」
「分かったわ。土日、お母さん外に出ているわ」
「良いよ居ても」
「でも気が散らない」
「それは無いと思うけど」
そして佳織さんを迎えに午前九時四十五分位に駅に迎えに行くと、黒い車が有ったので直ぐに分かった。
俺が駅に着くと彼女が降りて来た。大きなバッグを持っている。勉強道具にしては多すぎる感じだけど。
「祐也さん、おはようございます」
「おはよう、佳織さん。バッグ大きいね」
「はい、色々と入っています」
「そうですか」
そんな話をしながら家に着くと
「ただいま」
「お邪魔します」
「いらっしゃい、佳織さん」
「お母様には去年の中務の叔父様の家で会って以来です。ご無沙汰しております」
「はい、こちらこそ。挨拶はその位にして、早く上がって」
「はい」
佳織さんをリビングに案内すると少ししてお母さんが冷たい紅茶を持って来た。
「いらっしゃい。佳織さん。裕也の勉強宜しく見てあげて下さい」
「はい、でも祐也さんも良く出来ます。私が教えて貰っている位です」
それは無い。
「お昼は作るわね」
「ぜひ、お手伝いさせて下さい」
「えっ、でも」
「お願いします」
「分かったわ、じゃあ、お昼に声を掛けますから」
私は佳織さんのバッグの大きさが気になった。まさか、そういうつもり。裕也が何て言うか。
一緒に勉強しているけど、佳織さんの学校の教科書の方が全然難しい。俺が見ても分からない所だらけだ。
「どうしたんですか?」
「いえ、難しい教科書だなと思って」
「そんな事無いです。基本とする範囲が少し広いのと応用もその分広くなっているのでそう見ているんでしょう」
それって俺の学校の教科書より難しいって事じゃないか。参ったな。これで三年一学期の中間考査満点かよ。
「祐也さん、中間考査は過去のもの、目の前に有る学期末考査に集中しましょう」
やっぱり目を合わせて考えるの止そう。
「ふふっ、良いではないですか」
そんな事を言いながら集中してやっているとあっという間に午前十二時になってしまった。お母さんがやって来て
「お昼作りますよ」
「はい、祐也さん、お手伝いしてきます」
「はい」
佳織さんのバッグどう見ても勉強道具だけじゃない。この後どこか行くのかな?
キッチンの方で何か話をしている。笑い声も聞こえるからいいか。
三十分程してダイニングに呼ばれた。テーブルの上には、野菜サラダ、ハムやレタス、それに卵を挟んだサンドイッチと暖かいスープが置かれていた。
「さあ、食べましょうか」
「はい」
サンドイッチを一つ取った。ハムとレタスが挟んである。とても美味しい。
「祐也さん、お味は?」
「とても美味しいです」
「それは良かったです」
「佳織さん、料理がとても上手よ。お陰で随分楽に作れたわ」
「そんな事はありません。お母様の腕です」
「ふふっ、そういう事にしておきましょう」
実際、祐也の前に置かれているサンドイッチは全部佳織さんが作っている。私は野菜サラダとスープを作っただけ。
一通り食べ終わると、お母さんが冷たい紅茶を出してくれた。アールグレイだ。でもやっぱりお母さんが淹れてくれた紅茶は味が違う。佳織さんも感心している。
「佳織さん、話すのでしょう。裕也次第だけど」
「はい、祐也さん、今日泊まっても宜しいですか?今日帰ってまた明日来るのは時間の無駄です」
俺は一瞬で口を手で押さえた。口の中に入っていた紅茶を吹き出しそうになったからだ。
どういうつもりだ。大体何処に泊る。うちは俺とお母さんの寝室しかないぞ。
「泊る所はリビングで結構です」
「佳織さん、今日は帰って、明日また来て下さい」
「でも、実家を往復するなら、ここに泊まった方が効率よく勉強出来ます」
だからあんなにバッグが大きかったんだ。
「駄目です。帰って下さい」
俺は自分に自信が無い訳では無いが、場所が違って何もしなくても同じ屋根の下でこの人と一緒に寝る事は出来ない。
「佳織さん、仕方ないわね。でも祐也、夏休みは泊まりで行くんでしょう?」
「その時は、もう中務のお爺ちゃん、お婆ちゃんと話が済んでいる。お母さんとも」
「「えっ?!」」
「あっ!」
祐也さん、今の発言はどういう意味でしょう。何か重要なお考えを持っている様です。ここは引いた方が。
「分かりました。今日は帰ります。明日また来ます」
「そうして下さい」
祐也がさっき言っていた事、今日の夜に聞いておかないと。
それから、午後三時の三十分の休憩を挟んで午後五時まで集中してやった。少し不安な所は佳織さんに教えて貰った。
勉強が終わり駅まで送って行くといつもの黒い車が有った。
「佳織さん、俺が泊まる事を許可したら、あの車どうしたんですか?」
「帰って貰うだけです」
「そうですか」
「では、また明日、ここに午前十時に」
「分かりました」
俺は、佳織さんを乗せた車が見えなくなるまで待ってから家に戻った。
「ただいま、送って来たよ」
「お帰り、祐也、少しいい?」
「うん」
お母さんが真剣な顔をしている。
「さっき、言った事って?」
「うん、もう決めた。お父さんのお墓参りに行く前にはお母さんに言っておこう思っていたけど、今言うね」
「はい」
「俺は、大学を出たら中務の養子になる。俺は、お爺ちゃんに藤原から養女を迎える事は反対するというつもり」
「それって?」
「貰うなら、藤原佳織さんとして。彼女は物心ついた時から家の為に自分が犠牲になるのが当たり前と思って来た。
そして中務の養女となって、義務として俺の妻になるという事を止めさせたいんだ。そんなしがらみは藤原の姓を名乗っている内に捨てて貰う。
あくまで藤原の姓で中務祐也となった俺が愛する女性として佳織さんに結婚を申しでる。それが俺が彼女と結婚する条件。
勿論、お母さんが幸せになる事が第一条件。これを中務のお爺ちゃん、お婆ちゃん、そして葛城のお母さんのお兄さんにも守って貰う。
これを約束して貰えないなら俺は中務の養子にならない。佳織さんの事も含めてすべて白紙に戻す」
私は言葉が出なかった。まさかここまで考えているとは。でも祐也は大人の世界を知らない。
藤原家が佳織さんを養女に出すのは、中務との関係を強固にする為。結婚で得られる関係とは違った物。
それは、祐也が大きくなって今回の事をもっと広い大きな視野で見ないと分からない。でも今はこれでいい。養女の意味はお義父様に任せよう。
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