平穏という名の魔物
鷹司さんに、はっきり言った翌月曜日、彼女は朝は挨拶をしてくるが、中休みに声を掛けて来なくなった。
上野達は彼女が声を掛けて来ない事に興味は無い様で三人で大学何処受けるかとか、夏はどうするかとか話をしているだけだ。
だけど昼休み、俺達三人が学食で食べていると一緒にはならないが、直ぐ近くで一人で食べている。
周りの男子も今迄と違った状況に彼女の周りに座って食べながら彼女を見ているだけだった。
そんな日が一週間も続いた週末土曜日、俺は佳織さんと一緒に外の公園で過ごしながら
「そうですか。鷹司さんが、朝の挨拶だけになりましたか」
あの人は、今回の件、そんなに簡単に諦められる訳がない。何か仕掛けてくるはず。
「祐也さん、鷹司さん、その内動き出すはずです。その時はまた教えてください」
「分かりました」
そして次の日曜日、俺達は都立中央図書館で勉強する事にしている。お互い受験生だ。気が抜けない。
でも面白い事が有った。俺達は五階のレストランで昼食を食べた後、いつも胃が落着くまでそこで話をしている。
俺が、ちょっとトイレに行って戻って来ると何と無防備に居眠りをしていた。起こしてはいけないと思いながら静かに彼女の前に座るとその寝顔を見た。
いつも張りつめている感じの人が、本当に可愛い顔をして目を閉じている。この人は小さい時から家の運命を背負わされ生きて来た。
そして俺と出会ってからは、俺との関係を深くしようと一生懸命努力して来た。でも最近心が通じているのが分かったのだろう。
最初に中務のお爺ちゃんの家で会った時から見れば、大分優しい顔だ。最近は俺もこの人との事を真剣に考えて来ている。
今年の夏、お父さんの墓参りの時にお爺ちゃんの所によって俺の気持ちを話すつもりだ。お母さんにも話す。
それで今回の件、はっきりするだろう。お爺ちゃんやお婆ちゃんそれにお母さんがどう言うかは分からないけど。
「あっ、眠ってしまいました。えっ、裕也さんいつからそこに居たんですか?」
「今、帰って来たばかりです。気持ちよさそうに目を閉じていたので起こすのは悪いと思いそのままにしていました」
「もしかして私の寝顔見ていたんですか?」
「そういう事になります」
「えーっ!」
あれ、顔をテーブルに着けて手で頭を抱えている。耳まで赤くなってきている。少しして
「祐也さん、酷いです。私の寝顔を見るなんて。裕也さんも寝顔見せて下さい」
「いや、そんな事言われても…」
「駄目です。そうだ。夏休み、遊びに行った時、見ますね」
「えっ、寝顔見るって…。日帰りじゃないんですか?」
「ふふっ、駄目です。大丈夫ですよ。仕えの者もいますし。それに裕也さんから…でしょ。それまで待っています」
うっ、早く起こせば良かった。
その日も午後五時まで勉強して帰った。
翌日、教室に行くと先週と同じ様に鷹司さんが寄って来て
「おはようございます。葛城さん」
「おはよう、鷹司さん」
それだけ言うと彼女は自分の席に戻って行った。上野や小山内と目を合わせながら、何あれって感じでいると、周りも前と違った様子にちょっと戸惑っている感じだ。何も無ければこれでいい。
お昼休みになり、学食で三人で食べている。近くにはこっち向きになりながら鷹司さんが一人で食べている。先週と同じだと思っていたが、
「あの鷹司さん。一緒に食べてもいいですか?」
鷹司さんは、その男子をジッと見ると
「済みません。一人で食べたいので」
「そうですか」
その男子は、簡単に離れて行った。もっと頑張ればいいのに。
そして、少ししてまた別の男子が彼女に声を掛けて来た。そして断られた。
この日から同じ事が毎日起こった。彼女ほどの人ならおかしい事では無い。俺に嫉妬や妬みの視線が無くなっただけに助かっている。
でも金曜日、お昼休みになり俺と上野と小山内で学食に行こうとすると声を掛けられた。
「葛城君、昼食一緒に食べて貰えませんか。毎日他の男子から声を掛けられて落着いて食べられないんです」
「それは仕方ないでしょう。貴方ほどの人だ。声を掛けられない方がおかしい」
また、クラスの人が俺達の声に耳を大きくしている。早く行きたいんだけど。
「お願いです。食事中、葛城君に声を掛けるとかはしません。だから一緒に食べさせて下さい」
ここ迄言われると流石に困った。俺は上野と小山内の顔を見ると二人共仕方ないという顔している。
「分かりました。同じテーブルで良いですけど、話しかけないで下さいね」
「はい」
―ねえ、葛城君、ちょっと冷たすぎない。
―私も思った。鷹司さん、お昼を一緒に食べたいだけなんでしょう。なんであんな事言われないといけないの。
―そうよね。友坂さんとどんな理由で別れたか知らないけど、なんか葛城君の好感度下がりっぱなし。
―そうよそうよ。
「上野、小山内、早く行こう」
「ああ」
「うん」
急いで学食に行くとテーブルは結構埋まっている。端の方に空いているテーブルが有った。
「あそこ空いている」
俺達三人に鷹司さんが同じテーブルで座ると、周りの生徒が驚いた顔をしている。そしてその目は俺の方に向けられた。思い切り敵視している目だ。困った。
俺と上野それに小山内が食べながら勉強の話や夏休みの話をしているけど、鷹司さんは無表情に食べている。聞こえているのだろうけど。こっちが居辛くなって来た。
俺は、上野と小山内に目配せすると仕方ないと言う顔をしている。
「鷹司さん」
食べている顔を上げて
「は、はい」
「話をしましょうか。でも俺だけに積極的に話しかけるのは止めて下さい。上野や小山内とも同じクラスの人として話してください」
「はい!」
それから、四人で話をしながら食べた。鷹司さんは、俺への話は全くなく、上野と小山内にだけ話しかけている。これなら良いけど。でもこの事は佳織さんには言っておかないといけない。
ふふっ、二週間も掛かりましたが、この三人の中に入り込む事が出来ました。藤原佳織はこの学校にはいない。その分こちらが有利だ。時間はないけど、急ぎ過ぎて事を仕損じる訳には行かない。まだチャンスはある。
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