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私は諦めない


 俺は、翌日、いつもの様に登校した。昨日佳織さんに言った事を実行する為には、先に話をしておいた方が良いだろ。あの人も都合があるかもしれない。


 教室に入ると早速鷹司さんが寄って来た。

「葛城君、おはようございます」

「おはようございます。鷹司さん。あの今日の放課後用事あります?」

「いえ、有りませんが」

「そうですか。今日話をしたいので駅まで一緒に帰って貰えます?」

「はい、喜んで」

 やったわ。ついに葛城君と個人的なお話が出来る。それも二人で。チャンスです。


 鷹司さんが自分の席に戻ると上野が目配せして来た。昨日帰りに話した事を実行すると暗に分かったんだろう。



 授業の中休みになると必ず鷹司さんが来る。はっきり言って鬱陶しい。上野達と話をしていても傍に居る。



 昼休みになると俺達三人、俺と上野と小山内が自分のお弁当を持って席を立つと一緒に立つ。今日はお弁当を手に持っている。


 この様子だけでも男子からの視線が痛い。ほんとこの人分かって意図的にやっているのか、なにも考えずに猪突猛進に俺に迫って来ているのか分からない。



 やっと放課後になった。俺が帰り支度をしていると鷹司さんが、俺の傍に寄って来て

「葛城君帰りましょう」

「はい」

 まるで恋人同士が一緒に帰る様な雰囲気にしている。まあここ迄だろう。


 校門を出てから

「鷹司さん、話というのは、…はっきり言って学校内で執拗に俺に接して来るの止めて下さい。俺には外で正式に付き合っている人が居ます。

校内では言い辛かったんですけど、あなたが朝とか中休みそれに昼食時間に寄って来るのは迷惑なんです」

「えっ?!」

 告白でもしてくれるのかと思っていたら、私を拒絶する言葉。


「はっきりいますけど、鷹司の人間がここまで急に俺に近付く目的は一つだけですよね。葛城と中務の血を引く俺が必要。それも家の為に」


 ここまではっきりと言われるとは思っても見ませんでした。しかし諦める訳には行かない。何の為にこんな学校に転校して来たのか意味がなくなってします。父に合わす顔も無くなってしまう。


「そこまではっきりしているのでしたら、外でお付き合いしている人とは、藤原佳織ですね」

「知っていたんですか」

「はい、でも私はあなたを諦める訳には行きません。藤原佳織があなたを必要としている以上に私はあなたが必要なんです。

 葛城君が望むなら何でもします。葛城君が欲しければこの体を自由にして下さっても結構です。お願いです。私と付き合って下さい」


「あなたは家の為に自分を犠牲にしようとしている。そんな人は絶対にお断りします。佳織さんも中務の養女にする気は無い」

「えっ?!」


 この人、見掛け優柔不断な優しい人だと思っていたら、飛んでも無い誤解でした。既に自分の立ち位置が分かって自分の意思をはっきりと言っている。何ですか、この胸の高鳴りは。


「嫌です。葛城君、いえ祐也さん。私は家の為に自分を犠牲にするつもりはありません。自分の意思であなたとお付き合いをしたいのです。今はっきりと分かりました」


「もう駅です。言いましたよ。もう学校で必要以上に俺に付きまとわないで下さい」

「必要以上でなければ宜しいのですね」


 何言っているんだこの人は。

「俺に近付かないで下さいと言っているんです。失礼します。塾があるので。後、今話した事は学校では絶対に誰にも言わないで下さい」

「待って下さい。一言だけ。私は絶対にあなたを諦めない。邪魔だと言われても傍に居ます。それが私自身の心の本音です」

「…勝手にして下さい」


 祐也が、鷹司さんと何か話している。あまりいい雰囲気ではない。何が有ったんだろう。でも彼女の祐也への執拗さは、三年生の中でも噂になっている。転校してきた理由も祐也が理由だと。でもどうしてそこまで彼を?



 葛城君、いえ祐也さんが行ってしまいました。まさか私の心がこんなに揺れるなんて。

男なんて皆同じ物。大学を卒業した後、父の命令で適当な人間と結婚するだけの道具でしかないと思っていた私が、こんな気持ちになるなんて。


絶対に離さない。藤原佳織になんて絶対に負けないから。でもしっかり作戦立てて向かわないと返り討ちに有ってしまう。でも、だからこそ私が好きになった人。これからが楽しみです。




 俺は塾が終わって家に帰りお母さんと一緒に夕飯を食べてから佳織さんに連絡して、今日鷹司さんにはっきりと言った事を話した。


『そうですか。面倒ですね。でも鷹司さんが本当に祐也さんを好きになったと言ったのには驚きました。

彼女は、男性を好きになる様な人では無いからです。落ちぶれたとはいえ、鷹司の家系重んじ、プライドがとても高い人です。簡単に男性を好きになるとは思えません』


『そうなんですか。じゃあ、やっぱり好きと言ったのは嘘で俺との関係を持つ為の口先だと』

『そこまでは分かりません。でも私も好きから愛に変わったように今の祐也さんはとても魅力的です。もしかしたら琴線がそれに触れたのかもしれません』

『あははっ、それはそれで困ります』

『えっ、私が好きから愛に変わった事ですか?』

『いつから佳織さんはそんな自信のない人になったんです。俺の知っている佳織さんはもっと自信を持って、ものを言う人だったのに』

『私も一人の女の子です。愛している人の前では、いつも相手の言葉に神経質で不安な事ばかり思ってしまうものです』

 おやおや、知り合った時の佳織さんは何処に行ったんだ?


『勿論、困ったというのは鷹司さんの事です。心配しないで下さい』

『はい♡』

 気の所為か?佳織さんの声の後ろに♡マークが付いたような?


『祐也さん、もう少しで学期末考査ですね。一緒に勉強しましょう』

『そうですね。楽しみにしています』

『はい♡』

 やっぱり付いている様な?


――――― 

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