中途半端は誤解の元
俺の心の中の何かが変わった。美琴と別れ佳織さんと付き合う様になった。でも恋人同士という訳では無い。むしろ家の押し付けという気持ちが強かった。
しかし、鷹司理香子という人が転校して来て、露骨と言う言葉が合っているほど俺に積極的に接触して来た。目的は既に分かっている。多分俺と関係を持ちたいんだろう。
流石にその気は微塵もない。この人も家の都合だ。そんな理由で大事な物を他人に差し出すなんてあまりにも不幸だ。
だけど、鷹司さんのこの積極さが、何故か俺の心の中にくすぶっていた何かに火をつけた。
そして、俺の佳織さんへの気持ちもはっきりして来た。だからこの前会った時、彼女に俺の気持ちをはっきり言った。
俺がもし、佳織さんと結婚するとしたら中務の養女になった佳織さんでは無く藤原佳織という女性とだ。
この話は、いずれお母さんと中務のお爺ちゃん、お婆ちゃんにはっきり言わなくてはいけない。それは俺が中務の養子になる覚悟を決めた時だ。
その時期は…。まだ決められない。高校卒業の時か、大学卒業の時かいずれかだ。社会人になってからでは遅い。佳織さんが中塚の養女になってしまう。
「葛城?」
「葛城君?」
「えっ?!」
「おい、葛城、俺の授業がそんなにつまらないのか」
「あっ!い、いえそんな事はないです」
「じゃあ、今俺が言った事を英訳して見ろ」
「えっ?」
「葛城、ここだよ、ここ」
上野が教えてくれた。英訳は簡単だったけど
「葛城、勉強出来るのは分かるが、授業もきちんと聞け。そんな態度だと内申に響くぞ」
「は、はい。気を付けます」
みんなが大笑いしている。失敗した。授業中は考えるの止そう。
昼休みになって俺と上野それに小山内と学食に行って食べていると例によって鷹司さんが寄って来た。
「私もご一緒して良いですか」
俺は、上野と小山内を見ると仕方ないという顔をしている。確かにクラスメイトが一緒に昼食を食べたいと言って、断る理由はない。ただ気になるのは周りの視線だ。この人目立ちすぎる。
「いいですよ」
俺と上野、小山内と鷹司さんが並ぶ形になった。
「皆さん、お弁当なんですね」
「私も明日からそうしましょう」
「いや、別に合わさなくてもいいですよ。俺達はそれぞれの都合でお弁当持って来ているだけですから」
「そうなのですか?」
上野が、
「俺んところは八百屋やっているんで、売れなくなる前の野菜とかそういうのは、なるべく捨てずに家族で食べるのが決まりなんで」
「素晴らしいお考えですね」
今度は小山内が
「私は自分が作りたいだけ」
俺は
「家がお金ないからお母さんに作って貰っているんだ」
「えっ、葛城君の家がお金ない?」
「いけないですか?」
「そういう事では無いのですが」
驚きました。葛城の家といえば、巨万の富を持つ家柄なのに。そう言えば父が、葛城君の母親は、縁戚との関係は断絶して、中務、葛城の実家とも疎遠にしている母子家庭だと言っていたわ。失態です。
「不思議そうな顔していますけど現実です。いいじゃないですか。人の家の事なんて」
「ごめんなさい。ただ皆さんと一緒にお昼を食べたいだけの気持ちで聞いたんです」
「そういう事なら、その内段々分かって来ますよ。なあ上野。小山内」
「「そうそう」」
何故か、鷹司さんがお昼は俺達と一緒に食べる雰囲気を撒き散らしている。近寄るなとも言えないし、上野や小山内には迷惑掛けたくないから、家の事情は今程度にしておきたいし。困ったな。
この日から、正確には体育祭の日から鷹司さんは、俺達と一緒に昼食を食べる様になってしまった。
中休みでも俺にやたらと声を掛けてくる。声掛けるなとも言えない。でもそのおかげで周りから特に男子からの嫉妬や妬みの視線が強くなった。どうしたものか。
―なあ、最近葛城と鷹司さん仲良いよな。
―付き合っているのかな?
―でも葛城、友坂さんと別れて…だいぶ経つか。おかしくはないな。
―なんで葛城なんだよ。葛城よりイケメン一杯いるだろう。
―それは分からん。
はぁ、どうすればいいんだ。
「上野、今日一緒に帰らないか?」
「ああ、分かった」
誘われた理由は直ぐに分かった。俺も鷹司さんの行動は腑に落ちない。
放課後、俺が帰ろうとすると鷹司さんが
「葛城君、一緒に駅まで帰りませんか」
「駄目です。ちょっと上野と用事があるので」
「そうですか、残念です。ではまた明日」
鷹司さんが教室から出て少し経ってから上野に目配せして教室を出た。
「上野」
「分かっている。鷹司さんの事だろう。俺もおかしいと思う。あれだけ周りの男子から声を掛けられてもはっきりと拒絶するのにお前だけあの異常な接し方はおかしいよ」
「そうなんだよ。俺、あういう人苦手なんだ。何とか避ける方法無いかな」
「うーん。教室の中できつい事言えないしな。下手に話しかけるな、なんて言ったら、周りの男子から逆の反発受けるし」
「様子見てどこかではっきりというか。あまりくっ付かないでって」
「まあ、二人きりの時に言うしかないだろう」
「それはまた困難な方法だな」
あの人絶対誤解する。
駅が近くになって来た。
「上野ありがとう。俺塾だから」
「ああ、また明日な」
「おう」
俺は帰ってからお母さんと一緒に夕食を食べ終わった後、佳織さんに連絡した。毎日鷹司さんの様子を教える為だ。
『それは、ますます不味い状況ですね。私もお父様に話しましたが、鷹司家は藤原家からの分流、いくら落ちぶれているとは言え、厳しい扱いをする訳には行かない。まして娘の学校の事をとやかく言う事は出来ないと言っておられました』
『確かにそうですね。俺も同じクラスなので無下に扱う訳にもいかず、今度呼び出してはっきりと言うしかないと思っているんですけど』
『呼び出すのは不味いです。あの人がどんな手を使って来るか分かりません。実際にそうしなくてもされた様に言いふらし、それを現実に持って行くかもしれません。ここは厳しい態度を取って下さい』
『厳しい態度と言われてもなぁ』
『外にお付き合いしている人がいるからあまり接して来るのは控えて下さいとかは如何ですか』
『それみんなの前で言うんですか』
『学校の帰りとかは?それなら変な行動とれないでしょう』
『分かりました。明日にでも言ってみます』
『あの…。私は裕也さんとお付き合いしていると思って宜しいですか?』
『今更何を言っているんですか。前に言ったはずです。嫌いな人と長く付き合えるほど俺の心は広く無いと。それに俺の心は二分の一佳織さんを好きだと言っているじゃないですか』
『ふふっ、そうでしたね。早く残りの二分の一も好きになって下さい』
『急ぐと逆効果です』
祐也さんは前よりはっきりと私に言う様になりました。嬉しい事です。そうですね。
急げば事を仕損じると言います。ここはゆっくりと。
『はい、祐也さんの仰せの通りに』
『じゃあ、また土曜日に』
『はい』
嬉しい。裕也さんがはっきりと私を見ていてくれるのが分かる様になりました。もう少しです。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします。




