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面倒な体育祭


 今日は、体育祭。高校生最後の体育祭だ。楽しもうと思ってはいる。俺の隣には、上野と小山内が座っているのは良いのだけど、…何故か小山内さんの隣に鷹司さんが座っている。

 この人が何故四月に突然転校して来て、他の男子とは誰とも話さないのに俺に近寄って来たのかは、お母さんと佳織さんから聞いて知っている。


 だから、近寄って欲しくないのだけど、こちらの意思に反して、何かにつけて傍に来る。



 私、鷹司理香子。今日は体育祭。葛城君に近付くチャンスだ。思い切り私をアピールして、なんとか彼の心を掴みたい。出来なくても彼の気を引いてアレに持ち込むチャンスを作りたい。


 今日私が参加する競技は、昼食後直ぐの体育祭イベントの花形クラス対抗リレーだ。私は、葛城君にバトンを渡せる順番になっている。


 そしてもう一つは借り物競争。体育祭実行委員会からこの日の借り物競争のカードのサンプルを手に入れてある。当然私のポケットには、必要な事が書いてあるカードが入っている。


 後は、お弁当の時もチャンスだ。何とかして彼の気を引きたい。



 目前では、二人三脚やムカデ競争が行われている。二人三脚を葛城君とやりたかったけど流石に出来なかった。



―次の競技借り物競争に出場の選手は、スタート地点に集まって下さい。


 さてそろそろ行きますか。その前に声を掛けておかないと


「葛城君、私今から次の競技に出て来ます。見ていて下さいね」

「あっ、はい」


 鷹司さんがスタート地点に行った。


「葛城、あれどういう事?」

「さあ、分からん」

「最近って言うか、中間考査終わった辺りから葛城君に目に見えて近付こうとしているよね。心当たり有る?」

「うーん、ない」


 上野や小山内に俺の個人的な事で気にしてもらう必要はない。いずれは話す必要があるのだろうけど。



 借り物競争がスタートした。一年生からだ。この競技は面白い。先生が声を掛けられたり、彼か彼女か知らないが他の生徒の手を引いてゴールに駆け込んでいる。


何故か、体育倉庫から跳び箱の上だけを持って来る奴もいる。誰だあんなの書いたのは。


 俺が上野や小山内さんと笑いながら見ていると、いよいよ三年生の順番だ。あっ、美琴が出場する。


 スタートした。カードを拾うと、えっ、こっちを見た。でも困った顔をしている。そして…担任の先生の方に走って行った。何か耳打ちしている。


 先生が席から出て、美琴と一緒に走って行った。何がカードに書いて有ったんだろう。ゴールして係の生徒がカードを受け取ると


―3D、友坂美琴さんのお題は…大切な友人でしたぁー。

―おおーっ。でも先生って友人?

―いんじゃねぇ。


 周りから変な声が出ている。

「葛城」

「ああ」


 上野の声も理解できるけど、もし美琴が俺の所に来ても一緒に行かなかっただろう。先生にお願いしたのは正解だ。


 おっ、次は鷹司さんだ。スタートした。ポニーテールにした髪の毛が右や左に揺れている、大きな胸も揺れている。何も無ければ綺麗な人で終わるんだろうけど。


 カードを拾うと、えっ、こっちに来た。なんで?


「葛城君一緒に来て」

「「「え、ええーっ?!」」」


 ほら周りが騒いでいる。

「葛城君、早く」


―葛城いってやれよー。

―そうだそうだ。


「葛城、仕方ないな」

「分かった」


俺はクラスの集合場所から出ると

「さっ、早く」


 鷹司さんは俺の手を握ってゴールに向かった。しっかりと握られている。ゴールして彼女が係の人にカードを渡した。


「3B,鷹司理香子さんのお題は…。言ってい良いんですか?」

「はい」

「お題は…。私の大好きな人でしたぁーっ!」


「「「「おおーっ!」」」」

「「「「きゃーっ!」」」

―公開告白よ!

―でも、鷹司さん。ここに来てまだ二ヶ月しか経て居ないでしょう。

―そんな事知らなーい。

―でも鷹司さん人気有るから。それに葛城君、この前まで友坂さんが彼女だったんじゃ。

―うんうん。

―何かが起こる予感。

―うんうん。



 はぁ、やってくれたよ。鷹司さん。

「さっ、葛城君、クラスの所に戻りましょうか」

「……………」


 鷹司さんと一緒に歩いていると視線が痛い。特に男子の視線が…。戻りながら


「葛城君、私があのカードを引いたのは二人の運命を予言している気がします」

「……………」

「葛城君、これからは仲の良いお友達としてお付き合いして頂けませんか?」

「済みません。お付き合いする事は出来ません」

「えっ?でも同じクラスですし。お友達としてなら」

「まだ、鷹司さんとは、知り合ったばかりです。急に友達と言われても困ります」

「分かりました。ではこれからもっと私を知って頂ければ宜しいのですね」

「……………」


 この人の胸の内が分かるだけにスパッと切りたいけど、ここは学校の中、どうすれば良いものか。


 クラスの場所に戻ると上野と小山内が複雑な表情をしている。周りの男子からは、嫉妬や妬みの視線が向けられている。



 昼休みになり、教室に戻って、俺、上野と小山内と三人で昼食を食べようとしていると鷹司さんが寄って来た。

「葛城君、私も一緒に昼食を食べて宜しいですか?」


 あっ、また周りの視線が。

―なあ、何で鷹司さん、葛城に。

―分からない。

―なんであいつばかり。

―面白くないな。


 簡単に断る事も出来るんだけど。

「上野、小山内、どうする?」

「仕方ないんじゃないか」

「ここまで来ちゃうとね」

「分かった」


 俺は鷹司さんの顔を見て

「鷹司さん、いいですよ。一緒に食べましょう」

「はい」


 思い切り顔が明るくなった。寂しい顔されるよりはいいか。



 周りの視線を思い切り向けられながら食べていると上野が

「鷹司さん、なんで葛城に声を掛けたんですか?俺は葛城とは付き合いが長いから言えるけど、こいつよりかっこいい奴一杯いるでしょう」

「上野さん、私は見た目で葛城君に声を掛けた訳では有りません。中間考査の結果や、今まで見て来た人となり、そして今日の競技での運命を感じたからです」

「そうなんですか」


 上野簡単に撃沈された。



 お昼食べ終わった後も鷹司さんは、色々と俺に話かけてくる。面倒になって

「上野、小山内。俺、トイレ行ったらクラスの集合場所に行くから」

「ああ、俺もそうする」

「私も」



 中々、葛城君の心を開くのは大変なようです。午後一番の競技はクラス対抗リレー。チャンスです。



 昼休みも終わると午後一番の競技はクラス対抗リレーだ。


 俺が立つと鷹司さんも立った。スタート地点に着くと今度は自分のリレー地点に向かう。一周二百メートル。俺はアンカーでは無いので丁度クラスの前になった。鷹司さんは来賓席の前だ。


 最初の一年生がスタートした。拮抗している感じだ。二年生の番になると段々、離れて行く。俺達Bクラスは三番手だ。

 鷹司さんにバトンが渡った。上手い。綺麗にバトンを受け取ると凄いスピードで二位に近付いた。コーナーを曲がる頃には、同じになっている。


 二位とほとんど同時にバトンを貰った。その時、

「祐也さん頑張って」


 取敢えず聞き逃して、一生懸命走ると次のコーナーの所で俺がリードした。そのままアンカーに渡すとコースの内側に入った。


 難しいタイミングで渡してくれたもんだ。鷹司さんがこっちを見て手を振っている。あの人、俺をこの学校の男子全員の敵にする気か。


 それから、俺が出る二百メートル競争が有ったが、クラスの集合場所から大きな声で俺をお応援して来た。もうどうしようもない。



 体育祭が終わった。今日は部活が無いので上野と小山内と一緒に駅に向かっている。鷹司さんは用事が有るのか、終わると素早く帰って行った。


「葛城、今日は大変だったな」

「ああ、来週からが思いやられるよ」

「でも、鷹司さんの葛城君に対する行動はちょっと異常ね。常識では考えられないわ」

「俺もそう思う。葛城本当に心当たり無いのか?」

「ない」


 明日、佳織さんに会うから今日の事言っておくか。用心に越したことはない。


――――― 

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