諦めが悪い奴もいる
この話から今迄とは違った展開になります。お楽しみ下さい。
勿論、今迄の登場人物は引き続き出てきます。
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俺は土曜日、佳織さんと会った時は、都内にある美術館や博物館に行ったり、有名な公園に花を見に行ったりしている。多少はお金が掛かるけど、なるべく散財しない様にする為だ。
彼女はお金持ちだろうけど、俺は母子家庭で育った人間。バイトはしたものの、それは塾に使う予定だし、小遣いに余裕が無いからだ。
そんな、俺の理由を知ってか知らずしてか、俺が会う場所を決めても嬉しそうな顔をして、はい、お気のままにと言ってくれる。
彼女は、美術や芸術に詳しく、俺はパンフを見ながら飾られている美術品を見ているのけど、佳織さんは、パンフなど全く見ないで、俺が不思議そうな顔をしていると直ぐに教えてくれる。
そして次の日曜日、勉強の休憩の合間に、前の日の美術品で理解出来なかったところを本当に一生懸命教えてくれる。
そんな彼女になんでそんなに知っているのか聞いたりするけど
「小さい頃から、美術や芸術については教えられてきました。嗜みの一つです」
「そうなんですか、俺は趣味も何も無い為、全然分からないです」
「これから覚えればいいだけの事です。お互いに好きな事や興味に共通点があるのは、夫婦円満の秘訣です」
「そうですか」
「良い事ですよ。裕也さん」
こんなに俺の事を大切にしてくれているのに、心はまだこの人に向かない。勿論美琴の事はもう忘れている。
でも、佳織さんの気持ちを受け止める様に努力はしているのだけど…、何かきっかけが有れば良いのだろうか。
そんな時間を過ごしながらGWを迎えた。同じ塾に一緒に通うという約束をしている。
「祐也さん、何処の塾にしましょう。私が行っている塾にするか、あなたの行っている塾にするかですけど」
「出来れば俺の塾で良いですか。佳織さんの家からは遠くなってしまって申し訳ないんですけど」
「問題ありません。私が行っている塾にすれば祐也さんが遠くなります」
「済みません。ありがとうございます」
「こんな事で、謝らないで下さい。私はむしろ祐也さんが、俺はこうする、付いて来てくれと言われる事を待っていますよ」
「……………」
おれもそうなりたいとは思っているけど、あらゆる面で佳織さんの方が上だ。とてもそんな事を言える立場でもない。
塾には二人で申し込みに行った。難関国立大学コースだ。佳織さんは、その場で入塾テストをしたけど、塾の人が驚いていた。そして
「塾に入る必要あります?」
なんて聞いて来ている。何点なのか彼女に聞いたら、全部百点だと言う。ここの塾は易しくない。それは俺が一番分かっている。ちょっと唖然としてしまった。
日程は三日から七日まで五連休になる日だ。午前八時半から午前中三教科、午後一教科と結構ハードなスケジュールだ。勿論終わった後は自習室が閉まる午後五時まで復習と予習をやっている。
お昼は、近くの喫茶店で食べるのだが、財布にきつい。仕方なく
「後、三日ですけど俺弁当持って来て自習室で食べます」
「そうですか、それでは私が作って来ましょう」
「いや、いいですよ。お母さんが作ってくれるので」
「良いでは無いですか。三日間だけです。私に作らせて下さい」
「いいんですか?」
「いいんです」
次の日から佳織さんが作ってくれたお弁当を食べたのだけど、出汁巻卵、鳥唐揚げなど、俺の好きな食べ物ばかりだ。
「美味しそうですね」
「はい、高校三年生の育ち盛りの祐也さんに沢山食べて貰おうと思いまして。さっ、召し上がれ」
「頂きまーす」
祐也が、藤原さんと自習室でお昼を食べている。私も自分が作ったお弁当を食べているけど、とても仲が良い。
誰が見ても素敵なカップルと見えるだろう。本当は私がそこに座っていたはずなのに。仕方ない。私が悪いんだ。それよりしっかりと勉強しないと。もしかしたらという事もあるし。
GWは塾デートみたいになってしまった。でも佳織さんは俺と一緒に居れるのが楽しいと言っていた。彼女の爽やかな笑顔がなんとも心に気持ちいい。
GWが終わって直ぐに中間考査が有った。この辺りから内申に影響が出てくる。だから気を抜く訳には行かなかった。佳織さんも同じ時期に考査が有るらしい。
そして翌週に結果が出た。成績順位表が掲示板に張り出されると上野が
「祐也、二位なんて凄いじゃないか」
「ああ、でも一位は取れなかった。四点差は馬鹿に出来ない」
「レベルが高い事言うな。俺なんか十五位だぞ」
「二人共頑張っているわね」
「「一位の人!」」
「ふふっ、葛城君。君には負けないわ。学期末考査も同じよ。じゃあねえ」
鷹司理香子さんだ。突然四月に転校して来た人だ。切れ長の綺麗な目にすっと通った鼻筋。肩まで有る艶やかな髪の毛の持ち主だ。
この時期の転校にも驚いたが、ここに来て直ぐに男子から注目されて、ここ都立巻島高校で絶大な人気を得ている。
「祐也、なんか凄い事言われたな」
「ああ、でもあの人の好きにはさせないさ」
私、友坂美琴。成績順位表が張り出された。裕也が二位だ。凄い。鷹司さんと話をしている。あの人は早々に男子に声なんか掛けないのに。
私は、政臣君に振られたショックから立ち直ってから必死に勉強した。塾にも通い続けている。お陰で成績順位は二十五位まで上がった。四十位以内に入れなかった二年生の学年末考査から見れば十分だ。
この日の夜、佳織さんから電話が掛かって来た。
『考査結果はいかがでしたか』
『四百九十二点の二位でした。佳織さんは?』
『満点の一位です。今度の土曜日は八点分をしっかりと見直さないといけないですね。ところで一位はどなただったんですか?』
『鷹司理香子さんと言う方です。四百九十八点でした』
『えっ?!』
何であの人が祐也さんの学校に。あの人は筑和に居たはず。
『どうしたんですか?』
『いえ、何でもありません。土曜日は祐也さんのご自宅に伺いますね』
『待っています』
祐也さんと話を終えた後、私は少しだけ混乱しました。鷹司理香子、二年生までは筑和大付属高校にいたはず。何故、祐也さんの学校に?
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