残された私
三学期になった。クリスマス以来、政臣君と会っていない。学校が始まって直ぐに連絡したけど、英検の準備とか模試の準備とかで忙しい、落着いたら自分から連絡するから待って欲しいと言われた。
それなら仕方ないと思った。駒留という高校はそういう所が厳しいのかもしれない。だから私は、土日は誰とも会う事も無く、家で過ごした。
元々、お金もなくて外に出る事も少なかった私。裕也といる時は、どちらかの部屋で一日中過ごしたり、近所の公園に散歩に出かけていたけど、祐也はもういない。
学校の登校もお昼も下校も一人。小山内さんは隣に座っているけど、政臣君との事がバレて以来、学校行事で用事でも無い限り話しかけてくれなくなった。
クラスの友達とは話すけど、元々祐也がいた時は彼にべったりだったから女の子の友達を作るという事も無かった所為もあり、あまり私に話しかける人はいない。
塾も秋コースの後期分で終わった。理由は祐也を塾で見かけるのが辛いからだ。裕也がいたら、祐也がいれば、祐也が…。
いつも祐也の事ばかり。近藤君という、今お付き合いしている人が居るのに頭の中は祐也ばかりだ。
政臣君とラブホに入った事がバレた後、お母さんが言った様に近藤君ときっぱり別れていれば、祐也と元通り…、いえ元通りにならなくても話が出来る位になっていたかもしれない。
でも私はその後も政臣君と会い、求められるがままに体を合わせていた。
どこで間違ったんだろう。何処がいけなかったんだろう。でも政臣君は私を大切にしてくれている。一緒に勉強して同じ大学に行こうと言ってくれている。今はそれを信じるしかないのかな。
二月の初めにやっと政臣君から連絡が有った。また会えると思って直ぐにスマホに出た私に対する彼の言葉は、
『美琴ちゃん、今迄素敵な時間をありがとう。でももう会えないや。俺、他に好きな人が出来たんだ。ごめん。さよなら』
それだけ言うと一方的に切られた。私は政臣君に掛け直したけど既にブロックされていた。
何が起こったのか理解するまで時間が掛かった。段々冷静になると、止めども無く涙がこぼれて来た。
政臣君から捨てられた。その言葉が頭の中をグルグル巡った。何をどうして良いかなんて分からない。
夕飯になりお母さんが声を掛けて来たけど、とても食べる気にはなれなかった。裕也を裏切って政臣君に捨てられた。
どうすればいいのか全然分からなかった。学校に行っても先生の言葉は耳に入らない。学年末考査の勉強なんて頭の中から消えていた。
三月初めに有った学年末考査、私は成績順位表にも載らなかった。でも祐也は三位を維持している。
祐也の周りには上野君や小山内さん、それに他の友達がにこやかに話をしている。私の方なんて見向きもしない。
私は祐也と一緒に居た時と同じように進路は文系を取っていた為、3Aは理系トップクラス、3Bは文系トップクラスという順にクラス編成が決まるけど、成績順位表に載っていないという事は、3D以下に落ちる事になる。益々祐也とは遠ざかってしまった。
案の定、四月の始業式の時に掲示板に張り出されたクラス編成で私は3Dになった。裕也も上野君も小山内さんも3B。もう私の周りには話をしてくれる人はいなくなってしまった。
俺は、三学期になっても塾に通った。お母さんから大学の事は一ミリも気にしなくていいと言われたので、バイトで稼いだお金は全部塾に使う事に決めた。夏のコースまでが限界だけど、その後はお母さんにお願いする事にしている。
学年末考査は、思いのほか良かった。これで文系トップのクラスに行けるはずだ。
藤原さんとは土曜日は一緒に映画見たり、散歩したりしている。俺の部屋に来たいと言っているけど断っている。
あの人の事だから上手く言葉で丸込められて、何となくそっちに走りそうな気がしているからだ。
日曜日は図書館で勉強している。彼女は俺より頭がいいらしく、分からない所を随分教えて貰った。
会っていると彼女の人となりも見えて来た。責任感が強く、自分の立ち位置を理解している。
中務の養女になる事も幼い頃からお父さんに言われて育ったらしい。だからそれが自分の生きる価値、役目だと思っている。
そして中務と葛城の血を引いた俺と結婚し男の子を産む事が自分の生まれて来た理由だと言ってる。
始めは彼女のお父さんからの洗脳でしかないと思っていたけど、お母さんから中務の家の事聞いたり、葛城の家の事を聞いたりしていると彼女がなぜそこまでこだわるのか分かる様になって来た。
でも俺はそんな事は知らずに育った。お母さんも去年のお盆にお父さんの墓参りがてら中務の家に寄らなければ、今でも知らなかったかもしれない事だ。
お母さんは、俺を家の繋がりの犠牲にしたくないと思って、教えなかったらしい。知らないままに成人すれば、どうにでもなると。
でも知ってしまった。でもそんな事に流されたくない。もし俺が藤原さんと結婚するとしたら、それは家の繋がりとかでなく、本当に彼女を心の中に置いた時だ。
彼女もそれを分かったらしく、キスや体の接触で攻めて来なくなった。でも必ず俺の心の中に藤原さんを俺自身が座らせたいと思う様にして見せると言っている。
もしそうだとすればそれも良いかも知れないが、俺の心の中には彼女が入って来る隙間は何処にもない。
だって、俺が心を開くとすれば、それは彼女に向ってではない。
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