いつも一緒だけど心が離れて行く
俺達は、朝、登校しながらお互いの昨日の事を話していた。
「祐也、あの人とどうしたの?」
「うーん、渋山で映画見て、回廊坂の上の中華料理屋でご飯食べた。前に美琴があいつと行ったって言ってた所。本当に混んでたよ」
「でしょう、やっと信じてくれた」
「ああ、でもあの時は仕方なかったじゃないか」
「それはそうだけどさ」
「後は、THKの方に歩いて行って途中疲れたから喫茶店に入ってお茶飲んで駅まで行って帰った。だから家に着いたのは午後五時位かな」
「そうなんだ。なんか平凡ね」
「美琴はもっと別の事期待していたの?」
「そんな事ない、そんな事ない。今のは失言。もうすぐ学校だから私のは下校の時に話すね。学校じゃぁ嫌だから」
「そうだな」
教室は違うけど、気持ちが通じていれば心の距離は無い。これでいいんだ。
お昼は祐也の教室で一緒に食べた。上野君が揶揄いに来ていたけど。そして放課後、塾に行くまでに
「祐也、私はね。午前中勉強して午後から三子玉のSCにある本屋に行ったの。裕也も知っているでしょ。
あそこで数学の問題集買って、ちょっと難しめの本だけど、それからね…言いにくいけど正直に言うね。
ファミレスで祐也の代りに入った近藤さんとバッタリ会って、二人で改札の〇ックでお話して別れた。
私も午後五時位かな。話した内容は、近藤さんが読んでいる小説の事とか、私の勉強の事。そんな感じ」
「そうか」
この時は、俺も藤原さんと会っている。美琴は偶然会ったと言っていたから仕方ないんだろう位に思っていた。
それからも俺は登下校もお昼も塾も美琴と一緒。塾の帰りは美琴の家まで送って帰った。でも土曜日、俺は藤原さんと会っている。
美琴もファミレスの近藤という人と会っているらしい。勉強とか教えて貰っていると聞いた。
美琴が俺の知らない男と会うなんてとても嫌だけど、俺が藤原さんと会っている以上、会うなとは言えない。
それが十一月の第三週まで五週間続いた。勿論日曜日は俺の部屋で会っていたけど。
来週から考査ウィークに入る。今週はまだ普通の週だが、今週末の土曜日は、お互いに相手の人とは合わない約束なので、俺の家で学期末考査の準備をする事になっている。
でも木曜日が祝日だった。水曜日の夜、俺のスマホに藤原さんから連絡が有った。
『祐也さん、今週末の土曜日はお会い出来ません。明日会えませんか?』
『それはちょっと』
『友坂さんの事ですか。あの人も予定が入っているかもしれませんよ。聞いてみたらいかがですか』
どういう意味だろう?
俺は、早速美琴に連絡しようと思った所に連絡が有った。
『祐也、私』
『美琴、どうした?』
『祐也、今週末の土曜日は会えるでしょ。だから明日の事なんだけど、出かけていいかな?』
『えっ?会えないの?』
『うん、ちょっと。近藤さんがね、勉強教えてくれるって言うから、偶には聞いてみようかなと思って。
彼って駒留だから結構偏差値高い所だし、聞いておけば、土曜日祐也と会った時、それ教えられるかなと思って』
『そうか。…会わないでと言っても会うか?』
『祐也意地悪だよ。そんな聞き方。土曜日も日曜日も祐也と一緒だし』
『分かった』
美琴が…。相手の男を選んだ。あれ程、俺だけだと言っていたのに。
私は祐也との電話を切ってから、近藤さんに掛けた。
『政臣さん。明日は会えます』
『そうですか。良かった。喫茶店で勉強した後、少し散歩しようか美琴ちゃん』
『はい』
いつの間にか近藤さんを名前呼びしていた。彼も私を名前呼びしていた。政臣さんは、私の知らない事を一杯知っている。勉強も教えてくれて良く分かる。
だから、私が覚えれば祐也の為にもなると思った。でも祐也からは会わないでと言われた。でもその時、何故か私の心は政臣さんと会う事を優先していた。
祐也を裏切ってなんかいない。手を繋いだ位だ。裕也だってあの人としている。だから私だっていいに決まっている。
俺は、頭の中が自分で良く理解出来ないでいた。美琴が近藤という人と会った次の日曜日は、俺とずっと一緒にいる。
それから金曜日の夜までずっと一緒にいる。なのに週一回会うだけの男の約束を優先した。俺は会わないでと言ったのに。
また、分からなくなって来た。美琴は俺しかいない。俺だけだと言っていたのに。藤原さんに返事をする事を忘れて、そのままベッドに潜り込んだ。
翌朝、午前九時半に家のインターフォンが鳴った。お母さんはもう仕事に出ている。もしかして美琴かと思い、玄関の監視カメラを見ると、
えっ!藤原さんだ。俺は急いで玄関を開けると
「おはようございます。裕也さん」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「祐也さん、昨日あの後連絡が来ると思って午前零時まで待っていたんですよ」
「えっ、いや、それはすみません」
「それより、お家に入れてくれませんか?」
「済みません。あっ、こんな格好ですけど」
「構いません」
「リビングこっちです。着替えて来ますから」
「ふふっ、ゆっくりでいいですよ」
祐也さんの寝起き姿を初めて見ました。結構目のやり場に困りましたけど、本人は気が付いていなかったようです。
でもいずれは分かる事。楽しみです。
「済みません。直ぐに紅茶持ってきます」
「構わないで下さい。寝るのが遅かったので、朝食を摂っていないのです。外で一緒に摂りませんか?」
「そうですね。準備して来るので待っていて下さい」
「はい」
俺達は、それから渋山に行って、交差点を渡った所にあるトドールに入った。朝〇ックは流石に藤原さんに失礼と思っての事だ。
二人で今日何をするか話していると、隣の〇ックから美琴が俺の知らない男と手を繋いで出て来た。とても似合っている。
「如何したんですか?」
「いや…」
「あの方が友坂美琴さんですか。お顔に書いてありますよ。隣にいる方はどなたなのでしょう?」
「ファミレスのバイトの時知り合った人と聞いています」
「お友達の割には親密な雰囲気ですね」
私は、〇ックで政臣さんから問題集の分からない所を教えて貰った後、頭が一杯になったので散歩しようと彼に誘われて外に出た。彼が直ぐに手を繋いで来た。
もう慣れていた私は握り返すと彼が笑った。彼の足の向くままに歩いて行くと何処に行きたいのか分かった。
「あの、そこまでの関係ではないと思います」
「じゃあ、これからそこまでの関係になりませんか?」
「でも…」
私は自分が何で強く否定しないのか理由は分かっていた。でもしてはいけない。
「相手の事を考えているんですか。一度位なら分からないですよ。それにここに居るなんて知らないでしょう。今日は勉強する予定ですから」
「でも…」
「行きましょうか」
「……………」
断らなければいけないのに体が反対の事を要求している。政臣さんともキスもしている仲だ。でも私の心は祐也なのに。
私はそのまま、彼の歩くままに祐也以外とは入って行けない所に入ってしまった。
「そんなぁ」
「残念ですけど、これが現実のようですね。帰りましょうか。もう十分録画も撮りました」
ふふふっ、思ったより早くチャンスが来ました。友坂さんという女性。裕也さん一筋と思っていただけに強敵と思っていたのですが、こんなにお尻が軽いとは思いませんでした。
政臣さんは部屋に入ると直ぐに私を夢の世界に連れて行ってくれた。ここ数ヶ月我慢していた体が解き放たれるように自分から思い切り求めてしまった。この時祐也の事は忘れていた。
そして、午後三時過ぎにそこを出た。
「嬉しいです。美琴さん」
「政臣さん、会えばこれするなんて思わないで下さいね。今回だけです」
「分かりました」
無理だよ美琴さん、俺も驚く位に積極的だったじゃないですか。初めてじゃないのは残念だけど、俺もそうだし。
でも見た目より思い切り素敵な体だったな。この人ならずっと一緒に居れそうだ。大切にしないと。
私は政臣さんと別れた後、段々頭が冷静になって来た。してしまった。どうしよう。でも分からないよね。思い切り体を良く洗って明日も祐也のベッドに入ればいい。してくれないから分からないし。
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