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何かが違って来た


 翌日月曜日。放課後、バイトに行くと丁度近藤さんも来た所だった。

「近藤さん、土曜日は大変ありがとうございました」

「いえ、大した事してないですよ」

「何か、お礼でもしたいのですけど」

「お礼なんて、あっ、だったらお話をさせて下さい。三十分位でもいいです。今週でもう終わりですよね。今日でもいいですけど」


 失敗した。お礼なんて断ると思って口先で言ったつもりなのに。でも言ってしまったし、簡単に終わらせるか。


「分かりました。今日バイト終わったら近くの喫茶店で」

「はい」

 これでやっと話せる。嬉しいな。


 バイトは午後七時に終わる。同時にファミレスを出ると近くの喫茶店に入った。コーヒー専門店だ。ちょっと高いけど仕方ない。


 中に入ると席が半分位埋まっていた。私達は中程のテーブル席に座ると

「友坂さんは何にします?」

「カフェオレにします」

「分かりました」


 近藤さんは、水を持って来た店員さんに私と自分の分を注文すると

「友坂さんと話が出来て嬉しいです」

「あの、近藤さんは、バイトして一週間も経ってないですよね。何で私と話をしたいんですか?」

「可愛いからです」

「えっ、それだけ?」

「十分じゃないですか。可愛い女性と話をしたい。ごく普通に男が思う気持ちだと思いますけど」

「そうなんですか」

 分からないでもないけど。


「友坂さんは、恰好いい男の人と話したいと思った事は無いですか?」

「全然興味ありません。容姿なんて人それぞれじゃないですか。背の高い人低い人、太っている人痩せている人、眼鏡を掛けている掛けていない。それに考え方だってみんな違う。

格好良い、恰好悪いなんて主観だけの話です」

「凄いですね。そこまで考える人は中々いないですよ。ちなみに友坂さんが素敵と思う男の人ってどんな人ですか?」

 何聞き始めているんだこいつは。


「私の事なんてどうでもいいじゃないですか。それより近藤さんは、どんな人が好きなんですか?」

「そうですね。身長百六十五センチ位で、髪の毛は肩まで位な人、やはり綺麗で可愛い方が良いですね。胸はちょっと控えめな感じが好きです。目はちょっと吊り上がった猫目な感じがいいです」

 こいつ人馬鹿にしているのか?


「あの、それって」

「はい、今目の前に座っている綺麗で可愛い女性の事です」

「あははっ、近藤さんって口が上手いですね」

「えっ、こんな事言ったの友坂さんが初めてなんですけど」

 あらっ、下を向いて顔を赤くしている。ほんとだったの?不味い、話を変えよう。


「あの、近藤さんって、学校は何処ですか?」

「駒留です」

「駒留って、あの帝都大現役合格者数トップの?」

「そんな言われ方もしていますけど、皆そんな事気にしていないですよ。オタクが多いですし。オタクと言ってもアニメとかじゃなくて、これなら他の人より深く広く知っているって奴ですけど」

「へぇ、近藤さんは、どんな事にオタクなんですか?」

「俺は……」


 こんな事を話していたらあっという間に一時間が過ぎていた。三十分のつもりだったのに。でも楽しかった。


裕也とは違った感性で多方面に知識がある。裕也は勉強好きだけど、近藤さんは、色々な事に興味を持っている。友達だけだったら、こんな人も良いな。


「あの、友坂さん、もし良かったら連絡先交換しませんか」

「えっ、でも…」

「バイトの終りが縁の切れ目は寂しいですから」

「そ、それはそうですけど」


 私は、近藤さんと連絡先を交換してしまった。でもこちらから掛けなければ良いし。邪魔ならロックすればいい。でも祐也には教えておかないとね。



その週の木曜日、バイトが終わった時、薬丸マネージャと柏木さん、それにホールの仲間が事務室で簡単に送別会を開いてくれた。ほんの五分位のちょっとした時間だったけど、その後、厨房の先輩達や近藤さんも来て、さよならを言ってくれた。


そして最後に薬丸マネージャが

「ここ辞めても食べに来てね。今迄長い間ありがとう」


 パチパチパチパチ


 私はちょっと涙ぐみながら

「本当にありがとうございました。ここまでやって来れたのも皆さんのお陰です」


 パチパチパチパチ


 こうして、ファミレスを後にした。丸一年間良く働いた。お陰で百万近いお金も溜まった。裕也と塾にも行ける。振り返るとファミレスの窓から近藤さんが手を振っていた。



 次の日の朝、祐也と一緒に登校しながら

「祐也、昨日でバイト終わったよ」

「お疲れ様」

「これで来週月曜から祐也と一緒に塾に行けるね」

「うん、俺も楽しみにしている」

「ねえ、この土日は、藤原さんとのデート入ってないよね」

「入っていない。それにデートって程じゃないよ。言われたから会っているだけって感じ。向こうは知らないけど」

「そうかぁ。じゃあ、また土曜日は朝から祐也の所行ってもいいでしょ」

「ああ、問題ない」



 美琴は土曜日、いつもの様に午前八時には俺のベッドに潜り込んで来た。そしてまたブラだけ外して俺に体をくっ付けてくる。俺だって男なのに。


「祐也、祐也」

「うん?」

「何でもない」


 えへへっ、今日は思い切り祐也の体の上に乗って抱き着いている。私のアプローチと彼の我慢、どっちが持つかな?祐也負けてもいいんだよ。


ビチッ!


 デコピンされた。

「痛!何するの祐也」

「美琴、今変な事考えていただろう」

「えっ、何にも」

「嘘つけ。こうしてやる」


 体がひっくり返って、私が下になった。裕也が私の顔をじっと見ながら

「美琴、お願いだからちょっと待て。俺だって抱きたいよ。こんなに素敵な美琴なんだもの。

でもそれしたら、俺は自分の欲求にしか動けない駄目な男になってしまう。だから待ってくれ」

「それって、待てば私の事抱いてくれるの。私を選んだって事になるの?」

「そうしたいけど…」


 川辺で藤原さんと散歩していた時、彼女は

『祐也さん、私はあなたと結ばれる事なら何でもします。私は大学卒業後、中務佳織になります。でも夫は中務祐也と決めています。他に選択肢はありません。

今心の中に少しいる方と在学中は何をしても問題視しません。でもその方をお抱きになるなら私も貴方の腕の中に居たいです』


 また思い切り顔を赤くしながら、でも下を向かずに俺の顔を思い切り正面から見ながら言っていた。返す言葉が無かった。


 強い。ここまで自分の運命を理解して自分の心の中をはっきり言って来る人は初めて会った。太刀打ちできないかも知れない。


 あの時はそんな思いが頭の中をよぎった。


「祐也、どうしたの?」

「あっ、いや何でもない。ちょっと思い出した事が有って」

「思い出した事?」

「何でもない、俺だけの問題だ」


 祐也は何か隠している。私に言えない事を。多分藤原さんの事。でも私から何も聞く訳にはいかない。裕也には私の心をぶつけて、戻って来て貰うしかない。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。




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