変化の訪れ
俺と美琴が一緒に登校していると
「祐也、バイト先の事なんだけど」
「うん?」
「今度、祐也の代りに厨房に入って来た人見て私驚いちゃった。だってちょっとした仕草の時に見せる横顔とか祐也にそっくりなんだもの」
「へーっ、それはまた。奇特な人が居たもんだな」
「でも、祐也が居なくなったし、お父さんも何とかサラリーマン出来ている。お母さんも仕事先見つかったから、もう止めようとしていたけど、どうしようかなと思って」
「どういう事?」
「だって、祐也似だったらバイト先でも祐也と一緒に居る気分になれる」
「美琴の好きにすれば。塾の方は、秋コースの後期分ならまだ空きがあるって言ってよ」
「それなら、後期分始まるまでバイト続けて終りにしようかな。今度の金曜日にコースの申し込み一緒に行って」
「分かった。それでいいんじゃない」
俺はこの時、この話を聞き流していた。
この日はまだ火曜日。放課後、祐也は塾に、私はバイトに来ていた。今度入った近藤さんを配膳カウンタから見ると、まだ皿洗い中だ。
裕也も入った時はそうだった。ちょっとした仕草が本当に祐也に似ている。裕也と一緒にバイトしているみたいで嬉しい。
「友坂さん、どうしたの?近藤君見て、嬉しそうな顔をしているけど」
「えっ、そんな事無いですけど」
「そう、葛城君は元気?」
「柏木さんには、どうでもいい事です」
私は、柏木さんが今でも祐也の事を気にするのは、下心があるからだと思っている。だから私の頭の中では、柏木さんはエネミーの位置付けだ。だれが祐也の事なんか教えてあげるもんですか。
あら、嫌われたものね。親切心で言ってあげているだけなのに。それにしても友坂さんの近藤君を見る目は葛城君を見る目と同じ。あの二人上手くいっているのかしら?
バイトも終りの時間になって事務室を通って着替え室に行こうとすると
「友坂さん」
「はい」
「あの、今度、話でも出来ませんか?」
「えっ?済みません。今急いでいるので」
私は直ぐに着替え室に入った。どういうつもりなんだろう。バイト仲間だからって言って、そんな事に誘うかな?
次の日も近藤さんは声を掛けて来た。バイト仲間だから無下にする訳にもいかず
「今度、時間有りましたら」
あくまで、社交辞令程度の返事だ。ところが翌日木曜日に
「あの、友坂さん、もし良かったら今度の土曜日、お会い出来ませんか?」
「済みません。そういう気は全く無いので」
厨房の先輩達から聞いていないのかな。私が彼、今は友達ポジだけど、好きな人が居るってこと。私は、着替えるとそのままバイト先を後にした。
うーん、可愛いから声を掛けただけなのに。何でこんなに嫌われないといけないんだ?
「どうした近藤。毎日の様に友坂さんに声を掛けているけど?」
「あっ、先輩。友坂さんって可愛いし、ちょっと位話せないかなと思ったんですけど」
「そりゃ無理だよ。彼女、彼氏いるし。そう言えばお前葛城に似ているな」
「葛城?」
「ああ、お前の前に居た厨房担当だ」
「そうなんですか」
似ているならチャンス有るかも。
私は金曜日の放課後、祐也と一緒に祐也が通っている塾に行った。裕也と同じ秋コースの後期に入る事が出来た。塾代は自分がバイトして貯めておいたお金だ。やっぱりバイトをしておいて良かった。
「祐也、これで十月から一緒に塾に通える」
「良かったな美琴。十月中旬は中間考査が有るけど、少しはプラスになるんじゃないか?」
「うん、そうだね。楽しみにしている。バイトも後二週間頑張って稼がないと。ねえ、裕也、明日も明後日も会えるんでしょう」
「ああ、問題ない」
「じゃあ、いつもと同じ時間に行くね」
「分かった」
はぁ、俺の我慢どこまで続ける事が出来るのかな。不安になるよ。でもなぁ。
次の週、私はバイトに行くと帰り際にまた近藤君が声を掛けて来た。
「友坂さん、バイト今月いっぱいで辞めるんですって?」
「はい、情報が早いですね」
「ええ、先輩達が噂していたので。辞める前に一度でいいんです。会えないですか」
「駄目と言ったはずです」
「そうですか」
近藤君が肩を落として厨房に入って行った。無理な物は無理。私の心の中には裕也がいるんだもの。もう誤解される様な事は出来ない。
俺は、塾から戻ってお母さんと夕食を食べた後、ダイニングでのんびりしているとスマホが鳴った。藤原さんからだ。
『葛城です』
『佳織です。裕也さん、明日の土曜日空いていますか。もう二週間もお会いしていません。心が苦しいです』
『えっ、まだ二週間ですよ』
『また、そんな事を言うのですか。裕也さんは、私が嫌いなんですか?』
まただよ、この人。これ言えば折れると思っているのかな。でも仕方ないかぁ。
『そんな事ないと言っているじゃないですか』
『では、お会い出来ますね』
『分かりました』
『では、また三子玉で宜しいですか。明日は天気も良さそうなので川べりでも散歩しませんか?』
『良いですけど』
『では、また改札に午前十時に』
はぁ、また約束させられたよ。
「どうしたの?」
「藤原さんから電話で、また明日の土曜日会う事になった。ひと月に一回位でも良いと思うんだけど。何とかならないかなぁ」
「祐也は、藤原さんと会うのが嫌なの?」
「それなんだよ。藤原さんは、俺がマイナーな声出すとすぐにそれ言って来るんだ。別に嫌いじゃないから、つい言葉に乗せられて会う約束させられてしまう」
藤原さん、祐也の苦手な所を突いて来ているのね。人を見る目が早い事。
俺は、直ぐに美琴に電話した。
『美琴、明日急遽藤原さんと会う事になった』
『えっ?!でも明日と明後日は私と会う約束していたじゃない』
『ごめん、でも約束って程じゃ』
『祐也は私より藤原さんを選ぶの?』
『そんな風に言わないでくれよ。俺だって急すぎると思ったけど、美琴とはほとんど毎日会っているし、明日は駄目になったけど明後日は会えるだろう。
藤原さんは二週間ぶりだから会いたいって言って来たんだ。これは仕方ないかなと思って』
『でもう。ねえ祐也、明後日は絶対だよ』
『それは俺が約束する』
『ねえ、祐也。お願いがある』
『なに?』
『藤原さんと絶対にしないでよ。するなら私が先だよ』
『ブッ!美琴何を言うと思えば。俺はあの人とそういう事する気は全く無いから』
『ならいいんだけど』
俺は呆れながら美琴との話を切ったけど、そう言えば、美琴とはあれ以来だもんなぁ。俺も男子高校生だぞ。
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