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美琴のバイト


 私は次の日、いつもの様に午前八時には祐也の家に行って、祐也の部屋に入り、ベッドに潜り込んだ。


勿論、下着だけになって。ブラはもしかしたら祐也が外してくれるかもしれないという淡い期待で待っている。でも結局私が外して彼の体に思い切りくっ付ける。


 本音言えば祐也が我慢の限界に来て、私にしてくれることを願っているのだけど。昨日見た藤原さんという女性。容姿は明らかに私より上、生活レベルも違い過ぎる様だ。


 だから彼女に勝てる唯一の方法は、祐也が私に、昔の様にしてくれるように誘う事。その時は祐也が言っていた私を選んだという事になる。


 でも今日も優しく体を擦るだけだった。こうなったら、タオルケットに包まれた体を少し上に出し、


 チュッ!


「えっ?!」

「ふふっ、祐也の頬にキスしちゃった」

「どしたの?」

「なーんでもない」


 祐也は、私がキスしても当たり前と思っている。彼女は無理矢理するしかないんだろう。まだ私の方が有利だ。



 午前九時を過ぎて

「美琴、起きるか?」

「ねえ祐也、聞きたい事が有るんだけど?」

「なに?」

「昨日ね、うちに藤原特殊金属工業という会社の人が来て、うちの技術を買って自社の一事業部門にするとお父さんに言ったらしいの。

 お父さんは事業部長になるんだって。金丸の所からの融資も他の借入金も全部肩代わりしてくれるというのよ。

 祐也、藤原さんって人が、あなたに近付いてから半月も経たない内にそんな話っておかしくない?祐也何か知っている」

「いや、俺は何も知らない」

 この前藤原さんが言っていた事を行動に起こしたんだ。


「だからね。お父さん、収入は安定するし、生活も楽になる。だから私がバイトしなくてもいいと言って来た。裕也はどう思う?」

「その藤原何とかって会社が美琴の家の事業をきちんと組み込んで数か月経って回り始めたらいいんじゃないか。まだ口だけの話なんだろう?」

「うん、昨日来て昨日契約したなんて事無いと思うし。うん、そうする」



 夏休みが終わり、祐也はバイトを辞めた。薬丸マネージャや厨房の先輩達もとても残念がっていた。柏木さんの複雑な顔なんて知らない。どうせ碌でも無い事考えていたんでしょうけど。

その代り、学校の最寄り駅の近くの塾に通い始めた。

 

 うちの事業は、藤原特殊金属工業が買い取ってくれて、お父さんは、やった事のない、サラリーマン生活になった。本当にお父さん、やっていけるんだろうか?


 お母さんは、家の事業の経理をしていたけど、それもする事が無くなったので、どこかの会社に勤めると言っている。


 私はまだバイトをしている。不安で仕方ない。何十年もやって来た、家の事業を大きな会社が買ってくれたのはいいんだろうけど、いつも作業服を着ていたあのお父さんがネクタイ締めてスーツ着て出かける姿は、少し滑稽に感じる。本人はやる気満々みたいだけど。




 私、金丸時則。友坂家の事業に融資をしていた。畑違いだが、あそこが生産する製品は素人の私が見ても出来がいいと感じていた。


 だから、事業が軌道に乗れば、本格的に展開する事業基盤を追加投資してやっていこうと考えた。

 不動産事業は、余程人道に外れた事をしない限り、真面目にやっていれば安定した事業だ。

 だが、いつまでもそれでは変化がない。時代の流れという物もある。だから友坂さんの事業を見込んでいた。ところがだ。


いきなり藤原特殊金属工業から連絡が入って、友坂さんの所の事業を全て買い取る。融資した金は全て利息付きで返すと言って来た。

 

 まったくの寝耳に水だ。始めは何の事か分からなかった。あんな大きな一部上場企業が、まさか一介の町工場の事業を買い取って事業部として立ち上げるなんて。


 おかしいとは思うが、力の差は歴然だ。逆らえる訳も無く、友坂さんの事業を手放した。

金利を考えれば、銀行に入れておくよりは良かったが、本当に惜しい事をしたと思っている。


 真司は、美琴さんとは全く会えないでいる様だ。あの子も真司の金銭依存をもう少しで直してくれるところだったのに。


 今は、前から付き合っている、うちの資産目当ての女の子二人を取り換えながら遊んでいるみたいだ。


 私が死んで真司がこの事業を継いだ時、どの位この事業が持つんだろうか。美琴さんが真司の傍に居てくれれば良かったのだが。流石にそれは無理だったろうけど。融資の切れ目がうちの将来の切れ目にもなるか。




 俺は毎日、美琴と一緒に登校するが、帰り俺は塾に彼女はバイトに行っている。土日だけは、一緒に居て、学校で受けた授業の復習や翌週分の授業の予習をしている。


 今日も一緒に登校していると

「祐也、塾はどう?」

「どうって?」

「楽しい?」

「楽しくはないよ。でも嫌じゃない」

「私もバイト辞めて塾入ろうかな?」

「それは構わないだろうけど、秋のコースが始まっているから、途中から入る事って出来るのかな。一応聞いておくよ」

「うん、ありがとう」


 

 学校が終わると、駅まで一緒に行って、祐也はそのまま塾に私はバイトに行った。そして制服に着替えてホールに出ると、えっ?新しい人が入った様だ。


「友坂さん、紹介する。今度新しく入った近藤政臣こんどうまさとみ君だ。葛城君の代りに入って貰う事にした」

「近藤です。宜しくお願いします」

「友坂です。宜しくお願いします」

「近藤君は、厨房を担当して貰うけど、接点も多い。宜しく頼む」

「分かりました」


 私は、新しく入って来たお客様の相手をする為に直ぐにその場を離れたけど、ちょっと驚いた。背格好と顔が祐也にとても似ていたからだ。


 配膳カウンタに行くと近藤さんが厨房の中の先輩達から色々教わっている。そう言えば祐也が始めた時はそうだったな。


 近藤さんが、先輩が作った料理を配膳カウンタに持って来た。

「友坂さん、これお願いします」

「分かりました」


 私は、その後も普通にバイトをして家に帰ったけど、近藤さんの事が頭の隅に残っていた。 

 

―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。




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