友坂家の変化
後、一週間で夏休みも終わる。美琴とは、朝から一緒に居る。午前八時頃には、俺の部屋に来て、俺のベッドに潜り込み、一時間位俺の体にくっ付いている。何故かブラだけ取って。勿論あれはしないけど。そうした後、一緒に朝食を食べる。
美琴が来た時はまだお母さんがいるが、俺達が起きる時にはもう仕事に出かけている。朝食を食べ終わった後は、一緒に二学期の復習をしたり、問題集に載っている問題を一緒に解いたりしてお昼も一緒に食べて午後三時半位にバイトに出かける。
バイトでは、美琴はホールだが、配膳カウンタに料理を取りに来る時に目を合わせたりするとお互いが微笑むという感じだ。
そんな俺達を薬丸マネージャや厨房の先輩達が優しく見守っていてくれるという感じ。そしてバイトが終われば、美琴の家まで送って行って、俺は自分の家に帰る。そんな時間を過ごして来た。
家に帰ってお母さんと夕食を食べ終わった後、ダイニングに居るとスマホが鳴った。画面を見ると藤原さんからだ。
『葛城です』
『祐也さん、明日は時間有りませんか?』
明日は金曜日、バイトもない。
『時間はありますけど』
『では、会って頂けますか?』
『まあ、いいですけど』
『私と会うのが嫌なんですか。とても嫌われている声に聞こえますけど』
『そんな事は無いです。急だったので』
『そうですか。それでは、明日午前十時に渋山の西急ストリームの一階の玄関では如何でしょうか』
『分かりました』
『それでは、明日お待ちしております』
通話が終わるとお母さんが、
「祐也、藤原さん?」
「うん、明日会うことになった」
「そう」
美琴ちゃんと因りを戻そうと思った所で、藤原さんが現れた。裕也は美琴ちゃんとの間と家との関係に挟まれて悩むことになる。
藤原さんは、祐也と結婚するのが自分の運命と思っている。だから祐也には積極的に来るだろうし、美琴ちゃんも祐也を放したくなから午前八時には来て、何とかよりを戻そうとしている。
可哀想だけど、こればかりは祐也自身が決めないと後々後悔する事になる。
俺は、藤原さんと明日会う事を美琴に伝える為、一度部屋に戻った。スマホで電話すると直ぐに出た。
『祐也、私』
『美琴、明日の事なんだけど、藤原さんと会う事になった。午前十時に渋山の西急ストリームの入口で待合せる事になっている。また一日中だと思う。だから、明日は会えない』
『えっ!…分かった。明後日は良いよね』
『ああ、大丈夫だ』
祐也が明日藤原さんと会うと言っている。裕也といつも会えるようになったから、偶に他の人と会うのは仕方ないと思うけど、相手が相手だからあまり良い気持ちではない。そうだ、一度相手を見てみよう。どんな人と会っているか位知ってもいいはず。
翌日、午前十時二十分前に西急ストリームの入口に着いた。この時間だとまだそんなに人通りは多くない。
電車で来るなら、左側からだが、車で一階に着けたら右側から来る。どちらか分からないが、ここに居れば大丈夫だろう。
しばらくすると右側から歩いて来た。今日も車の様だ。
今日は、長い艶やかな髪はそのままに薄水色のブラウスに薄い茶系の膝下まであるスカートだ。白色のハイヒールを履いて、小さなクリーム色のバッグを肩から掛けている。外見だけならやはりお嬢様だ。
「おはようございます。裕也さん」
「おはようございます。藤原さん」
「今日は、お買物にお付き合いして下さい」
「分かりました」
私、友坂美琴。裕也から待合わせ場所と時間を聞いているから、午前十時十五分くらい前に待合せの場所に着いた。
最初、祐也は右を見たり左を見たりしていたけど、午前十時五分前になって右側をじっと見る様になった。人通りは多くないので見失う事はない。
そのまま見ていると一人の女性が祐也に声を掛けた。裕也が今日会う約束をしている藤原さんという人だろう。
私は藤原さんを見て息を止めた。背中の半分以上ある長い艶やかな髪、綺麗に揃えられている。大きな目にスッと通った鼻筋、プリンとした可愛い唇、凄く可愛くて綺麗な女性だ。そして来ている洋服に目が行った。
はっきり言って、私が手に届く様な洋服では無かった。素敵なブラウスと膝下スカート、白色のハイヒールにクリーム色の可愛いバッグ。
いったいどれくらいするのか分からない。私の来ている洋服と比較しても仕方ないけど、どうしようもない劣等感に襲われた。
祐也はあんなに素敵な人と会っている。でも祐也はお金なんかで人の価値は見ない人。まだ分からない。二人が歩き出したので私も付いて行く事にした。
「祐也さんは、こういう所に来る事はあるのですか?」
「全くないです。来ても意味無いですから」
「意味ない?」
「はい、俺にとって必要な物が置いてありません。洋服だって、小物だって、みんな家の近くか学校の近くで売っています。それにこんなに高い物なんて買えないですよ」
「ふふっ、良かった。裕也さんが、こういう所を歩いている姿想像出来ないですから。裕也さんは今の祐也さんのままでいて下さい」
いて下さいと言われても。言われなくったっているしかないよ。
「祐也さん、今日も手を繋ぎたいのですが宜しいですか」
「それは…」
「はい、握ってしまいました。考えている祐也さんが悪いんですよ」
「俺ですか?」
「はい」
あっ、藤原さんの方から手を握った。でも祐也は放さない。私も手くらい握るけど。何か面白くない。
その後も、二人はウィンドウショッピングをしながら西急ストリームの中に入っているショップを回っていた。
この二人の後を付いて行く事が馬鹿らしくなって来た。帰ろう。そう思った時だった。藤原さんがいきなり祐也の頬にキスをした。なんで?
祐也は恥ずかしそうにしながらキスされた頬を触っているだけだ。私だって、祐也と口付けくらいする、いやしていた。だからあんな事なんでも無い。でも…。
気が付くともう駅の方に歩いていた。来るんじゃなかった。別にどうって事ないデートだ。キスだって相手から強引にされたみたいだし。
そんな事なら私の方が祐也にべったりしている。肌だって合わせている。それなのに…何この気持ちの悪さは。
力なくトボトボ歩いて家の近くまで来ると大きな車が停まっていた。私は誰だろうと思いながら玄関から入り、そのまま自分の部屋に行った。車の主はどうも作業場にいる様だ。
部屋でも本を読みながら過ごしていると、やがて車が立ち去る音がした。一階に降りて行くとお父さんとお母さんが何やら話している。
「いいんですか。今は金丸さんの所から融資して貰っているじゃないですか。売り上げも段々伸びて来てているし」
「何を言っているんだ。あの藤原特殊金属工業だぞ。そこがうちの技術を見込んで会社の事業として組み入れたいと言っているんだ。
金丸さんからの融資も全て返してくれると言うんだ。それに私は事業部長になる。もう、客先でペコペコしなくても済むんだ。収入も安定する。良い事ずくめじゃないか」
お父さんは、こう言っているけど、あんな一部上場企業がうちの様な一介の町工場に目を付けるかしら。
この人の腕は確かだけど。それに金丸さんはこの人の技術を見込んで融資してくれているのに。
「お父さん、お母さん。何か有ったの?」
「美琴か。喜べ。うちは今度、藤原特殊金属工業の一事業部門として組み入れられる事になった。お父さんは事業部長だ。収入も安定する。もうバイトもしなくて良いぞ。あの真司とか言う奴の事も気にしなくて良い。良かったな美琴」
「えっ、藤原特殊金属工業?!」
藤原って。確か祐也が今日会っている人も藤原という名前だった。まさか、いくら何でも。
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