藤原佳織視点
私、藤原佳織。夏に入る前、いえもっと前から、私は中務の養女になるのだと言われていた。
我が藤原家は藤原四家の中でも最も栄えた北家の嫡流だ。私はこの藤原家を繁栄させる為の駒だと小さい頃から考えていた。だからお父様の言われた通りに私の身を処するのが当たり前と思っている。
私には兄と姉がいる。それぞれが藤原家の要職に就く事になっている。一番下の私は藤原家の職に就く事では無く、家の発展の為、中務との関係を強化にする事が私の役割と心得ている。
今回の件もお父様が中務の叔父様に声を掛けて約束された事。養女となった後の事は、私は何も知らないし、知る必要もない。
ただ家の為に身を捧げればいい。だから高校二年になっても男性という物には全く興味を持つことも無かった。
ところが、中務の叔父様から葛城家本流の女性と中務家の男性の間に男の子がいる。そしてその男の子は私が中務家に養女に入った後、婿養子として私の夫になる人だと聞いた。
お父様はその男の子が我が藤原家に仕えていた小山内という縁戚の琴吹と同じ高校だと言う事を聞いた。
琴吹とは年齢も同じで同年代の女の子が少なかったと事もあり、家の集まりの時に仲良くなり、今ではお互いを名前で呼ぶ関係になっていた。だから琴吹に電話でその男の子を知っているか聞いた。
そうしたらその琴吹の友達だと言うから驚いた。どういう男の子か聞こうと思ったが、変に勘違いされても困るから、琴吹にその人と会う事が出来ないかと聞いた所、今度プールに行く約束をしているという。
人前で体を晒すなど以ての外と思っていたけど、反(却)って本音が分かるかもしれないと思い、琴吹に私もプールに行きたいとお願いした。
会った結果は優しく、相手を思いやる気持ちがあり、恥ずかしがり屋だという事が分かった。
それから、その子は母親と一緒に中務の墓に眠る父親の墓参りに来るという。そこでお父様にお願いして会う事にして貰った。
会った時、とても驚いていたけど、二人だけで話したくて散歩に連れだし、私をどう思うか聞いた。
『綺麗でとても魅力的な女性に見えます。プールの時は活発で、今日はお嬢様風です。
強くて優しいけど、はっきりと自分の意思を明確に相手に伝える人かな。』
歯に衣を着せないストレートな内容だった。まだ物足りなさは有るけど、それはこれから知ってけばいい。
それより、私は男の人に初めて興味を持ってしまった。不思議な気持ちが心の中に沸いた。
だから別れた後、何故かもう一度会いたくなって、連絡をしたら直ぐに会う事が出来た。そして事故だったとはいえ、私は初めて自分の唇に男の人の唇を当ててしまった。想像もしてなかったけど、とても柔らかくて気持ちが良かった。
他の男性ではこうはいかない事は分かっている。だからご先祖様がもうこの人にしなさいという思し召しだと思った。
そしてその時、私は初めて自分の体をこの人に預けてもいいと思う気持ちが…。信じられなかった。私の心の急激な変化。分からない。
でも別れる時に出た言葉、『いつでも心構えは出来ております。』と言ってしまった。なんて事を言ったのだろうと顔が赤くなるのが分かった。そして私はそのまま迎えの車に乗った。
別れるとまた直ぐに会いたくなった。なんだろう、初めて経験するこの感情。私も女子高生。何かなんて分かっている。分からないのはなぜ私がこんな気持ちになってしまったかという事だ。
水着を着ていたとはいえ、あれだけ肌を合わせ、事故とはいえ、キスまでしてしまった。残るはあれだけ。でもそこまでの勇気はない。
もし祐也さんが望んだら別だけど、あの人は簡単に私に手を出してくるとは思えない。
友坂美琴という既に一時は恋人関係になった人もいる。だから私は考えなければならない。どうすれば祐也さんの心を掴み、私の夫になって貰えるかを。
そして、これは藤原、中務、葛城にとってとても重要な事。その鍵は祐也さんに有るのだから。
今、お父様に友坂家をどうするか考えて貰っている。金丸の融資を抜いて藤原の息のかかった関連会社の事業の枠組みに入れてしまえば、事業は絶対的に安定する。友坂美琴の生活もアルバイトなどしなくても問題なくなる、その上で彼女に相応しい男性が現れればいいだけの事。
祐也さんの血は中務の血をもう一度蘇らせ、葛城家と藤原家の三家の関係を強力する為に使われなければならない。町工場の娘に渡す訳にはいかない。
もうすぐ夏休みも終わります。もう一度祐也さんとお会いしたい。
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