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藤原さんからの連絡


 美琴とは元通りになった訳では無いが、翌金曜日は前と同じように二人で過ごした。お母さんは仕事に出かけているのでいない。


 美琴と楽しい時間を過ごしていると俺のスマホが鳴った。画面を見ると藤原さんだ。


『はい、葛城です』

『佳織です。今話せますか?』

『済みません。十分位してからこちらから掛けます』

『分かりました。お願いします』

 祐也さん、何をしているのかしら?


「美琴、実家に行った時にお爺ちゃんから会わされた人が掛けて来た。また後でいいか」

「でも、思い切り途中だよ」

「ごめん」


 俺は、急いで一度洋服を着ると美琴はベッドに入ったままに、一階に降りた。そして藤原さんに掛け直した。

『すみません』

『いいえ。裕也さん、急で申し訳ないのですが、明日か明後日お会いする時間有りますか?』

『明日か明後日ですか。うーん…』


 いきなり過ぎるけど、この前の事も有るしな。早めに片付けるか。美琴には後で説明するとして、

『明日でいいですよ』

『ありがとうございます。裕也さんのご自宅に伺っても良いですか?』

『いや、流石にそれは。何処か藤原さんの知っている駅とか場所とか有りますか?』

『それでは、三子玉の改札では如何でしょうか?』


『そこなら知っています。何時にしますか?』

『午前十時で如何でしょう。出来れば夕方まで一緒に居たいのですが。色々お話をしたくて』

『分かりました。それでは明日三子玉で午前十時に待っています』

『宜しくお願いします』


 私は一階に降りた祐也の電話の話を聞いていた。ドアを少し開ければ十分に聞こえる。明日午前十時に三子玉で会うって誰?あっ、祐也が戻って来た。


「祐也」

「美琴、ちょっと話をしないといけない事が有る」

「うん」

 美琴はベッドの中で、俺はベッドの縁に座ると


「俺がお父さんの実家に帰った時、お爺ちゃんが俺に人を紹介したんだ。その人の名前は藤原佳織。お父さんの実家、中務家の縁戚で藤原家北家嫡流の流れを汲む女の子だ」

 祐也がなんか凄い事言っている。


「その人が、明日か明後日会いたいって言って来て。面倒な事は早く終わらせようと思って明日会う事にした」

「祐也、その藤原北家って、あの平安時代の藤原北家?それに中務って、それも平安時代の帝からのお言葉を伝える凄い立場の人だよね。裕也のお父さんってそんな家の人だったの?」


「もう昔の話にしか聞こえないけど、その流れを汲む人達がいる。そんな感じの人達」

 私は、この時、心の中に大波が立ったような気がした。


「美琴、でも俺は俺だ。そんな事には関係したくないのが本音。…でもさぁ、何かよく考えると美琴が融資の関係であいつと会った時と逆転した感じだな。理由は違い過ぎるけど」

「……………」

「美琴?大丈夫。固まっているけど?」

「あっ、大丈夫」

「今日は一日居れるし、明後日も一日居れるし、来週だってずっと一日居れるから」

「うん」


 祐也が優しく口付けをしてくれた。でも私の心の中は波立っている。



 俺は翌日、午前九時四十分に三子玉の改札にいた。少し早めだけど礼儀だから。改札の先を見ているけど全然出て来ない。もうすぐ午前十時になるのに。


「祐也さん」

「えっ?!」

いきなり後ろから声を掛けられた。


「藤原さん」

「そんなに驚かないで下さい。お会いする約束はしていたでしょう」

「でも改札から来なかったので」

「はい、車で送って貰いました」

「そうですか」


 改めて藤原さんを見ると白いフリルが付いた半袖のブラウスに爽やかな花柄のロングスカート。白いハイヒールのサンダルだ。それに薄緑色の小さなバッグを肩から掛けている。


 色白の肌はそのままに艶やかな髪の毛が腰近くまで有り、少しお化粧をしているのかとても綺麗だ。周りの人も横目で見ているのが良く分かる。


「祐也さん、向こうの二階のフロアに外の見える素敵なカフェがあります。いかがですか?」

「はい」

 なんか押されているな。


「あの、藤原さん」

「はい?」

「その、俺の名前呼びって…」

「良いでは有りませんか。裕也さんと私は約束された仲のなのです。名前で呼ばない方が可笑しいですよ。裕也さんも私を佳織と呼んで下さい」

「いや、それは」

「では、慣れるまで待ちましょう。でも手を繋ぐのは許してください」

「……………」

 押されっぱなし。


 彼女の右手が俺の左手に手を掛けて来た。小さく細く柔らかい。俺と同じくらいの男を宙に飛ばした人とは思えない位だ。


「祐也さん、藤原流柔術は、自分の力を使う武術ではありません。相手の力を利用しているだけです。

こちらから攻撃する事は余程の事が無い限りしません。だから女性の護身術、嗜みです」


 嗜みと言われてもなぁ、それで男が宙に浮くか?


 こんな話をしながら歩いていても彼女への注目度が凄い。俺は恥ずかしくて堪らない。

「祐也さん、人目を気にする必要はありませんよ」


この人俺の心を読めるのか?

「ふふっ、読める訳ないです」


 やっぱり読めているじゃないか。


 目的のお店に着くと

「並んでいますね。待ちましょう」

「はい」


 でも十分もしない内に中に入れた。窓側の席は取れなかったけど、俺達の席からでも十分に外の景色を見る事が出来る。

 

 店員が、グラスに入った水とメニューを置いて行った。

「祐也さん、何になさいます?」

「俺は、ミルクアイスティでいいです」

「分かりました。私もそうしましょう」


 それからは、お互いの学校の事や友達の事を話した。もっと重い話でもするのかと思っていただけに気が抜けた感じ。



「祐也さんそろそろお腹が空いて来ました。裕也さん、いつも行く所に連れて行って下さい」

「えっ、でも」

「私はお嬢様では無いですよ。プールの時の事を思い出してください。売店の焼きそばもフランクフルトも人前で普通に食べます」

「分かりました」


 俺は、いつも行く〇ックに入る前に

「ここですけど」

「構いません」


 格好がどう見てもここに入る雰囲気じゃないんですけど。


 並んでいる時も思い切り注目された。そしてカウンタに行くと

「スイートカニフィレオのセットください」

「えっ?!」

 凄い慣れている。何だ、この違和感は?


「如何したんですか?裕也さんも注文して下さい」

「あっ、はい。おれはダブル肉厚のセットで」

「はい、料金は二つで…」

 普通に二人で自分の分を払った。何か俺の想像していた人と違う。もっとお嬢様かと思っていたんだけど。


 空いているテーブルに座って食べるのだけど、食べている雰囲気はやはりお嬢様だ。分からん。


「何をそんなに不思議な顔しているですか?」

「あっ、済みません。でも藤原さんのイメージがちょっと違って」

「ゆうやさんは、はっきり言いますね。でも家の事はともかく、祐也さんの前では一人の女の子です。ですからそういう目で私を見て下さい」

「はぁ」


 マックの中では休みは何をしているのかとか、趣味は何だとか二人で話した。ほとんど藤原さんが八、俺が二の内容だ。全然ボリューム感が違う。仕方ない事なんだけど。


 お昼も終わり〇ックの外に出ると

「お腹一杯ですね。公園にでも行ってゆっくしましょう」

「はい」


 〇ックから歩いて十分もしない所に人口の池とか東屋を作った池がる。俺が先に階段を降りる。ここは結構急で狭い。彼女ハイヒールだし、大丈夫かな。


「狭くて急だから気を付けて下さい」

「はい、あっ、手を繋いで」

「分かりました」


 俺が足元に注意しながら降りて行くと

「あっ!」

「えっ!」

 

 振り向いた時だった。彼女が足を上手く石に掛けられなかったのか…。


 ブチュ!


 なんと俺の唇に思い切り彼女の唇が…。俺は、彼女の体を支えようとして、胸を…掴む訳にはいかずそのまま背中に手を回してしまった。


 彼女の手というか腕は俺の肩を素通りしている。お陰で思い切り抱きしめた格好になってしまった。


これじゃあ、俺がキスした様な体勢だ。不味い。仕方なく俺は彼女肩まで手を持って行って体を離そうと思ったのだけど


 えっ、離れてくれない。ちょ、ちょっと。


 何とか離れたけど


「ふふっ、祐也さん、そんなに私の事を…。嬉しいです」

「いや、今のは事故で…」

「そういう事にしておきましょう」


 はぁ、周りの視線が痛い。何とか階段を降りると

「ちょっと待って下さい」


 そう言って、可愛いバッグからポケットティッシュを出すと俺の唇を拭いた。

「これで宜しいです」


 その後は、頭が冷静に慣れなくて結局藤原さんにリードされたまま、夕方を迎えてしまった。


 二人で改札まで行くと

「祐也さん、今日は本当に楽しかったです。裕也さんがもし私を…いつでも心構えは出来ております。それではこれで」


 少し顔を赤くして俯き加減に言うと、道路の方へ歩いて行った。ガードレールの傍に大きな黒い車が停まって、男の人が後ろドアの側に立っていた。


 なんか、生活感が有るのか無いのか。



 ふふふっ、男の方と始めて口付けをしてしまいました。初めてでしたけど、彼の唇は柔らく優しくしてくれました。でもあれは本当に事故だったんですよ。

 人となりも今日一日いて、大分分かりました。後は……。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。




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