お爺ちゃんに紹介された子
翌日、俺とお母さん、それにお爺ちゃんとお婆ちゃんで中務家のお墓があるお寺に行った。実家は仕えの者が居るからそのままだ。
坂を上がって正面に寺の建物があり、お墓は左側の端に大きく構えている。お盆の所為か、他にも墓参りに来ている人達が一杯いて、色々な所から線香の煙と匂いが漂っている。
お母さんは花を俺は線香を持って火をつけてから、バケツに水を汲んで中務家のお墓に歩いた。
お爺ちゃんとお婆ちゃんがいつも手入れしてくれているのか、とても綺麗だった。線香は、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さんに分割して渡した。
お母さんが、お花を植え替えるとお爺ちゃんが線香をお墓の前の線香を供える場所において膝を曲げて両手を合わせてお祈りしている。
何か思いが有るのか、少し長かった。その後、お婆ちゃん、お母さん、そして俺が線香をあげた。
やはりこうしてお父さんのお墓参りをすると胸にジーンと来るものが有る。俺が終わると皆で実家に戻った。
実家に戻って寛いでいると固定電話が鳴った。お婆ちゃんが出て少し話した後、
「お爺ちゃん、藤原さんが、もうすぐ着くそうです」
「そうか、少し早いが、構わないだろう」
それを聞いたお母さんが
「お義父さん、祐也に会いたいって言っている人って…」
「そうだ。藤原北家嫡流の流れを汲む子だ。中務家との繋がりは平安時代からだ。和香子さんの実家、葛城家は神武天皇からある由緒正しき家、中務家と葛城家の繋がりをより広くしっかりとさせる為に、藤原家からの声掛けも有って呼んでいる」
「お義父さん、それって…」
「もちろん、本人たち次第だ」
俺はお爺ちゃんとお母さんの話している事が全く理解出来なかった。何それって感じ。
居間で冷たいお茶を飲みながらお菓子を食べていると門の所に車が停まった音がした。
お爺ちゃんとお婆ちゃんが出迎えに行っている。
家に入って来たようだ。俺とお母さんはそのまま居間にいると入って来た。
俺はその顔を見た時……。声が出なかった。
真っ白な半袖のワンピース。艶やかな長い髪はそのままに、少しだけお化粧している様だ。この前プールに行った時より全然綺麗に見える。
「ふふふっ、何を驚かれているのです。この前会ったばかりでしょう」
「い、いや…」
「おや、二人は知り合いだったか?」
「はい、体を深く抱きしめた仲です」
「おう、なんともうそこまで」
お母さんが驚いている。これは不味い。
「ちょ、ちょっと待って、藤原さん。プールでウォータースライダー一緒に滑っただけでしょう」
「それでも私は祐也さんを後ろから思い切り抱きしめましたわ。四回も」
「はぁ、その言い方誤解されるから止めて」
お母さんが少し呆れた顔をしている。
「祐也、この前行ったプールに藤原さんも一緒に行ったの?」
「ああ、小山内の友達って事で俺と上野、それに小山内と一緒に来たのが藤原さん」
「初めまして、祐也さんのお母様。私、藤原佳織と申します。以後お見知りおきを」
「三人共立っていないで、座りなさい」
「はい、お爺様」
「どうだ、和香子さん。祐也はもう知っている様だから改めて紹介する事も無いが、この子が藤原北家の流れを汲む佳織ちゃんだ。容姿は勿論の事、頭も相当に良いぞ」
「お爺様、その話はここでは」
「そうだな」
「祐也さん、少し散歩しませんか?」
「いいですけど」
「お母さん、ちょっと行って来る」
「気を付けてね」
俺は藤原さんと一緒に実家の門を出ると
「驚いたよ。お爺ちゃんから会って欲しい人が居るって昨日言われて、今日会ってみれば君だったなんて」
「初めては失礼と思って琴吹に会えないかお願いしたら、プールに行く予定があると言われたので、一緒にさせて頂きました」
「あの時は俺が誰だか知っていて会ったの?」
「名前だけは。ただ人となりも知りたくて。もし全然合わない人だったら今日来ることが無駄になりますから」
「今日来たって事は?」
「はい、祐也さんとゆっくり二人で話せるかなと思いまして」
「そうですか」
実家の傍に流れている川の土手に沿って歩いた。暑いけど川沿いを緩く流れる風が爽やかで気持ちいい。
俺達は、あまり話さずにそのまま歩いた。
「祐也さん、私をどう思われます?」
「どう思われると言われても…。綺麗でとても魅力的な女性に見えます。プールの時は活発で、今日はお嬢様風です。
強くて優しいけど、はっきりと自分の意思を明確に相手に伝える人かな。プールの時、男達を投げ飛ばしたけど、あれは何?空手とか柔道とかじゃないですよね」
「はい、藤原流柔術です。護身用に小さい時から習いました。藤原の女の嗜みです」
「そ、そうなんですか」
俺なんて、喧嘩だって怖いのに。
「ふふっ、祐也さんは私が守ってあげます。安心して下さい。それよりそろそろ戻りましょうか。大分遠くに来てしまいました」
「そうですね」
やはり帰り道もあまり話さなかった。そもそも共通点がない。でも
「祐也さん、今は夏休みです。時間は一杯有ります。こんど二人で会いませんか?」
「いいですけど。ここからだと離れていますよね」
「私の家はこの辺では有りません。あなたに会う為に両親と一緒にここに来ているのです」
「そうなんですか」
なんか凄い事言っている。
「中務家と藤原家は平安時代から関係の有った家柄。中務の血を汲むあなたと藤原北家の血を汲む私が結婚するという事は、とても大切な事です。
そしてあなたのお母様、葛城和香子さんは神武天皇からある由緒正しき家柄。あなたはその血も受け継いでいるのです。中務と葛城の血を引く者。他には居ないお方です」
なんか凄い事言われている気がする。でも俺はその辺に一杯いる高二男子だぞ。
「そんな事言われても全然実感無いんだけど。俺はお母さんと二人暮らし。お父さんが亡くなってから、お母さんが女手一つで俺を育ててくれた。中務の実家や葛城の実家の事なんて普段は会話にも出ない。
それに君と俺が結婚なんて、俺達まだ十六だろう、そんな事先の先だよ。それに俺は…」
「友坂美琴さんの事ですね」
そこまで知っているのか。
「あの方のお家に融資している金丸不動産は、父親は業界でも筋を通す良い人ですが、でもそこまでの家です。
長男、真司が継げば終わります。ですが、友坂家を金丸家から切り離す事は簡単です。そして我が藤原家か中務家の関連会社が支えればいいだけの事。
美琴さんには不運でしたが、それは祐也さんに取っては幸運でした」
「俺が幸運?」
「はい、美琴さんにはいずれ相応しい方が現れます。それで良いでは有りませんか」
どういう意味なんだ?
「それより、少しお腹空きましたね。戻ってお昼を頂きましょう」
「はぁ?」
良く分からない人だ。
俺達が実家に戻るといつもの台所の傍の居間では無くて奥の広間に和膳が置かれ、その上には、驚くばかりの料理が並んでいた。
そして知らない男性と女性がいるが、顔を見て直ぐに分かった、藤原さんの両親だ。そっくりだ。
「佳織、話せたか?」
「はい、お父様。これからもっと祐也さんと懇親を深めれば良き仲に成れるかと」
「そうか、祐也君、どうかな佳織は?」
「素敵な方ですが、話が急すぎて」
「はははっ、それで良い。ゆっくりと二人で仲を進めてくれ」
「お父様、例の件は」
「大丈夫だ。何も問題ない」
「分かりました」
それから更に二時間位して藤原さんの家族が帰って行った。帰り際に佳織さんとスマホの連絡先も交換した。
そして夜、お母さんと二人きりになると
「今日の事ってどういう事。全然理解出来ないんだけど」
「私も、何となく予感はしていたんだけど。裕也達が出て行った後、お義父さんから飛んでも無い事を言われて」
「飛んでも無い事?」
「うん、今日来た藤原佳織さん、大学を卒業したらここ中務の養女になる。そして祐也を婿養子として招きたいと言うのよ。
勿論、私は反対したけど、さっき戻って来た時の二人の様子を見るとね。それにまだ先の事だし。裕也の気持ち次第」
「俺は、お母さんの傍にいて、結婚しても一緒に住む予定だよ。ここに婿養子に入るなんてとんでもない話だよ」
「そう言ってくれると嬉しいわ。でもね、祐也、こんな事言いたくないけど、あなたは中務の血と葛城の血を引いている男子なの。ここが重要なの。
小学校の頃、祐也を中務の家に欲しいと言われた時は猛反対したわ。そして私が育てた。裕福な事は出来なかったけど、貧しい思いもさせていないつもり。
だけど祐也が大学を出て社会人になった時は、もう祐也が自分の人生を決めるべき。お母さんの元から離れても、お母さんは寂しくないわ」
「お母さん……」
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文中の出てくる藤原北家嫡流と葛城家は実在する藤原北家嫡流様と葛城家様とは一切関係がございません。
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