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久しぶりのお父さんの実家


 俺は、上野や小山内達とプールに行った後も、バイトと勉強を続けた。夏休みの宿題はもう終わっているので、本屋で買った問題集と二学期に受ける授業の予習だ。問題集はまだ受験勉強という訳はなく、二年生までの知識の補強という感じだ。


 バイトには美琴も来ている。元気なさそうだけど、あいつと会っているんじゃないのか。上手く行っていないのかな?


なんでまだ気にしているのかと思うが、今だって心の底ではあいつの事を…いや考えるのは止めよう。


引き摺っても自分がみじめになるだけだ。でもどこかで諦めきれない自分がいる。やっぱりもう一度話した方が良いのだろうか?




私は、祐也が八月一杯でここのバイトを辞める事を薬丸マネージャから聞いた。聞かれた理由は簡単だ。私も祐也と一緒に辞めると思ったらしい。一緒に始めたのだからそう思われるのは当たり前だ。


でも、私は辞めないと言ったらほっとした顔をしていたので良かった。でも祐也がここのバイトも止めたら本当に彼との繋がりが切れてしまいそうな気がする。

もう一度話したいという気持ちで一杯だ。でも祐也は私を避けている。どうすればいいんだろう。



夏休みも十日を過ぎた時、お母さんが

「祐也、お父さんの実家には、お墓参りも兼ねて十三日に行くから、帰って来るのは翌日にしようかと思ったけど、お爺ちゃん達の事を考えると、帰るのは十五日にしようと思っている。どうかな?」

「お母さんが良いなら俺は問題ないよ」

「分かったわ。向こうにもそう伝えておく」




 今日もバイトに来ている。祐也に話しかけたいけど、彼は厨房の中、私はホール担当だから、声を掛ける事も出来ない。


 だから、薬丸マネージャにお願いして、いつもより十分だけ早く上がらせて貰った。そして外で待った。



 祐也が出て来た。

「祐也」

「…美琴か」


「祐也、…話したい。あなたと話したいの」

「俺と話したい?何故だ?」

「それは…。お願い、話をさせて」

「あいつと付き合っているんじゃないのか。今度は逆の立場になるのか俺は?」

「もう、あいつとは食事に行った時が最後。あれ以来会っていない。電話もブロックした」


「でも、小山内と美琴が会った時、あいつも一緒に居たんじゃないのか?」

「あれは…、あれは小山内さんがまだ一緒に居る時に祐也から電話が有って話をしている時にいきなり声を掛けられただけ。

 本当は、祐也に誤解されたままだから小山内さんと一緒に祐也に会いに行こうと思ったんだけど、彼女その後用事が有るとか言って、一緒に行けなかった」

「何で一人で来なかったんだな。その後直ぐに来れば、あいつと会っていた訳じゃないとまだ言い訳できたんじゃないのか?」

「そ、それは…」


小山内さん、この前プールで会った時何も言わなかったけど、あの時はそんな事話す状況じゃないから仕方ないか。


「でも、その後、小山内から俺に電話かけて貰っても良かったのに」

「ごめん、そこまで頭が回らなくて」

「そうか」

 どう考えればいいんだ。美琴が嘘をついている様には見えない。


「美琴、今日は駄目だが十六日、いや十七日の午前中なら空いている。その時なら話せるけど」

 十五日に実家から帰って来て翌日午前中は厳しいからな。


「ほんと!じゃあ祐也のとこ行っていい?」

「うーん。…取敢えず来て」

 どういう意味だろう?




 俺は十三日の朝、お母さんと一緒にお父さんの実家に行った。電車で一時間位かけて、駅からタクシーで十五分位。田舎という訳では無いけどやはり二十三区からすると緑がとても多い。


 実家に着くと、着く時間を言ってあったからお爺ちゃんとお婆ちゃんが出迎えてくれた。


二人から少し後ろに離れて仕えの者が三人いる。俺が最後にここに来たのは小学校六年の時、お父さんが亡くなった翌年だから五年いや六年ぶりか。


「お義父さん、お義母さん。お久し振りです」

和香子わかこさん。久しぶりだな。隣に居るのは祐也か、随分立派になったものだ」

「お爺ちゃん、お婆ちゃん。久しぶりです」

「祐也、お婆ちゃん会いたかったよ」

「うん」

「取敢えず、家の中に入ろう」



 お父さんの実家、中務の家は大きい。二階建ての大きな母屋と二十三区内では充分に大きい戸建てレベルの別棟、それに納屋と蔵があり、門から実家の玄関までは、三十メートル位有って大きな池や手入れされた庭木が植えられている。


 玄関を上がると、そのまま廊下を十メートル位進んで右に在る部屋、そこに仏壇が置いてある。中務家代々の写真が壁の上の方に並んでいる。お父さんは一番最後だ。


 お爺ちゃんとお婆ちゃんが線香をあげて、次にお母さんと俺があげた。


 お爺ちゃんが、仏壇の中にも置いてあるお父さんの写真を見ながら

頼道よりみちが生きていたら、この家を継いでくれるはずだったんだが」

「お爺ちゃん、今更そんな事言っても仕方ないですよ。それより私が男の子一人しか産まなかったがいけないんです」


 なんか、難しい話をしている。


「まあ、とにかく居間に行くか」

「はい」



 居間に四人で入るとそれからお婆ちゃんとお母さんが台所に行って冷たい日本茶とお菓子を持って来て、大きな和膳に置いた。


「和香子さん、何日まで居れるんだ?」

「明後日には帰ろうと思っています」

「そうか、そんなに急いで帰らなくても。…もっと長く居れないか?」

「済みません。お義父さん」

「いや、仕方ない。あなたも色々あるのだろう。祐也だけでも長く居れないか。せめてもう一日だけでも」


 私はお義父さんの気持ちは痛いほど良く分かる。可愛い初孫だ。傍に置いておきたいのは当たり前だ。でも長居は悪い方向を招く。


「ごめんなさい。祐也も色々あるので」

 俺は、お爺ちゃんの気持ちも分かるけど、お母さんの気持ちの方が大切だ。だから


「お爺ちゃん、ごめん。夏休みは色々約束していて」

 本当は美琴の件以外は何も無いけど。


「そうか、仕方ないか。明日は、午前中に頼道の墓参りに行った後、祐也に会わせたい子がいる」

「俺ですか?」

 自分に指差して聞いてしまった。


「ああ、親戚筋の子だ。会ってくれ」

「分かりました」

 どういう事だ?


―――――

文中に出てくる中務家と実在の中務家とは全く関係がございません。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。



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