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先が見えない


―――――


 私は、渋山から電車に乗り、足取り重く、言葉で言うならまさにトボトボと歩いた。


小山内さんに一緒に行って貰って、行った二つの中華屋はとても混んでいて、証拠写真の撮り方は上手くなかったけど、それでも今祐也が心の中に有る私への疑いは少しは晴れるかと思った。


 今、祐也をここに呼べば、全てが明らかになる、私の言った事が信じて貰えると思った。


 でも、祐也に連絡した時、一番大事な時に、あいつが後ろから声を掛けて来た。

疫病神、疫病神、あいつは私にとってまさに疫病神だ。


 私と祐也を切ろうとする疫病神。


 悔しい、悔しい、本当に悔しい。私にもっと強く言える勇気が有ったら、家なんか考えない勇気が有ったら…。




 もう夏休みに入っている。バイトのシフトは変えていない。だからバイトの時間までは夏休みの宿題をやって、午後四時に間に合う様にファミレスに行った。


 祐也もシフトの時間は変えていないらしく、同じ時間に来ているけど、顔を合わせても何も言わない。

 そしてバイトが終わるとお互いに帰って行く。


去年まで、まさにあの件が無かった前だったら、朝から一緒に夏休みの宿題をして、七月中に終わらせて、八月は二人で遊ぶ事だけを考えていた。本当に楽しい時間だった。


 でも今年は、八月に入っても何も予定はない。あいつの連絡先はブロックした。お父さんが、何か言っている時があるが、全く声そのものを無視した。


 会いたい、祐也に会いたい。そして思い切り抱きしめて欲しい。




 俺は、お母さんとの話で九月から塾に行く事にした。前に夏休特別合宿を聞きに行った可愛塾だ。


受付のお姉さんに九月からの入塾をお願いすると入塾テストとかがあるというので、別の日にもう一度行って受けたけど、基本的な問題ばかりだった。


 どこのコースと聞かれたので国立難関コースと言うと、ふーんという顔をして、君ならいけそうだねとか意味の分からない事を言っていた。


 そんな理解出来ない会話の後、ファミレスの薬丸マネージャに受験に向けて頑張りたいのでバイトは八月までとお願いしたら、とても残念がっていた。言葉だけでもそう言ってくれると嬉しい。


 美琴は変わらず同じ時間に来て仕事をして帰る。顔を合わせても俺からは何も言わない。


あいつがいつも何か言いたそうな顔をしているが、もうお腹が一杯だ。八月一杯顔を合わせればもう会う事もない。学校以外では。



 八月に入り、何もする事なく月曜日から木曜日までの午後四時からのバイトをこなす。朝は、少し早く起きて、朝食を作る手伝いをして、夕食の材料を聞いて昼間の内にスーパーに行って買っておく。


 スーパーで美琴のお母さんと会った時、声を掛けられたがあいつも特に何も話してないのか、適当に挨拶するだけだった。


 昼食はコンビニ弁当は高いので、袋麺や乾麺を茹でて食べた。去年だったら美琴と一緒に何でも、本当に何でも二人でした。あいつの笑顔が可愛くて何をしても楽しかった。


 でもこれが時と共に変わる運命。逆らう事なんか出来なかった。俺がもう少し、いやもっと何か、あいつより力が有ったら。


 時間が有るといつも美琴の事を思い出す。自分で理解するしかない、…当たり前だよなって。俺には何も持っていないだから。


 だから、俺が出来るのは勉強して少しで良い大学に行って自分の力を付けることだ。そうすれば、今後一生を共にしようとした大切な人を他人に力だけで取られる事はない。



 八月も十日を過ぎた時、上野から連絡が有った。

『葛城、元気か?』

『ああ、なんとかな』

『そうか、連絡が遅くなったが、夏休み前に一緒にプールに行こうと言っていた件だけど、今度の金曜日十一日に行かないか?』

『金曜日か。問題ない。ところでもう一人って言っていた件だけど?』

『ああ、小山内の知合いだ。彼女曰く飛び切りの美人だそうだ。俺も見て無いけど当日の楽しみだそうだ』

『あははっ、そうか。楽しみにしている。ところで何時に何処に集合だ?』

『ああ、それは…』



 俺は、プールの事をお母さんに伝えると

「良かったじゃない。偶には思い切り遊んできなさい。気分転換になるわよ。そうそう、祐也」

「どうしたの?」

「今度のお盆なんだけど、…お父さんの実家から呼ばれているの」

「えっ、でも」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんがあなたに会いたがっているのよ。声を掛けられるなんて無かったから驚いたんだけど、断る理由も無いし」

「でも、もう実家に行かなくてもお墓参りだけでも良かったんじゃないの?」

「それは分かっているわ。でもお爺ちゃんもお婆ちゃんも年齢になった祐也の顔が見たいって言われて」

「お母さんは、大丈夫なの?」

「もうあんな事言われないと思うから」


 俺が小学校五年の時、交通事故でお父さんが亡くなった。通勤途中の事故で、他の通勤者も一杯いる中でお父さんだけがガードレールに挟まれて即死した。


 お父さんの実家は、俺を引き取って育てたいと言ったが、お母さんが収入がある事を理由に親権を取り、俺を女手一つで育ててくれた。


 お父さんの実家はその後も、声を掛けて来てお母さんと会う事も何も制限しない、その代り実家の名字、中務なかつかさを名乗って欲しい。その代償に二億円を出すと言って来た。


お母さんはお金で決めれる事では無いと言って、強くそれを否定し、お母さんの実家の名前葛城の名前で俺を育てた。


全て、後から聞いた話だ。だから今更お父さんの実家から声が掛かる事に違和感が有ったがお母さんが行くと言うなら俺はついて行くしかない。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。


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